取材対象の話を聞いて、事実を記事にまとめる。記者の仕事の基本である。それがいい話でも、そうではない場合も。


 スーパースターにインタビューするときは、周到な準備が必要だ。一流のアスリートや指導者は「人を見抜く眼力」を持っていて、取材者の不勉強を一瞬で見破ってしまうからだ。


 NFLのスーパーボウルで5度優勝、うち4度MVPに輝いたペイトリオッツのQBトム・ブレイディ選手がこのほどイベント参加のため来日し、日本メディアの質問に答えた。
 受け答えはとても滑らかで、「メディア対応の訓練をしっかり受けているな」という印象だった。


 ブレイディ選手は、2014年シーズンのプレーオフで、ボールの空気圧を故意に規定より低くしたとされる「疑惑」への関与を否定しているが、事実上〝クロ〟と判定され、昨シーズンはリーグが科した開幕から4試合の出場停止処分を受け入れた。
 滅多にない機会。あらためて関与を否定するだろうが、彼の生の声を聞きたかった。


 「代表質問」という形式の〝囲み取材〟では、こうした闇の部分に触れることはなかった。
 そうした質問が出た場合、質疑応答はすぐに打ち切られたかもしれない。せっかくのスター選手の来日。和やかなファンとの交流に水を差すのはいかがなものか、とも考える。


 「それは、とてもいい質問だ」と切り出されると、不思議なもので聞き手は取材対象が気持ちよく答えられる話題を選ぶようになる。


 ブレイディ選手の経験に基づいた苦労話や成功の秘訣は、とても説得力があった。
 「今回は、これでよかったのかな」。質問の機会を与えられなかったロートル記者は、そんな思いを抱きながら、熱気が残る会場を後にした。(編集長・宍戸博昭)

【写真】日本の選手やファンと交流したペイトリオッツのQBトム・ブレイディ選手=6月21日・有明コロシアム