「ファイナル」


 スウェーデンのアメリカンフットボールのトップリーグ「スーパーシリーズ」セミファイナルの試合で、ウプサラ86ersはカールスタッド・クルセダーズに敵地で0―43の大敗を喫して、今シーズンを終了しました。


 私も大きな虚無感に襲われ、しばらくアメフトはいいか、そう敗戦当日は思いました。しかし、次の日には、ネットで関西学院大学対桃山学院大学とLIXILディアーズ対アサヒビールシルバースターの試合を2台のPCで同時に観戦しました。
 どちらの試合も興味深く観戦しましたが、特に後者は非常に見ごたえがありました。第4Q、昨年ウプサラの大学世界選手権で活躍したシルバースター#14DB大森優斗選手が、パスインターセプトからのタッチダウンを決めたシーンにはしびれました。「これだから、アメフトはやめられない」。そう思い直しました。


 個人的には、京都大学とシルバースターで活躍されたQB東海辰弥選手が好きな選手だったので、シルバースターの今季の躍進には心躍るものがあります。同時に、ウプサラに来た選手、スタッフすべてを応援しております。
 さらに、私が若いころ無敵と言ってよかった真紅の集団、日大フェニックスの日本一奪還への道にも注目しております。


 9月5日、決勝戦の前日、スウェーデンアメリカンフットボールリーグ主催のMVP授賞式がウプサラで開催され、私は招待客として参加しました。
 カールスタッドのマリック・ジャクソン・ヘッドコーチ(HC)はアメリカ人で、先週の試合前に談笑していたので、この日は「明日の試合、頑張ってください」と声をかけました。
 ポジション別のMVPで、86ersからは2選手が最優秀ランニングバックと最優秀ディフェンスバックに選ばれ表彰されました。

 9月6日、小雨の降る天候の下、第15回スーパーシリーズ決勝戦、カールスタッド・クルセダーズ対オーレブロ・ブラックナイツがウプサラで開催されました。
 スタジアムには両チームのサポーターが集結しました。86ersの選手は、会場の設営や試合運営スタッフとしてこの場にいました。私と、エバ・セーデルベリ医師が、この試合のゲームドクターとしてサイドラインに立ちました。


 実は今年の1月3日、去年の大学選手権でご縁ができて、東京ドームのライスボウルに裏方として参加しておりました。大学日本代表で活躍していた選手数人もこの日プレーしており、うれしい再会となりました。
 今年は日本とスウェーデンのアメフトの頂上決戦をお手伝いできるという幸運な年となりました。一つ言えるのは、ライスボウルは、アメリカ以外でのアメフトの試合としては特筆すべき運営や観客数のレベルであるということでしょう。


 3年連続同じカードの決勝戦。試合開始直後はオーレブロのランプレーがさえて、一時は3点リードを奪いました。しかし、カールスタッドの攻撃のリズムが上がってきて逆転し、前半を10―14で終了しました。
 ハーフタイムでは、KISSのコピーバンドが演奏を披露しました。


 後半、オーレブロのフィンランド代表のエースRBが負傷で戦列を離れました。オーレブロは極端なラン偏重のオフェンスをするチームで、前半、QBはパスを一度も投げていませんでした。
 そして、エースRBの離脱がこの試合の趨勢を決めてしまいました。調子を取り戻したカールスタッドのオフェンスが立て続けにタッチダウンを奪い、27-10となりました。オーレブロはパス攻撃も織り交ぜ始めたものの、パスの質が悪く、得点を挙げることができないまま試合が進みました。


 ゲームドクターとして対応した負傷選手も後半はオーレブロだけという状況となり、タッチダウンで一矢報いたものの、42-17というスコアで試合終了となり、カールスタッドの7連覇で今季が終了しました。オーレブロ側からジャクソンHCのゲータレードシャワーを見ることとなりました。


 試合後の表彰式を、選手やスタッフのみなさんの喜びをダイレクトに感じながら見ていました。ところで、米オハイオでの世界選手権でアメリカを優勝に導いた、ダン・ホーキンスHCが、大会後にカールスタッドのオフェンスコーディネーター(OC)として就任しておりました。
 彼は先週の試合では見かけなかったものの、この試合では厳しい表情でオフェンスを指揮していました。この数か月で、彼はアメリカ代表ではHCとして優勝、カールスタッドではOCとしてヨーロッパチャンピオンズリーグ優勝、国内リーグ優勝という三つのリングを手に入れました。


