ご無沙汰しております。昨年、スウェーデンのアメリカンフットボール事情と、ウプサラ86ersの戦いについてのコラムを連載した山本慎治です。私は2014年よりチームドクターとして86ersに帯同しております。


 15年のスウェーデンのトップリーグ「スーパーシリーズ」の準決勝で、86ersはカールスタッド・クルセダーズに0―43の大敗を喫してシーズンを終了しました。
 9月にウプサラで開催された決勝戦では、私はゲームドクターとして参加しました。この試合で、クルセダーズが勝利しリーグ6連覇を果たしました。


 前回の連載はこの言葉で締めました。
 「また何かヨーロッパ、スウェーデンのアメフト事情で興味深いことがありましたらご報告いたします。来年は決勝戦のサイドラインに、ゲームドクターではなくチームドクターとして立てることを願って筆をおきます」
 16年のシーズンが終わった今、今季を振り返るべく再び筆をとりました。


 昨年、ともに戦った86ersのシーズンが終了した後、私は燃え尽きたような気持ちになりました。もう来年はチームに帯同しなくていいか、とも思いました。
 そんな敗戦の翌日にネット観戦したXリーグ、LIXILディアーズ対アサヒビール・シルバースターの試合で、14年にウプサラで開催された大学世界選手権でも活躍したシルバースターのDB大森優斗選手が、鮮やかなパスインターセプトからの決勝タッチダウンを決めました。


 今でも記憶に刻まれている大森選手の渾身のプレーを見たことで、アメフトの面白さや興奮を再認識しました。そして、私がチームと一緒にいることが彼らのためになり、そして自分の喜びにもなるのならば、これからもアメフトに関わっていこう、そう思い直しました。


 アメフトという競技は北米と日本で盛んですが、それ以外の地域にも世界的な広がりを見せています。
 現在、国際アメフト連盟(International Fedration Of Americanfootball=IFAF)の加盟国は71カ国で、欧州の加盟国は33か国です。


 その欧州の加盟国のうちスウェーデン、フィンランド、デンマーク、オランダ、ドイツ、オーストリア、ポーランド、スペイン、イタリア、フランス、セルビア、スイス、トルコ等の国や地域でリーグ戦が開催されています。


 また「IFAF EUROPE」主催の数カ国の優勝チームによるヨーロッパチャンピオンズリーグも毎年開催されていて、昨年度の覇者は、スウェーデン王者のクルセダーズでした。
 そして、この欧州の地でも、日本人がアメフトと関わり、奮闘しています。


 昨年、オービック・シーガルズに所属していた池井勇輝選手がGFL(ドイツのトップリーグ)のベルリン・アドラーでプレーされました。
 チームの成績は芳しくなかったようですが、欧州屈指のハイレベルなリーグで、日本とは異なるアメフトをめぐる環境やプレースタイルを経験されたことは意義があったことでしょう。私は池井選手のリポートに刺激を受け、去年のコラムを書き始めました。


 その私のコラムがきっかけで、鈴木惇也さんとの交流が始まりました。彼は、シルバースター、IBM、そしてメキシコのチームとGFLのデュッセルドルフ・パンサーでプレーされた経歴をお持ちです。
 去年8月、彼から「僕はこの10月からスペインでコーチになることが決まりました。先生の活躍に感化されたのが大きいです。頑張りますのでこれからもよろしくお願いします」という嬉しいメッセージをいただきました。


 その後彼はスペインのレウス・インペリアルスのコーチに就任しました。鈴木さんからはさまざまな貴重な情報を提供していただきました。その情報をこれからのコラムで紹介していく予定です。


 さらにもう一人、若林正敏さんを紹介します。若林さんは京都大学で1986年と87年に日本一を経験され、卒業後にはサンスター・ファイニーズ(現在のエレコム神戸ファイニーズ)で社会人リーグの決勝戦を経験されております。
 また、甲子園ボウルのオフィシャルサイトによると、若林さんの44ヤードのフィールドゴール成功は大会記録です。昨年、赴任されているフィンランドで、若林さんはディビジョン3リーグのチーム、ポリ・ベアーズに選手として参加されました。


