「シーズン開幕」


 2016年のスウェーデンアメリカンフットボールのトップリーグ、「スーパーシリーズ」は去年から2チームが減って、7チームが参加しています。全チームが10試合を行い、上位4チームがプレーオフで準決勝、決勝を行うという形式となりました。


 トップリーグに加盟するためには、テレビ中継可能な施設を持つ一定規模のスタジアム、一定の選手数の確保と高額なリーグへの加盟費用支払い等の条件があり、2チームがそれらの条件を満たすことができず、加盟継続を断念しました。


 ところで、外国人(インポート)プレーヤー、並びに外国人コーチやスタッフによる戦力補強は欧州の各チームの重要な戦略の一つです。
 今季のスウェーデントップリーグの7チーム中5チームの正QBはアメリカ人選手でした。経験豊富な外国人QBを出場させることで、チームの攻撃力は高いレベルで保たれるものの、自国出身QBのプレー機会が失われるという事実は指摘されています。


 私は日本では、ノジマ相模ライズ、元大学日本代表のQB荒木裕一朗選手に注目しているのですが、ライズは今年ミシガン大学出身のQBを獲得しました。
 荒木選手の秋の出場機会は限られてくると思いますが、トッププレーヤーとともに練習、行動することで得られる点も多いと思いますので、彼の今後のキャリアにおいて意義があると期待しています。


 今季のウプサラ86ersのインポートプレーヤーは、オーストラリア人のQBとWR、アメリカ人WRとDBの4人で、特にアメリカ人WRのミラーはミシガン大学でのプレーの経験もある期待の選手です。


 ドイツリーグ(GFL)日本人初のプレーヤーである「Jさん」こと鈴木惇也さんは、昨年秋スペインリーグのチームの小学生から社会人までの全てのカテゴリーのコーチに就任しました。
 スペインリーグにはインポートプレーヤーとしてアメリカ人、カナダ人、メキシコ人の選手らが在籍しており、彼らは下のカテゴリーのコーチも兼任します。


 また、スペインではメキシコの大学からコーチを呼んでクリニックを開いていて、優秀な選手はメキシコに渡りそこからNCAAにトランスファーする夢を見ているそうです。


 しかし残念ながら、Jさんのコーチ契約は途中で解除されました。その理由を彼に尋ねたところ「チームが弱すぎたため、コーチに給料を出すよりヨーロッパの優秀な選手を雇う方にシフトしました。それでもチームは低調なままで、インポート選手も結局全員辞めました。僕を解雇したコーチからはその後謝罪のメールが来ました」と教えてくれました。


 給与等に関しては、ドイツとスペインでは変わらず、スペインは食事付きで飛行機代も半額出してもらったのがいい点だった、とのことです。
 「ヨーロッパはチャレンジじゃないです。挑戦ではなく普通にやるって感じです。オファーがあるなら行っても面白いと思います」というのが彼の意見です。現在Jさんは日本で小学生のフラッグフットボールのコーチをされています。


 今回の連載の2回目でも触れたエピソードですが、86ersをシーズン前に退団したアメリカ人HCは、私と出会った初日に、30年前にアメリカで日本人コーチの同僚がいたと教えてくれました。
 彼の記憶をもとに「行岡正恭さん」のお名前を検索すると連絡先がわかったので、コンタクトをとり、その後二人の交流が再開されました。


 行岡さんは、大阪府立池田高校、同志社大学でアメフト部に所属し、大学時代にカリフォルニア州の大学にコーチ留学されています。
 その後、松下電工インパルス(現在のパナソニック・インパルス)でオフェンスガードとしてプレーし、1991年と94年にライスボウルに出場。94年には立命館大学を破って日本一となりました。
 翌95年はコーチとして出場し、98~99年には同志社大学でオフェンスラインのコーチも務められました。


 アメリカ人HCのおかげで、このような日本アメフト界で活躍された方と新たに交流する機会を得ることができました。
 私は日本にいた頃からアメフトが好きで、関西学生リーグ、甲子園ボウルなどを観戦していたのですが、そのような機会はありませんでした。しかしスウェーデンに移住後、大学日本代表の選手、コーチ、スタッフと行動をともにする機会を得て、その後、京大OBの若林正敏さん、行岡さん、Jさんと知り合うことができたのは感慨深いものがあります。


 開幕直前のHC交代という荒治療の後、86ersは4月16日に今季の初戦をアウェーで迎えました。
 対戦相手は昨年7位のリムハム・グリフィンズでした。試合は86ersが終始優勢に進めるも、7―6で敗れました。


 4月23日の今季2試合目は、昨年準優勝のオレブロ・ブラックナイツとアウェーで対戦しましたが、13―32という結果でした。
 開幕から連敗スタートで、プレーオフ進出に早くも黄信号がともりました。


 4月29日の今季3試合目、86ersの本拠地での開幕戦の相手は、昨年5位のSTUノースサイドブルズです。試合会場には455人のファンが集まりました。
 前半は21―25と4点差をつけられて終了、後半も攻撃のリズムは良くありませんでした。これは今日も厳しいなと思いつつ戦況を見ていたら、自陣でのサードダウン25ヤードの攻撃で、相手チームのDBがWRを突き飛ばして反則を取られました。
 このプレーで試合の流れが明らかに変わり、タッチダウンを決めて逆転、その後攻撃が安定して41―31で今季初勝利を収めました。


 この反則の場面で、WRはロングパスをキャッチできたとは思えず、もし反則がなければ、そのままペースが上がらず負けていたでしょう。
 86ersは相手チームの不用意な反則で文字どおり息を吹き返しました。そしてその時から、今季のリーグ優勝への真のチャレンジが始まったのです。


 試合の翌日、4月30日のウプサラは春の到来を祝うカーニバルで毎年盛り上がります。朝からシャンパンの乾杯で一日が始まり、午前は趣向を凝らしたイカダ下り大会、午後にはウプサラ大学の伝統的行事で大学図書館前の坂道が卒業生であふれかえります。


 2014年には大学日本代表チームも私の引率でこの行事を見学しました。屋外のバーでは音楽が流れ続け、夜には広場に積み上げられた木を燃やす行事を見て楽しみます。
 86ersもこの日は初勝利の喜びとともにこの祭りを楽しんだことでしょう。しかし、戦いの日々はこれからも続きます。


山本慎治(やまもと・しんじ)プロフィル
 日本、アメリカの病院の一般外科、臓器移植外科で勤務した後、2005年からスウェーデンに移住、現在はウプサラ大学病院移植外科に外科専門医として勤務。14年の第1回大学世界選手権の日本代表チームに帯同。その後、スウェーデンのアメリカンフットボールトップリーグ「スーパーシリーズ」所属のクラブチーム 「Uppsala 86ers」のチームドクターを務めている。

【写真】スペインリーグのチームで選手を指導する鈴木惇也さん=写真提供・鈴木惇也さん