「ライバルとの戦い」


 アメリカンフットボール世界選手権のオーストラリア対韓国戦で、ウプサラ86ers所属のオーストラリア代表QBジャレッド・ステグマンが4TDの活躍でMVPに選ばれました。
 残念ながら対フランス戦では大差で敗れたものの、ランとミドルレンジのパスで好プレーも見せました。ラグビー強豪国のオーストラリア、タックルされてもそこから押し込むランプレーには光るものがありますが、ディフェンスとパスレシーブに課題が見られました。


 5月17日、1勝1敗での第3節、ウプサラ86ersはホームにオレブロ・ブラックナイツを迎えました。彼らの本拠地オレブロは、ストックホルムの西190キロに位置する、人口12万人の都市です。
 ブラックナイツは、2011年から4年連続でプレーオフに進出、13,14年には決勝に進出しております。去年のアウェーでの直接対決は30―20で敗戦し、これが86ersのプレーオフ進出を阻んだ一つの要因でした。


 今回この試合に期するものがあったのは、22歳のセルビア人WR、ストラヒンヤ・ステポジッチでした。彼は昨年、ブラックナイツでWR/QBとしてプレー、WRとして8試合で12のタッチダウンを記録し、チーム躍進の鍵となった一人でした。
 去年のスーパーシリーズの「インポートプレイヤー・オブ・ザ・イヤー」にノミネートされ、チームのオフェンスMVPに選ばれた彼が、リーグの定める選手の移籍期日最終日の3月31日前のぎりぎりに、本人には不本意ながらも契約が更新されませんでした。


 その後、彼から86ersに採用してほしいと連絡が直接あり、すかさずチームは彼と契約しました。ブラックナイツのヘッドコーチのコメントによると、限度があるインポートプレーヤーの枠をディフェンスの選手補強で使ったため、やむなく解雇したとのことでした。
 ステポジッチとこの移籍の件で話しを聞きましたが、時間的に他のクラブとの契約を難しくするような解雇の仕方にかなり憤っておりました。ただ、QBのウェルシュによると、他のヨーロッパの国で同じようなことがあったとのことなので、珍しくない交渉方法なのかもしれません。


 小雨の悪天候で始まった試合はすぐ動きました。最初のドライブでエースRB、ヴィクストロームが7ヤードのランでタッチダウン、第2クオーター6分にもまた彼が3ヤードのランでこの日二つ目のタッチダウンを挙げました。
 前半を終わって13―0とリード。第4クオーターには、ステポジッチへの36ヤードのパスがQBウェルシュから通り、試合をほぼ決定づけるタッチダウンに歓喜のサイドラインとなりました。


 この日のブラックナイツのオフェンスは迫力がなかった、というよりは、86ersのディフェンスが強化されたことによって、全く仕事をさせませんでした。
 ファーストダウン獲得は86ersの16回に対し、ブラックナイツ9回。トータルのオフェンスの獲得ヤードも86ersの271に対しブラックナイツは 87と差をつけ、結局19―0の勝利となりました。


 ライバルとの直接対決を無失点試合で制し、試合のMVPのヴィクストロームは試合後の地元の新聞のインタビューで、ステポジッチがタッチダウンできたことがなによりうれしいと語っておりました。
 これで、3試合終了時点で2勝1敗となりました。


 ところで、American Football International (AFI)という組織が毎週選定する、ヨーロッパのアメフトチームのトップ20のランキング表が、そのホームページで発表されています。
 この試合の後で、86ersが7位となっておりました。ランキングトップはその時点でドイツのドレスデンモナークスで、カールスタッドが3位でした。選手にとっても、このようなランキング表は励みになっているようです。


 ちなみに、ドレスデンモナークスは、2012年5月に、日本のチャンピオン、オービックが初の海外遠征、親善強化試合で対戦したチームです。結果は29―17でオービックの勝利でした。
 ドイツで5年プレーしたウェルシュに、スウェーデンとドイツのアメフトの違いを聞いたところ、ドイツのほうが「Play hard」だと言っていました。


 より激しいプレー、そして試合後のパーティーもより賑やか、ということなのでしょう。チームのエースRBが来年ドイツに挑戦したいという話にも、ドイツのチームはまずアメリカ人選手を探すから、彼らと枠を争うことになり、簡単ではないだろう、と感想を言っていました。


 1試合の観客数も、だいたい3000人から5000人は入り、決勝戦では15000人くらいとのことでした。
 スウェーデンのトップリーグ、スーパーシリーズの平均観客数は540人程度なので、より多くの観客の前で試合ができるということになります。
 ちなみにウェルシュは、西ミシガン大学時代、ミシガン大学との試合で11万人の観客の中でプレーした経験があり、また、カンファレンス首位決定戦のマーシャル大学戦では、元ジャガーズのスターター、レフトウィッチ選手と投げ合った経験もあります。


 そこからさらに経験を積んで、まさに円熟期の彼のプレーがウプサラの今年の最大の武器と言っていいでしょう。
 次の週は、トップリーグに新規参入してきたばかりのヴェステロース・ローディアーズとの対戦です。
(つづく)


山本慎治(やまもと・しんじ)プロフィル
 1969年生まれ。外科医。日本、アメリカの施設で腹部一般外科、臓器移植外科で勤務した後、2005年からスウェーデンに移住、現在はウプサラ大学病院移植外科に外科専門医として勤務。14年の第1回アメリカンフットボール世界大学選手権の日本代表チームに帯同。その後、スウェーデンのアメリカンフットボールトップリーグ「スーパーシリーズ」所属のクラブチーム 「Uppsala 86ers」のチームドクターを務めている。

【写真】86ersの選手と山本さん=写真提供・山本慎治さん