7月に米オハイオ州カントンで開催されるアメリカンフットボールの第5回世界選手権に出場する日本代表の壮行会と記者会見が6月27日、富士通スタジアム川崎で開かれた。


 壮行会の前に開かれた記者会見には、森清之ヘッドコーチ(HC)とWR木下典明(オービック)、DL脇坂康生(パナソニック)ら主力5選手が出席。記者会見での決意表明と質疑応答の内容を採録した。


 森清之HC:大会は、中二日で3試合という非常に厳しい短期の日程で、対戦するのも相当タフな相手だと思う。初戦はアメリカになるだろうと思うが、アメリカのメンバーを見たところ、前回、前々回の大会と比べても、かなり大学時代の実績があるメンバーがそろっていて、なかなか簡単にはいかない大会になる。
 この条件の中で、少しでも勝つ確率が上がるような準備を今日、明日、それから現地に着いてからも何日か準備する期間があるので、キックオフの直前まで準備をし、試合終了のホイッスルが鳴るまで全力を尽くして戦いたいと考えている。


 チームジャパンは経験もあり、若いメンバーも、サイズやパワーのある選手が多く、メンバー的には非常に良い選手がそろっている。ただ、その持てる力をフルに発揮できるところまで準備万端かというと、まだまだプレーの精度を上げていく余地はある。
 幸いまだ時間があるので、最後の最後までしっかり準備をして、全力を尽くして良い試合ができるよう、そしてそれが良い結果につながるようなフットボールをしていきたいと考えている。


 WR木下典明: 僕は33歳で、今回が2回目の世界選手権。世界選手権の経験としては少ないが、この45人のチームの中では一番、外国人選手と戦ったことがある選手として、チームを引っ張って何とかアメリカを倒したい。


 OL荒井航平(LIXIL):私たちはアメリカと「いい試合」をするために行くわけではなく、倒すために行きます。そのことを選手一人一人が考えてやっている。皆さんの期待に応えられるように頑張りたい。


 RB李卓(慶大):自分は学生から一人だけ選出されて、一番年齢も若いので、学生らしく泥臭く精いっぱい頑張る。


 DL脇坂康生:(世界選手権には)過去4回出場した。毎回良いメンバーだったと思うが、森さんからもお話があったように、今回は若くて強くて速いメンバーがそろっているので、私もその中で一生懸命頑張りたい。


 LB竹内修平(富士通):私は、東海学生リーグの2部(日本福祉大)でアメフトを始めて、この舞台に立てること、そしていろいろな人に支えてもらったことに感謝したい。アメリカと対戦するには、チームとして修正点がまだかなり多いと思うが、最後まで自分たちのフットボールに集中して最後まで全力でやり切ることが大事。


 質疑応答の内容は次の通り。


 Q:アメリカの地でアメリカと戦うことの意味をどのように考えているか。


 森HC:フットボールをやっている人間にとって、カントンというのは「聖地」で、オハイオ州もフットボールが非常に盛んな土地で、一般の方でも非常に詳しい人が多い。日本でアメリカンフットボールをやっているということすら知らない人が大半。
 そういう場所でアメリカのチームと戦える。まったく関心すらないと思うが、そこで「一寸の虫にも五分の魂」ではないが、「日本でもこんなにフットボールをやっているんだ」ということを強烈に印象付けられたら、そんな痛快なことはないと思っている。


 木下:アメリカンフットボールはアメリカ発祥のスポーツだが、日本が聖地カントンでアメリカに勝つことによって、アメリカも世界選手権に対して「もう少し気持ちを入れなければいかんのではないか」という風にしたい。もっとレベルの高いアメリカ人選手とどんどん戦えるようにしていきたい。


 荒井:アメリカ代表にはプロ選手はいないが、木下さんが言ったように、我々が勝つことで「次回はもっと本気でやらなければいけないな」とアメリカに思わせるために、大事な大会だと思っている。絶対に勝ちたい。


 李:本場で、アメリカンフットボールでアメリカと試合をするというのは純粋に楽しみ。勝ってぎゃふんと言わせたい。


 脇坂:個人的な思いとしては、2007年に川崎で初めて世界大会に出てきたアメリカに非常に悔しい負け方をして、その悔しさでずっとフットボールを続けてきた。今度は逆の立場で、本場で何としても勝ちたい。一泡吹かせたい。


