「リーグ戦終了、プレーオフへ」


 1998~2000年、私は米国マイアミ大学の関連病院に勤務していたのですが、今年8月末にそのマイアミを久しぶりに訪問、滞在しました。
 この街には、NFLのマイアミ・ドルフィンズと、NCAAの強豪マイアミ大学ハリケーンズがあり、98~00年のシーズンには試合を幾度か観戦しました。


 名QBダン・マリーノ選手のプレーや、超満員のオレンジボウルでのマイアミ大対ノートルダム大の試合観戦等は忘れられない思い出です。
 現在、そのオレンジボウルは解体され、跡地に、メジャーリーグベースボール(MLB)のマイアミ・マーリンズの最新ドームスタジアム、マーリンズパークが建設されました。今回、そこでイチロー選手のプレーを観戦しましたが、大きな時の流れを感じずにはいられませんでした。


 アメリカのスポーツニュースは、今年のフットボールシーズンの開幕を前に盛り上がっていました。そんな中、NFLの人気チーム、サンフランシスコ49ersのQBキャパニック選手が、人種差別や警官の暴力的行動への抗議の意味を込めてプレシーズンマッチでの国歌斉唱時に起立しなかったことが大きく報道されていました。


 キャパニック選手の行動に対して賛同する選手、異議を唱える元選手、チームの対応に不満を表明したサンフランシスコ警察、68年のメキシコ五輪の表彰式で拳を突き上げるパフォーマンス(ブラックパワー・サリュート)を行った選手の歓迎のコメント、大統領候補からの非難の声明などがありました。
 このようにキャパニック選手の行動は社会問題としても取り上げられており、控えQBとしての不安定な立場も含め、今後の動向が注目されます。
 ウプサラ86ersのアメリカ人コーチに意見を聞いたところ、QBとしての自分の職場に政治的なアピールを持ち込んだことに関して個人的には否定的であるとのことでした。


 アメリカでの国歌斉唱はMLBの試合前にも行われ、選手が整列し、観客も帽子を脱いで起立します。
 大きなスクリーンにはアメリカの旗や大自然、戦闘機の編隊などが映し出され、曲のクライマックスでは球場は愛国的な雰囲気で大いに盛り上がります。余談ですが、私が見た試合ではイチロー選手はその整列には加わっていませんでした。


 スウェーデンのアメリカンフットボールの試合開始前にも全選手、コーチが整列して、ヘルメットを脱いで胸に手を当てて国歌を斉唱します。また、試合中は国旗が掲揚されています。
 日本のライスボウルでも国歌斉唱は行われますし、スポーツの場で流される国歌に対して敬意を払うのは世界共通といっていいでしょう。


 9月に入り、アメリカの大学アメフト第一戦が先日開催されました。時を同じくして日本も大学アメフトとXリーグのシーズンが開幕しました。
 そのXリーグの強豪、アサヒビール・シルバースターのDB大森優斗選手が膝の手術を受けることを今年5月下旬に知りました。それは彼の今後のアメフト選手としての道が閉ざされることを意味していました。


 私は2年前、ウプサラで開催された大学世界選手権で彼と知り合いました。連載1回目で書きましたが、昨年大森選手のインターセプトタッチダウンという素晴らしいプレーをXリーグのネット中継で見て、私はアメフトへの想いを新たにすることができました。
 そして大森選手は1月のXリーグアワードで表彰を受け、これからの活躍が大いに期待されていました。私も大きなショックを受けましたが、ご本人の葛藤は私の想像をはるかに超えるものであったと推測いたします。大学選手権の最高責任者を務めたセーデルベリ会長にも大森選手の話を伝え、二人で回復を祈りました。


 今回、大森選手について書くにあたり、ご本人にあらためてコンタクトをとりました。以下は大森選手からのメッセージです。
 「スウェーデンではお世話になりました。私自身もあのインターセプトタッチダウンの試合後、雑誌の取材を受けるなど、非常に変化がありました。しかし、その日以降私のフットボールに取り組む姿勢や、フットボールにかける熱意等に変化はありません。今回の手術で、選手としての道は閉ざされましたが、アメフトへの想い、熱意は相変わらず十二分にありますので、治療後には、コーチでも何でも構わないので、アメフトに関わることができたらと考えております」


 大森さんのアメフトへの変わることのない熱い思いを教えていただき、私はさらなる感銘を受けました。大森さんを遠くスウェーデンからこれからもずっと応援していきたいと思っています。


 さて、我がウプサラ86ersの16年のスウェーデントップリーグでの戦いですが、7試合終了時で4勝3敗、8試合目に3位の座を争うティーレソー・ロイヤルクラウンズとアウェーで戦いました。
 この試合、常に優位に試合を進め大きな勝利をもぎ取りました。しかしながら、翌週の首位カールスタッド・クルセダーズとのアウェーでの試合は、前回の対戦同様攻守ともに劣勢で敗戦となりました。


 この試合中に、DLの選手が以前から痛めていた左アキレス腱の断裂という重傷を負いました。プレーオフ出場が絶望となったことが分かった巨漢の彼がグラウンドで見せた悔し涙が強く印象に残りました。
 後日、彼の手術が私の勤務する病院の整形外科で施行されましたが、執刀医の許可を得て手術室で彼のそばについていました。意識のある状態での手術だったので、彼がリラックスできるよういろいろ話をしました。手術は成功し、先日彼が歩く姿を見かけて安心しました。


 リーグ最終戦、ホームでのティーレソー・ロイヤルクラウンズ戦は、勝てば3位、負ければ4位というプレーオフを見据えると絶対負けられない戦いとなりました。
 両チーム実力を出し切った接戦でしたが、残り2分からのドライブ、逆転タッチダウンパスで86ersは劇的な勝利を収め、6勝4敗の3位でプレーオフを迎えることとなりました。


 この最終戦の後のセレモニーで、チームの主力選手が、長年の彼女にプロボーズするというサプライズがありました。
 私はセレモニーの写真撮影のため近い距離にいたので、彼らの人生の記念すべき瞬間を撮影することができました。その写真は地元の新聞のスポーツコーナーにも掲載されました。


 プレーオフ、準決勝の対戦カードは首位、全勝のカールスタッド・クルセダーズと4位ティーレソー・ロイヤルクラウンズ、そして2位のオーレブロ・ブラックナイツと3位ウプサラ86ersと決定しました。ウプサラとしては、決勝進出へ大きな可能性を残すこととなりました。


 充実した練習をこなし、勝利への確かなプランを持って、7月3日、アウェーのオーレブロに我々ウプサラ86Eersは乗り込みました。


山本慎治(やまもと・しんじ)プロフィル
 日本、アメリカの病院の一般外科、臓器移植外科で勤務した後、2005年からスウェーデンに移住、現在はウプサラ大学病院移植外科に外科専門医として勤務。14年の第1回大学世界選手権の日本代表チームに帯同。その後、スウェーデンのアメリカンフットボールトップリーグ「スーパーシリーズ」所属のクラブチーム 「Uppsala 86ers」のチームドクターを務めている。

【写真】86ersのオフェンス=写真提供・山本慎治