「ディフェンスを制するものはフットボールを制す」との言葉は、今日のNFLでは必ずしも真実ではない。強力なパスオフェンスで圧倒的な得点力を持つチームがプレーオフに勝ち進むケースが多いからだ。
 しかし、2月7日(日本時間8日)に米カリフォルニア州サンタクララのリーバイススタジアムで行われた、第50回スーパーボウルで優勝したデンバー・ブロンコスの戦いぶりは、その古き言葉の説得力をあらためて思い知らせるに十分なものだった。


 リーグ1位のディフェンスはその実力を大舞台でもいかんなく発揮し、NFL最多の500得点を記録したカロライナ・パンサーズを今季最少点に抑え込み、24―10のスコアで、17年ぶり3度目のスーパーボウル優勝を果たした。
 現GMのジョン・エルウェー氏の現役最後となった1998~99年シーズン以来の優勝だ。ゲイリー・キュービアクHCは就任1年目での優勝であり、同一チームで選手、コーチとしてスーパーボウルに勝った初めての人物となった。


 この試合限りでの引退が噂される39歳のペイトン・マニングは自身4度目のスーパーボウルで2度目の優勝リング獲得。二つのチームを優勝に導いた史上初の先発QBとなった。
 ただし、この試合の主役はマニングではなくディフェンスだった。レギュラーシーズン中から大きな武器であったパスラッシュは最後までQBキャム・ニュートン率いる相手オフェンスにリズムを作らせなかった。


 OLBボン・ミラーはチームの計7サック中2・5回をマークし、ファンブル誘発も2回行って最優秀選手(MVP)に選出された。
 この2回のファンブルフォースは、ともにパンサーズ陣内深い位置でニュートンに対するものだった。


 一つ目はパンサーズの2度目のオフェンスシリーズで、ニュートンをサックするとともにボールをストリップ。エンドゾーンに転がったボールをマリック・ジャクソンが抑えて両チーム通じてこの試合最初のTDとなった。
 第4Q残り4分あまりでは、パスを投げようとするニュートンの右手からボールをたたき落としてターンオーバーとした。これが得点差を22―10とするTDにつながり、事実上試合を決めた。


 ミラーは終始スピードラッシュで圧倒した。パンサーズもOLをミラー側にシフトする隊形を使ったり、TEやFBでパスプロテクションを強化したりしたが、それをも上回るスピードでニュートンにプレッシャーをかけ続けた。


 「これが今シーズンの我々の戦い方だ。同じメンバーで、同じスタイルで戦ってきた。パンサーズは素晴らしいオフェンスを持っているが、我々がいつも通りにプレーしていれば勝てると信じていた」とミラーは語った。


 ニュートンにしてみれば、今季ここまで経験したことのない早さでポケットがしぼみ、レシーバーを探すことができなかった。
 トップターゲットのTEグレッグ・オルセンがブロック要員として使われることが多かったため、普段よりも多くWRを狙わなければいけなかったのも調子を狂わせた要因だ。


 時折見せるニュートンのランもオフェンスのカンフル剤とはなりえず、シーズン中にあれだけ自由奔放な強さを見せたパンサーズが文字通り借りてきた猫のようにおとなしくなってしまった。
 普段は笑顔を振りまき、スーパーマンを真似るTDセレブレーションなどで試合を楽しむニュートンだが、この試合に限ってはその姿は影を潜めた。


 スーパーボウル独特の雰囲気のせいか試合序盤のパスはコントロールが定まらず、追い上げる終盤は力みすぎてレシーバーがボールをはじいてしまう場面もあった。試合が進むにつれて気落ちしていくのがありありと見て取れた。


 今季リーグのMVPに輝き、チームリーダーとしての成長も見せたニュートンだが、スーパーボウルでは未熟さを露呈してしまった。
 ミラーに2度目のファンブルを誘発されたときのことだ。転がるボールをとっさに押さえようとしたが、ブロンコスの巨漢OLBデマーカス・ウェアがリカバーに向かうと体を引いてしまった。


