原則アルバイト禁止だった学生時代に、部の「公認」で先輩の実家が営む工務店の建築現場にかり出されたことがある。
 朝から炎天下で建材を運ぶ力仕事はハードで、すぐに音を上げそうになった。


 現場の職人さんたちはみんな筋骨隆々で、野武士のような雰囲気を持った豪傑がそろっていた。重労働を涼しい顔でこなしている姿が格好良かった。


 「お兄さんたちはアメラグだって。あれは夏はやらないんだろ?」
 奥方が作ったと思われる〝ドカベン〟を、弁当箱の蓋になみなみと注いだ麦茶で流し込みながら、俳優の藤竜也さんに似た男前の大工さんが渋い声で聞いてきた。


 「今はオフですが、もうすぐ夏合宿が始まります。これが大変で…」とぼやいてみた。
 こちらの話をニコニコしながら聞いていた〝藤竜也さん〟曰く。「学生さんはいいな。しんどくても、好きなことができるのが一番」。何を甘えてんだ。目がそう言っていた。


 山本周五郎の著書「泣き言はいわない」にこんな一節がある。
 「弱さや欠点を持たない者はない。ただ自分に与えられた職に責任を感じ、その職能を果たすために努力するかしないか、というところに差ができてくるだけだ」


 梅雨が明けて夏本番。各チームは秋に向けて合宿練習に入る。ここでいかに鍛えるか。シーズンの成否を決める大事な時期である。


 泣き言を言わない。暑さに耐え、黙々とハードワークをこなす。我が身を振り返っても、これが実に難しい。
 思い悩む暇もなく、シーズンはあっという間にやってくる。(編集長・宍戸博昭)

【写真】山本周五郎著「泣き言はいわない」