 竹内:日本が勝てば、アメリカの選手に対しても大きな意味を持つ。全力で戦いたい。


 Q、過去の大会では主将を指名してきたが今回はどうなっているのか。また、現地に入ってからの練習や調整が大事になるが、宿舎となるウォルシュ大学には7カ国すべてのチームが入ると聞いている。現地ではどういう練習、調整になるのか。


 森HC:主将はまだ決めていない。チームリーダーとしてはオフェンスは木下、小林(祐太郎、OL=富士通)、ディフェンスは脇坂と鈴木(將一郎、LB=富士通)の4名を指名した。
 今回は非常に良いメンバーがそれっているが、前回大会の古庄(直樹、LB=オービック)選手のような、強烈なリーダーシップを持ってチームをぐいぐい引っ張っていくという人材が少ない。皆がそれぞれにやるという状態。自然発生的に出てくれたらいいかなと思っている。


 現地に入ってから決定する可能性もあるし、このまま決めずにいくかもしれない。リーダーを決めることによって、チームの皆がそこに依存してしまうのでは困ってしまうし、今ここに集まっている選手たちは、どのレベルでどんなチームに行っても、幹部になれるリーダーシップや資質を持っている選手ばかりなので、全員が「自分がキャプテンだ。チームを引っ張るんだ」という気持ちでやってほしいと思っている。


 現地に入ってからの練習は、同じ大学内に4カ所フィールドがあって、7チームが時間をずらしながらそこを共有してやる形になる。フィールドはすごく良いフィールドで、広さも十分だが、当然周囲からフリーに見ることのできる状況なので、対策として体育館を借りた。
 幸い、他のチームは借りていない状況なので、ほぼ連日2時間ずつ押さえてある。見られて困るような練習、スペシャルプレーなどは体育館でやろうと思っている。現地に入ってから、ガツガツ当たるような激しい練習はしないが、細かい部分での手順の確認や、時差や長い移動でのコンディション調整も含めて、初戦までにいい状態に仕上げることを主眼にすることになる。


 Q、アメリカのホームでやるということで、当日のクラウドノイズも考えられると思うが、対策は。


 森HC:アメリカでの試合や、ヨーロッパでの試合は何度か経験しているが、むしろクラウドノイズからすると、ヨーロッパでお客さんが多数入った試合の方が大変。ヨーロッパの観客はサッカースタイルの応援で、鳴り物が非常に多いので。前回大会初戦は地元オーストリア戦だったが、東京ドームで満員になっている時よりもむしろノイズとしては上でした。手順を確認してやれれば、それほど心配はしていない。


 Q、対戦相手、特にアメリカに関する情報分析はどれくらい進んでいるのか。


 森HC:今回、日本のコーチングスタッフには米スタンフォード大の河田剛コーチがいる。河田コーチから、アメリカ代表コーチングスタッフのバックグラウンドを詳細に報告してもらった。少なくとも、各コーチがどういうフットボールをしてきたかということについては、試合のフィルムも含めて、だいぶ入手できた。とはいえ、どんなことをしてくるかというのは現地に行ってみないとわからない。


 選手個々についても、全員ではないが、(米カレッジフットボール最上位の)ディビジョン1Aで実績のある選手については、在籍当時の動画やどんなタイプの選手かという情報は入っている。
 前回、前々回に比べると格段にそのあたりは違っている。一番警戒しなければならないのはRB。陸軍士官学校と、サンディエゴ州立大のRBが、ともにFBタイプで非常に「人に強い」タイプの選手で厄介。彼らをきちんとタックルできるかが、ディフェンスはポイントになる。


 Q、ナショナルチームを率いる上で貫いている信念は。


 森HC:所属しているチームの中で、主力中の主力という選手の集まりなので、彼らが一番力を発揮できるようにしたい。「宝の持ち腐れ」にならないように考えている。
 いろいろな人が関わるチームというものは、いろいろなしがらみで、当たり前のことが当たり前にできなくて、結果として自滅してしまうということがあり得るので、当たり前のこと、平凡なことをきちんとやれるかということを意識している。
 自分個人としていえば、LIXILのヘッドコーチとしての仕事は完全に切り離して、百パーセント日本代表に集中するということを心がけている。


