両チーム合わせて123点が入る記録的な点の取り合いとなったIBMとLIXILの準決勝は、合計で150を超えるプレーが展開された。最も印象に残ったシーンは、IBMのDB中島佑がこの試合で唯一記録したタックルだった。


 第1クオーター、IBMに21点のリードを奪われたLIXILは、早くもスペシャルプレーを試みる。ボールを持ったRBが後ろのQBにトスしてパスを投げる、「フリーフリッカー」。ランプレーだと思ったIBMの守備選手が慌てて後ろに下がる。パスはエースWRの前田直輝に通って、TDかと思われた。
 しかし、中島が猛然と前田を追いかけて、ゴール前でタックルする。独走態勢に入った前田に後ろから追いつく日本人選手を初めて見た。このプレーこそIBMの山田晋三ヘッドコーチ(HC)が、トップアスリートの中島をDBへとコンバートした理由の一つだった。


 中島は常に陽の当たる場所を歩いてきた。関学中でフットボールを始めると、QBを7年間プレーし、関学大では主にWRとして活躍した。卒業後はNFLヨーロッパのケルンに2年間在籍して、WRの腕を磨いた。2006年にアサヒビールでXリーグにデビューすると、けた外れのスピードとフィジカルで相手を圧倒した。


 今季、IBMへの移籍を決意させたのが、QBケビン・クラフトの存在だった。「ケビンの球を捕りたい」という純粋な思いが、33歳のベテランを突き動かしていた。
 全盛期に比べるとややパフォーマンスは落ちたが、クラフトの貴重なパスターゲットとして新天地で活躍するはずだった。


 今春、中島がチームに合流してまもなく、山田HCは彼を呼び出してこう切り出した。「DBをやってくれないか」。栗原嵩、ジョン・スタントン、小川道洋とWRの陣容は年を追うごとに充実していた。米国人をはじめとした守備フロントの強化も進む一方で、IBMの最大の弱点がDBだった。


 山田HCは中島が関学大時代に、DBとして甲子園ボウルでプレーしている姿が記憶に残っていた。
 「いいDBだなというイメージがあった。アスリートの中島がディフェンスで機能すれば、チームの戦力は大きくアップする」と思ったそうだ。中島がクラフトの球を捕りたくて移籍してきたことも知っていたが、チームのために一肌脱いでくれと説得した。


 中島にとっても大学、社会人を通してDBでプレーした期間はわずかで、ほとんど一からの挑戦だった。
 「かなり迷ったが、最終的にはチームに必要とされるポジションで勝利のために頑張ろう」と決心した。


 DBは試合経験に基づくプレーへの嗅覚がとても重要なポジションだ。いくら身体能力が高くても、相手のパスコースを予測して先手で動くことができなければ、パスを防ぐことはできない。LIXILとの連戦でも、中島の守るエリアに次々にパスを通された。
 中島自身も今はまだ「守備の穴」だということを自覚しており、日々の練習で向上しようと必死に食らいついている。「まだまだ下手くそなので、1回1回の練習が勝負。練習でも試合でも学生のころに戻ったような気持ちで、無我夢中でプレーしている」と語る。


 そんな中島にとって頼もしいのが新人の中谷祥吾の存在だ。強靱なフィジカルを持つ中谷は、今季のXリーグで最も活躍したDBの一人と言えるだろう。
 SFとして中島とコンビを組む上で、常にコミュニケーションを取り、的確な指示を出している。「年は10も離れているけど、彼の方から気を使って声をかけてくれるので心強い」と全幅の信頼を寄せている。


 一方の中谷は中島の取り組みについてこう語る。「WRとしてはトップ選手なのに、それを捨ててDBでうまくなろうと努力している。毎週練習で会う度にうまくなっているのが分かる」


 12月15日に行われるジャパンエックスボウルの最大のポイントは、富士通のパスをIBMのディフェンスが防ぐことができるかだろう。ここで踏ん張ることができなければ、勝負は一気に決まってしまう可能性もある。
 山田HCはフロントでプレッシャーをかけて、マンパワーで劣るパスカバーはスキームで何とかしたいという。しかし、最終的にはある程度DBが1対1で防ぐことができなければ、15分クオーターのボウルゲームを乗り切ることはできないだろう。


 中島は富士通戦に向けて、LIXILとの試合後にこう語った。「富士通は僕のところを狙ってくると思う。2週間あれば、まだもう少しうまくなれると思うので、最後まで練習してフィールドで成果をぶつけたい。チームの勝利に少しでも貢献できればいいな」―。(共同通信社・松元竜太郎)

【写真】IBMのパス守備を担う、DB中島佑(左)と中谷祥吾=撮影:Yosei Kozano、11月30日横浜スタジアム