東京・新橋の雑居ビルに、行きつけのバーがある。オーナーのMさんとは、彼がホテルでチーフバーテンダーをしていた頃からの付き合いだから、かれこれ30年になる。


 Mさんとは不思議な縁がある。毎日鬼監督に怒られながらアメリカンフットボールに打ち込んでいた筆者の高校、大学時代、Mさんは下高井戸グラウンド近くの団地に住んでいた。
 「毎晩遅くまでエッホ、エッホやっていてうるさいし、土埃でベランダに干した洗濯物は汚れるし。大迷惑でしたよ」。彼は懐かしそうに、そう言って笑う。


 下高井戸という名称でおなじみだが、グラウンドの所在地は京王線の駅名と同じ桜上水である。
 今は全面人工芝になり、近隣の皆さんに迷惑をかけることもなくなったと聞く。建て替えで新築マンションに生まれ変わる団地に、Mさんはこの秋4年ぶりに戻るのだそうだ。


 「なんだかんだ言っても、あそこはいいところ。帰るのが楽しみ」。仮住まいで暮らしている間も、安眠妨害の原因だった「フェニックス」の動向は気になっていたという。
 「強いときも弱いときも、フェニックスは地元の誉れ。応援していた住民は多かったんじゃないかな」


 ゲール語で「隠れ家」を意味する看板を掲げた小さなバーのカウンター。お気に入りのスコッチを飲みながら、オーナーのバリトンボイスとパティ・ペイジの歌声が、耳に心地よく響く。(編集長・宍戸博昭)

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