「オーストラリア代表QBジャレッド・ステグマン」


 私がチームドクターを務めているウプサラ86ersは2016年シーズンを準優勝で終えました。このチームで今季私が一番印象に残っている選手やはり、エースQB、オーストラリア代表のジャレッド・ステグマン選手です。


 彼との出会いは、15年シーズンの開幕前の春でした。このシーズンで、チームは二人の外国人QBと契約しました。
 これは欧州の他のチームを見ても珍しいことです。一人はドイツ、フランスで優勝経験のあるベテランアメリカ人、そしてもう一人がステグマンでした。


 彼はオーストラリア代表の正QBとして、アメリカで開催される世界選手権に参加を予定していました。
 後でコーチに聞いたところ、とにかくけがをさせないように気を使った、とのことです。ステグマン選手はQBとWRの練習メニューをこなし、試合では主にWRとしてプレーしました。そして第2QBとして数試合で後半に86ersオフェンスを率いました。


 私は彼が慣れない土地で不安なく過ごせるよう、彼がスウェーデンに来た当初から密にコミュニケーションをとるようにしていました。
 1年目は痛みなどの訴えが多い選手でした。たぶん彼も大会前の海外でのプレーに神経質になっていたのでしょう。実際彼の肉体を見ると、筋肉は均整のとれた鍛え方がされており、特に、臀部、下半身の筋肉が非常によく鍛えられていました。


 彼はラグビーの本場オーストラリアでのラグビー経験があり、強靭な下半身とバランスを生かしたランは非常に強力でした。
 ただ、剛腕アメリカ人QBの陰に隠れて、パスに関してはあまり目立ったプレーヤーではありませんでした。


 アメリカでの世界選手権の開催中にも、現地の彼とメッセージのやり取りをし、彼とオーストラリア代表チームの状況や現地の雰囲気などを教えてもらいました。
 オーストラリア代表はフランスには完敗しましたが、韓国とブラジルには快勝しました。彼自身も素晴らしいパスとランをそれらの試合で披露していました。


 16年のシーズン、彼は86ersの正QBとして契約しました。2年目の彼はオーストラリアからパートナーを呼び寄せ、より精神的に安定しているように思えました。
 ただ、チームのシーズン前の準備は順調とは言えず、さらに開幕直前のヘッドコーチ解任という波乱の幕開けとなりました。


 86ersは開幕から連敗スタートとなりましたが、その後アメリカ人とオーストラリア人WRがチームにフィットして攻撃力が上がり、3試合目以降は優勝したカールスタッド・クルセダーズ以外のチームには全て勝利を収めるという素晴らしい結果となりました。


 彼は決して感情の起伏を態度に表すことなく、全てのプレーを落ち着いてこなしていました。要所でコントロールのいい長短のパス、そして自らのランで試合を支配しました。
 スウェーデンリーグでの勢いを秋のオーストラリア地域リーグでも維持して、チームを決勝に導きました。


 彼によると非公式ながら、来年の契約はすでに結んだとのことです。残念ながら日本のチームではないのですが、非常にエキサイティングなリーグの強豪チームです。
 ステグマン選手は現在27歳で、来年はキャリアのピークと言っていいでしょう。その強豪リーグで今年果たせなかった優勝をつかみ取ってほしいと思っております。


 ところで、スウェーデンリーグシーズン後の今年の秋、私は医療スタッフの一員として、ジュニア、シニア世代のスウェーデン代表に帯同しました。
 ポーランドとフィンランドへの海外遠征も経験しました。国の名誉をかけて青と黄色のスウェーデンカラーのユニフォームを着て戦う選手たちをサポートできたことは、私にとっても非常に大きな誇りとなりました。


 欧州各国の代表チームの実力ランキングは、フランスとドイツ、オーストリアがトップ3の強豪で、スウェーデンは一歩劣ります。
 スウェーデン代表の特徴としては、体格的に恵まれた選手が多く、移民が多いため選手の人種構成にも多様性があります。ほとんどの選手はスウェーデンリーグでプレーしていますが、エースQBは今年イタリアリーグでプレーし、フィンランドリーグでプレーする選手もいます。戦術と練習次第ではさらに強くなる余地がある代表チームです。
 今回の遠征ではフィンランドには敗れましたが、ポーランドには勝利しました。


 U―19代表チームは北欧選手権に参加し、3チーム(フィンランド、スウェーデン、デンマーク)中フィンランドに敗れ2位になりましたが、U―17代表はフィンランドとの親善試合をホームで快勝しました。
 また、数人の若い世代の有望選手がアメリカへこの冬飛び出して行きました。彼らの今後の活躍にも期待しております。


 ヘルシンキ遠征ではフィンランド駐在中の京都大学全盛期のOB若林正敏さんと1年ぶりの再会を果たしました。
 試合後にヘルシンキの町に一緒に繰り出し、再会を祝し盃を交しました。若林さんの京大、社会人時代の思い出話を聞きながら、遠い日本のアメフット界に思いを馳せました。


 いつの日か、日本代表とスウェーデン代表が国際試合で再び対戦し(過去2回世界選手権大会で対戦しております)、その時にスウェーデンチームの一員として私も参加することができたならば、これ以上の幸せはないと思っております。


 ウプサラ86ersのチームドクターという立場を通しての2シーズンにわたるリポートを読んでくださり、誠にありがとうございました。
 これからも日本のアメフット界を支える医療スタッフの方々や選手、コーチ、そしてファンの皆様と、さまざまな形で情報の交換、交流を続けていきたいと願っております。


 最後に、共同通信社記者の宍戸博昭さんにはご助言、サポートをいただき、心から感謝の意を表したいと思います。
 日本、世界のアメフット界のさらなる発展を祈り、筆を置きたいと思います。


 2016年12月27日 スウェーデン ウプサラにて 山本慎治拝


山本慎治プロフィル
日本、アメリカの病院の一般外科、臓器移植外科で勤務した後、2005年からスウェーデンに移住、現在はウプサラ大学病院移植外科に外科専門医として勤務。14年の第1回大学世界選手権の日本代表チームに帯同。その後、スウェーデンのアメフトトップリーグ「スーパーシリーズ」所属のクラブチーム 「Uppsala 86ers」のチームドクターを務めている。今年からスウェーデンアメフト協会のメディカルスタッフとして、各世代の男女スウェーデン代表チームに帯同している。

【写真】ウプサラ86ersのQBステグマン選手と筆者=写真提供・山本慎治さん