ひとつのプレーが国民的な議論を呼ぶ。
 NFLの頂上決戦であるスーパーボウルでは、ニューイングランド・ペイトリオッツがシアトル・シーホークスを28対24で下したが、勝利を決定づけたプレーが大きな議論になっている。
 2連覇を狙うシーホークスは、残り1分を切って4点差を追っていた。敵陣5ヤード地点まで進むと、そこからランニングバック(RB)のマーション・リンチの力強いランで1ヤード地点まで攻め込む。エンドゾーンは目前である。
 残り時間を考えると、タッチダウンで逆転すれば優勝は確実だ。「ビースト・モード」(野獣)のニックネームを持つリンチは、この日すでに100ヤード以上を走っており、彼が勝負を決める―多くの人がそう予測したはずだ。
 とにかく、相手にタックルされてからが強い。ペイトリオッツファンは負けを覚悟しただろう。
 ところが、クオーターバック(QB)のラッセル・ウィルソンはパスを投げた。ボールはペイトリオッツのディフェンスバック(DB)マルコム・バトラーの手に収まり、インターセプト。シーホークスは万事休す。
 「なぜ! なぜなんだ!」
 シアトルのファンだけでなく、NFLの現役選手、OBたちが、「信じられないプレーだ!」「シーホークスには、リンチがいるじゃないか。どうして使わないんだ!」とツイートを通じて、さまざまな意見が乱れ飛んだ。
 試合終了後、シーホークスのピート・キャロル・ヘッドコーチ(HC)は、「敗戦、あのプレーのコールをした責任を負うのは私一人だ」とコメントした。
 パスを選択した理由として、「ペイトリオッツのディフェンスが、リンチのランを警戒していたので、中に集まっていた。あの場面ではパスが有効だと判断した。もしも、パスが失敗したとしてもサードダウン、最後のフォースダウンではランを選択したはずだ」と会見では弁明した。
 「パスは悪くない判断だった」
 ところがアメリカのメディアは、「史上最悪の判断」「キャロルの墓碑銘にも刻まれるだろう」と正反対。辛辣な意見がほとんどで、キャロルHCとすれば針のむしろに座る思いだろう。
 最後までもつれたこの試合は、最高視聴率が50%を超えた。メディアだけでなく、ソーシャルメディアでもこのコールの是非は最大のトピックになった。
 スーパーボウルはアメリカの国民的な行事だが、ひとつのプレー、判断をめぐって国民的な議論ができるのは、羨ましい限りである。
 それにしても、なぜ、あの場面でパスを選択したのか。
 ひょっとしたら、キャロルHC自身が、いまごろ自問自答を繰り返しているかもしれない。(スポーツジャーナリスト・生島淳)

生島 淳(いくしま じゅん)のプロフィル
 1967年、宮城県気仙沼市出身、スポーツジャーナリスト。五輪や、米国のプロ、大学スポーツなどを中心に執筆。著書に『箱根駅伝』(幻冬舎新書)など多数。また、黒田博樹らメジャーリーガーの本の構成も担当。NHKBSのスポーツ番組ではキャスターを務めている。

【写真】スーパーボウル連覇を逃したシーホークスのキャロルHC(AP=共同)