 昨年のシーズン、チームは優勝を果たし、今年から昇格したディビジョン2リーグの試合では若林さんは主にパンターとしてプレーされています。
 フィンランドのアメフトリーグは、トップリーグとその下部にディビジョン1、2、3と続きますので、ディビジョン2は上から3番目のレベルのリーグとなります。


 トップリーグにはスウェーデン代表クラスの選手を含む海外の有力プレーヤーも参加し、レベルの高い戦いを繰り広げています。リーグ優勝チームはチャンピオンズリーグに参加して、ヨーロッパ各国の強豪としのぎを削っています。


 2015年のスウェーデンリーグ決勝戦のほぼ1カ月後の10月3日、スウェーデン代表とフィンランド代表の定期戦、男女の2試合がスウェーデンの首都ストックホルムのオリンピックスタジアムで開催されました。
 この試合に私は、スウェーデンアメフト協会役員のセーデルベリ86ers会長の口添えを得て、医療スタッフとして参加しました。


 試合会場は1912年のストックホルムオリンピックのメイン会場として建築された歴史のある美しい競技場です。
 会場で代表チームの医療スタッフとスウェーデン協会役員の方々に挨拶して、今後も協会や代表のお手伝いも是非させていただきたいと希望を伝えました。


 女子の試合はフィンランドが大差で勝利しました。負傷したスウェーデン代表の女子選手の手当てをしていた時に、「あなたは日本人か?」と聞かれて、そうだと答えると、「私の父は日本人だ、私自身はあまり日本語が話せないけどね」などと会話が弾みました。日本人の血を引く選手がスウェーデン女子アメフト代表チームのランニングバックとして活躍していること知り、嬉しく思いました。
 男子の試合は両チームの実力が拮抗していて白熱の試合となり、フィンランドが接戦を制しました。86ersから選出された4人の代表選手もそれぞれの持ち味を発揮して頑張っていました。


 大きな負傷者もなく代表戦が終了して、選手との記念写真撮影を済ませ、清々しい気持ちでスタジアムを後にしました。
 この試合に若林さんはフィンランド代表の応援に来られていました。私達は爽やかな秋のストックホルムの町を一緒に歩き、レストランで会食しました。


 京大全盛期や甲子園ボウルの裏話、サンスターでの思い出話など、アメフトファンとして非常に興味深い話を聞かせていただきました。
 若林さんとは、大学選手権でウプサラに来られていた京大OBの板井征人コーチの紹介で知り合いました。あの選手権での日本代表や大会責任者でもあったセーデルベリ86ers会長との出会いが、この日の若林さんとの楽しい会食やオリンピックスタジアムでのスウェーデン代表チームの国際試合への帯同とつながりました。


 この素晴らしいスタジアムのサイドラインに再び立つこと、そして、スウェーデン代表と今後も関わっていくこと、その二つの希望をこの日、胸に持ちました。


 そして、その夢が、この7月にかないました。
 2016年7月9日、スウェーデントップリーグの決勝戦が、ストックホルムオリンピックスタジアムで開催されました。ウプサラ86ersはカールスタッド・クルセダーズと決勝を戦い、私はチームドクターとしてサイドラインに立ちました。
 去年の秋から、この決勝戦までの出来事などをこれからご報告していきたいと思っております。


山本慎治(やまもと・しんじ)プロフィル
 日本、米国の病院の一般外科、臓器移植外科で勤務した後、2005年からスウェーデンに移住。現在はウプサラ大学病院移植外科に外科専門医として勤務。14年の第1回アメリカンフットボール大学世界選手権の日本代表チームに帯同。その後、スウェーデンのアメリカンフットボールトップリーグ「スーパーシリーズ」所属のクラブチーム 「Uppsala 86ers」のチームドクターを務めている。 

【写真】スウェーデン代表チームの試合前の整列=写真提供・山本慎治