 Q、米国選手の動画や映像の資料もあるということだが、選手もフィルムスタディーをしているのか。


 森HC:こんな選手がいるとか、こんなプレーをしてくるというのも見せてはいるが、今回のチームが同じプレーをしてくるわけではない。さらに今回の資料は、プレーのハイライト的な、一番良いところばかりの活躍している映像が多い。
 相手を過小評価しては駄目だが、過大評価も良くないので、必要な部分だけをミーティングで見せるようにしている。


 Q、7月9日のアメリカ対メキシコ戦は選手全員で見ることになるのか。


 森HC:現地での試合はチーム全員で見るし、個々のポジションや選手にも、整理した映像データを視聴できるようにしてもらう。


 Q,アメリカは、現地時間6月28日から10日間連続のキャンプに入るということで、午前と午後でかなり長時間の練習を行うようだが。


 森HC:メンバーの実績ということでも前回、前々回よりも上だが、地元ということでいろいろ準備しやすい。移動も少ない、時差もない。チームとしての完成度も、今までに比べると相当に高くなると思われる。
 ホーキンス・ヘッドコーチはボイジー州立大やコロラド大時代の映像を見ても、とても多彩なプレーを準備してくる。いろいろな隊形を使うし、モーションも多いし、スペシャルプレーも好きなようだ。そこは、今までのアメリカ代表とは違う。
 今までのアメリカは準備期間や練習時間の問題で、シンプルなフットボールが多かった。日本代表のディフェンスは、先々週からいろいろな隊形についてのアジャストを練習しているし、陸軍士官学校のQBとRBなど、オプションオフェンスを経験している選手が多いので、そういうパッケージがあるかもしれないということで、その準備もしている。こちらのコーチサイドの準備量としても増えている。


 Q:日本代表のオフェンスのポイントは。また、二人のQBの使い分けは。


 森HC:オフェンスはいかにフィールドを広く使えるかということに尽きると思う。QBからランプレー感覚のスクリーンパスなどショートパスを投げることも多くなると思うが、その成功率がほぼ百パーセントにならなければいけないし、レシーバーがスペースのあるところで捕球して効果的にゲインしなければ、相手のディフェンスが広がってくれない。
 今回の日本代表のOLは若いがサイズもあってスキルが高い。私が関わるようになってからでは、完全に一つ抜けたレベルにあります。今回はインサイドのランも、ある程度勝負できる可能性がある。


 この二つが機能すると、オフェンスはある程度リズムができてくる。ここで苦戦するようだと、相当にオフェンスはきつくなると思う。
 QBは(高田鉄男=パナソニック、加藤翔平=LIXILの)二人とも持ち味があるので、今の段階では併用を想定している。ただ、現地に入ってから調子に差が出てしまったら、調子が良い方がメーンになる。


 Q、経験のある脇坂、木下両選手に。アメリカに勝つためのポイントは。


 木下:代表に選ばれたからといって、急に能力やスキルが上がるわけでもないので、アメリカ人と対峙した時のメンタル面を重視して、そういう話を他の選手に伝えている。
 今、日本のXリーグでは1チームで外国人選手が二人フィールドに立てるルールで、アメリカ人と戦う場面が増えてきてレベルが上がっているという部分もあると思うが、世界選手権で戦うのは、フィールドの11人全員がアメリカ人。
 日本人チームの中のアメリカ人選手2人をどうこうして戦うという次元の話ではない。そういう意識も一人一人が持って、意識を高めてアメリカにぶつからなければならない。


 脇坂:今回のアメリカは、これまでよりもかなりレベルの高い選手が出てくると思うが、アメリカンフットボールはデカいとか強いとかそういうメンバーがいるから試合に絶対勝つというものではないと思っている。
 日本の45人で力を合わせて、どこかで打開策を見つけてなんとかしたい。チーム一丸となってやっていきたい。


 Q、5大会連続の代表となった脇坂選手はチームにとってどんな存在か。


 森HC:今回脇坂選手を選んでいるのは、誰よりも経験があるからというわけではない。国際試合を多数戦ってきて、自分の経験に基づいた言葉をチームの皆に伝えられるという部分も理由としてはゼロではないが、私自身はそこはあまり意識していない。
 純粋に世界選手権で戦う中で、日本代表を選ぶとなって、上から戦力として順番に番号を付けていったら、そこに入っていたというシンプルな理由だ。

【写真】記者会見する日本代表の森HCと主力選手=撮影:Yosei Kozano