 試合後のセレブレーションが終わり、タイミングを見計らって、彼に話しかけました。試合中の厳しい表情を見ていたので多少恐縮していたのですが、大きな笑顔でいろいろな質問に答えてくれました。
 オハイオでの日本代表について聞いたところ「とてもいいチームだった」と印象を語っていました。また、スウェーデンのアメフトのレベルについては、彼はカナダのレベルも知っているけど、スウェーデンのレベルも非常に高い。カールスタッドのスウェーデン代表QBなども本当に素晴らしい、とのことでした。
 試合前日にアメリカからスウェーデンに来て、試合翌日にはアメリカに帰国する予定で、今はESPNで解説者として働いているとのことです。


 スウェーデンのアメフトの会場で日本人医師と会ったことが意外だったのか、スウェーデンでの仕事などについて逆にいろいろ聞かれ、楽しく談笑しました。短い時間でしたが人間的な魅力を感じずにはいられませんでした。


 アメフト指導者の方々とのお話は非常に勉強になりそして刺激になります。水野彌一元京都大学監督とはウプサラでの大学世界選手権大会中、そして一時帰国時の今年4月に京都でお会いして、アメフト、そして日本の教育や社会全般に関わるさまざまな興味深いお話を聞かせていただきました。
 また、団長としてウプサラに来られていた平井英嗣元立命館大学監督と宇治でお会いした時には、名所の案内をしていただきながら、立命館が優勝した時の臨場感あふれるお話や、関西の大学アメフト界の今までとこれからについてのお話などを聞かせていただきました。


 その後、関学を支えてきたアスレチックトレーナーの方を訪問して、そんなことができるのはあなたくらいですよ、と言われたのですが、確かに私は幸運に恵まれていたのでしょう。スウェーデンのウプサラ、というアメフトとは縁がないような場所で、多くの素晴らしいアメフト関係者、選手の方々と出会うことができました。


 一緒に撮った写真をホーキンス氏送ったところ、フェイスブック上で、その写真に「アメリカから来たアメリカンフットボールのコーチと、アメリカンフットボールを愛する日本人の腎臓移植外科医がスウェーデンのウプサラで友達になったあの時を、覚えているかいシンジ?」というメッセージが寄せられていました。


 それを読んで、ああ私はやはりアメリカンフットボールを愛しているんだな、ということをコーチから改めて教えてもらったように思います。
 今回のコラムを担当させていただくきっかけとなったのは、オービックシーガルズの池井勇輝選手のドイツリーグ挑戦リポートでした。熱いリーグがスウェーデンにもあることを紹介させていただきたいと思いました。


 このコラムがきっかけで交流を始めた方から、「この秋にとある国でコーチとなることがきまりました。私のスウェーデンでの活動に刺激をうけたことも大きいです」といううれしいメッセージをいただきました。


 アメフトを愛する日本の方々に、聞いたことがないような国にもアメフトのリーグがあり、そこでも勝利を目指してスタッフ、選手達が頑張っているということをお伝えしたいと思いました。


 また何かヨーロッパ、スウェーデンのアメフト事情で興味深いことがありましたらご報告いたします。
 来年は決勝戦のサイドラインに、ゲームドクターではなくチームドクターとして立てることを願って筆をおきます。


2015年9月10日 スウェーデン ウプサラにて 
山本慎治


山本慎治(やまもと・しんじ)プロフィル
 1969年生まれ。外科医。日本、アメリカの施設で腹部一般外科、臓器移植外科で勤務した後、2005年からスウェーデンに移住、現在はウプサラ大学病院移植外科に外科専門医として勤務。14年の第1回アメリカンフットボール世界大学選手権の日本代表チームに帯同。その後、スウェーデンのアメリカンフットボールトップリーグ「スーパーシリーズ」所属のクラブチーム 「Uppsala 86ers」のチームドクターを務めている。

【写真】スウェーデンリーグと欧州チャンピオンズリーグ王者になったカールスタッドの強力オフェンス=写真提供・山本慎治さん