「99・81%」。NFLで2年連続スーパーボウル制覇を目指したニューイングランド・ペイトリオッツのキッカー、ゴストコウスキーのポイントアフターTD(以下PAT)のキック成功率である。
 逆に失敗率は0・19%で統計学的には棄却域の誤差の範疇である。まさに「神」の世界というべきであろうか。


 しかしその誤差はプレーオフでカンファレンスチャンピオンを決めるデンバー・ブロンコス戦で起こった。
 第1クオーター残り時間1分49秒、同点に追いつくはずの今シーズンから15ヤードからとなったPAT。それまで523本連続でPATを成功させていたゴストコウスキーが蹴ったボールはわずかに右に逸れる。最終的にこのキック失敗の1点が影響し2年連続スーパーボウル制覇の夢が絶たれた。


 2月のスーパーボウルでもフィールドゴール(以下FG)の失敗が試合の流れに大きく影響を及ぼす。第3クオーター10分54秒。6点差を追いかけるカロライナ・パンサーズの44ヤードFGトライは、ゴールポスト右ポールに当たり失敗。その後もレギュラーシーズンのようなリズムを最後まで作ることができないオフェンスチームの契機となってしまったようなプレーであった。


 日本でも、昨シーズンのチャンピオンを決めるボウルゲームでキックによって勝敗が決まった。甲子園ボウルでは残り試合時間3秒、早稲田大学の逆転を狙った52ヤードのFGトライ。ややカーブがかかった弾道は惜しくも左に逸れる。
 また、ライスボウルでも試合終了残り7秒、同点を狙った立命館大学の49ヤードのFGはわずかに右に逸れる。この時、相手のパナソニックの守備陣が12人いたことが、後日明らかになった。


 成功して当たり前のキックも、距離とシチュエーションによってはヒーローと賞賛される。しかし失敗した時のインパクトはそれ以上かもしれない。
 戦力均衡の中でキックのほとんどが試合の勝敗に影響する。キッカーはただ結果のみだけが評価されるポジションなのである。


 58ヤード。わが国のアメリカンフットボールにおけるFG日本記録である。現在はタイ記録であるが、僭越ながら筆者が所属したオンワードで1988年シーズンに残した記録である。
 その当時はゴールポストの幅は今よりも広く、また当時のグラウンド状況を鑑みてまだキックティーの使用も認められていた時代である。
 加えて強烈な追い風が吹く中でのトライは、今の選手のパフォーマンスから見ればとても自慢できるものではない。


 しかしキッカーとは、ゴールポストにボールを通過させることだけが仕事であり、その距離がたまたま58ヤードだけの話である。
 筆者がオンワード在籍時、幸いにして勝負を決めるキックは外さなかったように記憶する。それはそのポジションまでボールを運んできたオンフェンスに報いるため、失敗したらそのポジションでディフェンスをしなければならない心境を思えば決してミスは許されない。当然のことながら試合運びに影響するのは言うまでもない。


 フィールドに入った瞬間に、全てのことを忘れ練習でステレオタイプ化したフォームでゴールポストの方向に「真っ直ぐ蹴る」。それがキッカーの仕事=責任なのである。


 ▽そもそもフットボールとは
 フットボールと総称されるこれら一連の競技の歴史は定かではないが、これに近い競技がローマ帝国の時代に既に行われており、得点するために指定された相手陣地のゴールにボールを蹴り込む要素を含むさまざまなスポーツと意味されている。
 その後のルール化の流れによって、アソシエーションフットボール(以下サッカー)、ラグビーフットボール(以下ラグビー)、そしてアメリカンフットボール(以下フットボール)に分岐され現在に至る。


 その名の通りキック力含めた能力がチーム戦力に大きな影響を及ぼすことは言うまでもない。近年はそのキックを駆使するキッカーの重要性は高まるばかりである。そのキッカーこそ実は日本人がNFL入りできる最も可能性の高いポジションではないかと思う。


 わが国のサッカー人口における競技登録者は90万880人(2010年日本サッカー協会発表)とされ、1993年のJリーグ開幕を契機にその人口は増加している。
 その背景にはJリーグチームのスクールビジネスの強化も考えらえる。幼少期からサッカーに携われる環境が充実し親子でサッカー熱は高まるばかりである。


 今では多くの子どもたちが幼少期から専門的にボールを蹴ることを経験できる。サッカー日本代表への期待も高まる中で、そのレベルも年々に向上しているのは言うまでもなく、日本人選手たちは世界でも十分に通用している。


 テクニックはもちろんことながらキック力も決した引けを取らない。このような環境の中でおそらくNFLでキッカーとして通用する逸材はいるはずだ。その幼少期からゴールデンエイジでのサッカー経験はある意味フットボールのキッカーとして貴重な経験でもある。
 実は筆者もその一人であった。小学校から中学までは完全なサッカー少年だったが、深夜テレビで見たNFLに魅了され、急遽進路を変更してフットボール部のある高校に進学することになる。


 ▽最初に蹴ったフットボールはなぜ右に外れたか?
 高校入学早々フットボール部に入部。そして楕円形のボールを蹴る機会を与えられた。ゴールキーパーもいない真正面のゴールポストはとても広く映る。
 自信満々で蹴ったボールは「真っ直ぐ蹴る」ことができず、ゴールポストのわずかに右に外れた。この「真っ直ぐ蹴る」というテクニックこそキッカーに求められる唯一のテクニックである。
 私のキックに対する最も重要な考えであり本稿においても「真っ直ぐ蹴る」ことを重点に置いて話を進めていきたい。


 その時、飛距離も高さも十分すぎるくらいであった。当時はまだキックティーが使用可能だったため、ボールとともにキックティーも数ヤード飛んでいった。
 ボールよりキックティーに当たった感覚の方が記憶に残るぐらいだ。このキックから筆者のフットボール人生が始まる。もちろんその後ディフェンスポジションであるラインバッカー(以下LB)とパンターとの兼任となるが、その3役のリズムがルーティン化し、最終的にはいい結果に結び付いたともいえる。


 では、なぜ右に外れたのか? 完璧に蹴ったはずなのに…。
 まずは楕円形ボールの特徴を理解しなければならない。楕円形のフットボールはサッカーボールよりもボールのミートポイントの幅は狭い(イメージ図1参照)。 そしてキックティーの存在もある。現在は使用不可であるため深くは説明しないが、地面に接する円形ボールと地面から2インチ上に置かれ楕円形ボールのミートポイントの違いである。


 これまでのサッカー経験によってステレオタイプ化されたフォームがフットボールのミートポジションには対応しなかったのである。
 ボールをゴールポストの間を通過させるには、サッカーでいうセンタリングを上げるようなイメージがあったため、やや引っ掛けるイメージでキックした。


 その結果、キックする右足の軌道は地上より2インチ上に置かれた地点では既にフォロースルーで、ボールに対して既に左に起動(イメージ図2参照)し、サッカーボール比べてミートポイントの狭いフットボールをまともにミートすることができなかったため、やや“かすった”ボールは右の方向に逸れたのである。


 しかし、現在はキックティーの使用は不可とありこの疑問は少ないのではないかと思う。フットボールはミートポイントが狭く距離、角度に関係なく正確にミートさせることが重要である。
 当時はこの状況を把握できないまま自問自答を続ける。幸い恩師である監督の先生からの的確なアドバイスにより、キッカーとしてはある程度の成果を残せたと思う。コーチの存在は重要だ。(FG日本記録保持者、帝京大学経済学部経営学科スポーツ経営コース准教授・川上祐司)


 つづく

【写真】イメージ図1