関学と日大の定期戦の前夜、3月で関学職員を定年退職した伊角富三・元KGファイターズ監督を囲むささやかな会が神戸であった。
 何かと気にかけてくれるかつての敵将に「感謝」の気持ちを伝えるために、こちらからお誘いした。


 数年前に体調を崩して緊急入院した伊角さんだが、居酒屋で注文した揚げ物にマヨネーズをたっぷり付けてパクリ。「あー!」という同席者の声を無視して、白子ポン酢を一気に平らげ「こうせな、うまないやろ」。欲望に忠実なのは「武闘派」と呼ばれる人物の特徴でもある。


 「嫌われ者だった」という監督時代は「勝つためなら何でもした」と振り返る。チームきってのスターWRをDBで起用したら、前監督から「伊角さんは、絹のハンカチを雑巾のように使う」と、悲しそうに言われたそうだ。
 サイドラインから容赦なく飛んでくる辛辣な野次は、どんなに優秀なレシーバーより手ごわかった。元赤組DBの感想である。


 現在、関西学生連盟理事長の要職にある伊角さんの指導者としての原点は「王者の誇り」と「挑戦」だ。関西リーグでは当時最強の京大、甲子園ボウルでは東のライバル日大をいかに倒すかに腐心する日々だった。
 鳥内秀晃現監督に引き継いでからは、ディレクターという立場で長年チームを陰で支えてきた。


 大学世界選手権に出場している大学日本代表チームの団長としてメキシコのモンテレイに遠征している伊角さんは、6月1日に現地で66歳の誕生日を迎えた。
 「自分を育ててくれたフットボールに恩返ししたい」と話すかつての鬼監督は、やっぱり現場がよく似合う。


 神戸での食事会の別れ際、退職記念に作ったというキーホルダーを、ちょっぴり恥ずかしそうに手渡された。
 添えられた紙にはファンへのメッセージとともに、大きな文字で「感謝」と書かれていた。(編集長・宍戸博昭)

【写真】伊角さんの退職記念キーホルダー