「負けられないアウェーでの一戦」


 7月、大きなニュースが伝わってきました。
 米オハイオで開催された世界選手権でアメリカを優勝に導いた、ダン・ホーキンス・ヘッドコーチ(HC)が、スウェーデンリーグの強豪、カールスタッド・クルセダーズにオフェンスコーチとして就任することが発表され、大会後すぐにスウェーデン入りしました。


 そしてクルセダーズは、7月27日のIFAFヨーロッパ・チャンピオンズリーグの準決勝で、トノン・ブラックパンサーズ(フランス)と対戦し、41―6のスコアで勝利をおさめ、決勝へ進出しました。
 世界における、スウェーデンのアメリカンフットボールリーグのステータスが向上する素晴らしいニュースです。


 スウェーデンのトップリーグ、スーパーシリーズで戦うウプサラ86ersは、5試合終わった時点で3勝2敗です。全10試合のリーグ戦の結果で9チーム中4位に入ればプレーオフ進出となります。
 残り5試合、2敗するとかなり厳しくなるため、これからは1試合の重みが違ってきます。


 6試合目の対戦相手は、ティーレソー・ロイヤルクラウンズ。ここまで今季無敗です。昨年のアウェーでの戦いでも敗れています。
 ティーレソーは昨年のシーズン、リーグ戦で2位でプレーオフに進出しましたが、3位オレブロに惜敗し、決勝進出はなりませんでした。


 今年はワイオミング大学の優秀なQBを獲得し、ウプサラ86ersの昨年の主力WR、DBが移籍しました。
 そしてさらに、昨年の86ersのコーチ二人がこのチームに移籍しました。彼らがこの試合に期するものがあることは容易に想像されます。


 ティーレソーは人口4万5000人のストックホルムの南西部に位置する町です。この町の女子サッカーチーム、ティーレソーFFは、2012年のスウェーデンの女子サッカートップリーグで優勝、そして2014年のUEFA女子チャンピオンズリーグの決勝に進み、準優勝した強豪です。
 各国の代表選手を集めた魅力的なチームだったのですが、人件費がかさみ、残念ながら経営が破たんしました。現在はアマチュアチームとして再出発しています。


 余談ですが、ティーレソーFFに以前所属していた、オランダ代表のキルステン・バンデヴェン選手は語学学校のクラスメートでした。その縁でティーレソーのスタジアムにはサッカー観戦で何度も訪れておりました。
 彼女は先日の女子FIFAワールドカップの日本対オランダ戦に出場、ロスタイムにヘディングでゴールを決めました。彼女の一ファンとして、非常に感慨深いものがありました。


 ティーレソーには86ersのオーナー、マルティン・セーデルベリ氏の車で移動しました。道中、「シンジ、俺は今日とてもナーバスだよ。プレーオフ進出のために、どうしても勝ちたいんだ、この試合」と思いを語ってくれました。


 ティーレソーの思い出深いスタジアムに、アメフトのチームドクターとして試合に帯同するのは、去年に続き2回目となります。試合前のロッカールームで、オフェンスコーチがいつもより激しい口調で選手の士気を鼓舞しました。彼にとってもこの試合は負けるわけにはいきません。


 6月6日17時、試合開始。
 ティーレソーにはサポーター集団がいて、打楽器と大声での応援もあり、まさにアウェーでの戦いの雰囲気です。
 開始早々の86ersのドライブで、RBニルソンが走りこんで先制のタッチダウンという順調な滑り出しでした。しかし、ここでPATのキックが外れ6―0。前半は、両チーム三つのタッチダウンを取りましたが、双方PATがきまらず、19―20でティーレソーが1点リードで前半が終了しました。


 後半、この1点が86ersに重くのしかかりました。両チーム、ディフェンスが調子を上げ、19―20のまま最終クオーターへ。
 第4クオーターも、QBウェルシュが何度かサックされ、さらに、勝負どころでのロングパスがインターセプトされました。
 最後のドライブでも得点を挙げられないまま、残り47秒でティーレソーに攻撃権が移りました。すでに試合の趨勢は決していたのですが、さらに追加点を許し、19-26で試合終了となりました。またも強豪に敗戦、という苦い結果となりました。


 この試合、ティーレソーのディフェンスはよく機能して、QBへのラッシュもパスへの対応も目を見張るものがありました。
 86ersは、強豪と互角に渡り合いましたが、今季初めからの課題であったPATのキックの成功率の低さが解消されておらず、結局この試合の明暗を分けてしまいました。


 また、この試合でセンターの選手が負傷して離脱となってしまいました。OLは他の主力選手も離脱しており、今後の試合に不安を残すこととなりました。
 これで、6試合終えて3勝3敗。もう1試合でも落とすとプレーオフ出場が非常に難しくなり、まさに崖っぷちです。
(つづく)


山本慎治(やまもと・しんじ)プロフィル
 1969年生まれ。外科医。日本、アメリカの施設で腹部一般外科、臓器移植外科で勤務した後、2005年からスウェーデンに移住、現在はウプサラ大学病院移植外科に外科専門医として勤務。14年の第1回アメリカンフットボール世界大学選手権の日本代表チームに帯同。その後、スウェーデンのアメリカンフットボールトップリーグ「スーパーシリーズ」所属のクラブチーム 「Uppsala 86ers」のチームドクターを務めている。

【写真】入場する86ersの選手たち=写真提供・山本慎治さん