 QBである以上、けがを避けるのは当然の責任だが、これは王座をかけたスーパーボウルだ。しかも、自ら犯したファンブルボールである。身をていしてリカバーに行く姿勢が欲しかった。
 そして、その直後のブロンコスの攻撃。スリーダウンで抑えたかと思われたが、味方の反則で再びファーストダウンを与えてしまった。このとき、テレビカメラはサイドラインでショックのあまりグラウンドに横たわってしまうニュートンの姿をとらえた。


 冷静沈着が求められるのがQBなのに、この態度はいただけない。試合後のインタビューにしてもそうだ。メディアのパンサーズらしくない戦いだったとの質問に「相手がいいプレーをした」、ロン・リベラHCがロッカールームで何を語ったかの問いには「たくさん」、ブロンコス守備にいつもと違う点があったかと聞かれても「何もない」とぶっきらぼうに短く答えるのみ。リーダーとしての資質が問われる姿が見られたのは残念だった。


 ちなみにリーグMVPのスーパーボウルでの戦績は芳しくない。21世紀においてスーパーボウルに出場したリーグMVPはニュートンで7人目だが、すべて敗戦を味わっている。
 パンサーズ優勢の戦前予想とは違い、ブロンコスがリードする展開で試合は進んだ。ブロンコスは今季オフェンスの中心に置いたランではなく、パスオフェンスで最初のドライブを始め、FGで3点を先制。第1Q中盤にはジャクソンのファンブルリカバーTDで10―0とリードを広げた。


 パンサーズは第2Qに反撃を開始する。ブロンコスのパーソナルファウルにも助けられてドライブを進め、RBジョナサン・スチュワートのTDランで3点差とした。ブロンコスはFGで再び加点して13―7とリードしてハーフタイムを迎えた。


 パンサーズは後半最初のドライブで得点機をつかむが、グラハム・ガノーの44ヤードのFGトライが右のアップライトにあたって失敗。その直後のブロンコスの攻撃でFGを許し、ツーポゼッションの差をつけられてしまう。


 両チームともディフェンスがよく、オフェンスのリズムがつかめない中で、パンサーズは第4QにようやくFGで得点を挙げて6点差に詰め寄るが、最後はニュートンのファンブルをきっかけにブロンコスがTDを奪い、2点コンバージョンも成功させて勝利をつかんだ。


 両チーム合計で4回のファンブルロスト、2インターセプト、12サック、18回の反則が起こる荒れた試合ではあったが、終始ディフェンスで主導権を握ったブロンコスが優位に試合を進めた。


 今後の注目はマニングの去就だ。それについて尋ねられたマニングは「あまりにも重大な決断なので、多くの人のアドバイスを仰ぎたい。今はこの勝利をみんなで分かち合い、ビールをたくさん飲みたいよ」と答えてはぐらかした。
 しかし、父で元NFL選手でもあるアーチー氏は「ペイトンはデンバーでやりきったと思う」と発言し、引退に傾いていることを示唆した。
 しばらくは祝勝ムードに浸り、休養を経て決断をすることになる。フリーエージェント交渉が解禁となる3月上旬までには去就が明らかになるだろう。(ジャパンタイムズ・生沢浩)


 〈ブロンコス・キュービアクHCの話〉
 このチームは私が就任する前から素晴らしいチームだった。私が来たことで変化をもたらすことにはなったが、選手がそれをよく理解してくれた。ディフェンスは我々の強みであることはわかっていた。


 〈パンサーズ・リベラHCの話〉
 この結果は大いに残念だ。チャンスはあった。それをつかむことができなかった。ブロンコスはディフェンスでいいプレーをし、オフェンスに得点機会を与えた。それが我々にはできなかった。それが違いだ。

【写真】試合後、健闘をたたえ合うブロンコスQBマニング(右)とパンサーズQBニュートン(AP=共同)