「お前ら、ブレナンがいないと何もできないんか」―。2012年、ある試合後のハドルで、富士通の藤田智ヘッドコーチは落球を繰り返したWRたちにこう言った。


 11年に引退するまで、富士通などで10シーズンを過ごしたWRブラッド・ブレナンは、Xリーグで活躍する外国人の先駆者だった。「困った時はブレナン頼み」。富士通の勝負どころのパスは多くが彼に投げられ、どんなにマークされてもボールを捕り続けた。


 ブレナンが抜けた後の富士通にも、身体能力に優れたWRはたくさんそろっていた。しかし、大事な場面で必ずパスを捕ってくれる、本当に信頼がおける選手は少なかった。当時、相手チームの守備選手たちは、口をそろえてこう言っていた。「ブレナンがいなくなった富士通のパスは恐くない」


 13年、立命大から宜本潤平が加入して、少しずつ流れが変わる。体は小さいが、スピードを生かしてボールに貪欲に食らいつく新人のプレーはチームを勇気づけた。
 けがに悩まされていた兄の宜本慎平も復帰し、弟に負けまいとパフォーマンスを上げていく。ディープターゲットとして、日大出身の中村輝晃クラークも頭角を現した。


 しかし、宜本兄弟や中村以外となると、中堅やベテランの選手が伸び悩んでいた。その代表格が強盛であり、秋山武史だ。二人はともに185センチの長身で、手脚が長くスピードもある。素材としては一級品だ。しかし、大事な試合でQBがこの二人にボールを投げることはほとんどなかった。


 木下典明、前田直輝というエースはいるが、高いレベルで多くのWRが切磋琢磨しているオービックや鹿島(現LIXIL)と比較して、富士通WRの層の薄さは大きなウイークポイントだった。


 今年の6月に行われたパールボウル決勝、富士通の加藤博久ストレングスコーチが「強盛がきっと活躍するから注目してほしい」と言った。その予言は的中した。
 試合はオービックの驚異的な粘りの前に逆転負けしたが、強盛は大事な場面でディフェンスと競り合いながら何度もパスをキャッチした。それまでに見たことのない光景だった。


 「大学時代は能力だけでやってこられた。社会人ではそれが当たり前の選手たちの中で、自分のプレーに自信を失っていた」と強盛は振り返る。今年変われなければ、自分はもうだめだ。強い決意を持って臨んだシーズンだった。


 自己変革に向けた彼のアプローチは意外なものだった。「圧倒的なフィジカルを作る」。これまで力を入れていなかった筋力トレーニングに真剣に打ち込み、体を強く大きくしていった。あらゆる数値が格段に上がり、体重も自然に5キロほど増えた。


 フィジカルアップに比例するように、WRとしてのプレーも向上していく。「体を作り上げたことで、自信を持ってプレーできるようになった」と強盛は語る。
 ファイナルステージの大一番、オービック戦でも2本のTDパスを捕って、勝利に貢献した。強い体を作った自信が、フィールドでのプレーを変えたのだ。


 一方の秋山は、関学大時代に既に最高のプレーを見せていた。07年、QB三原雄太が率いる関学大オフェンスは、日本選手権で松下電工を相手にパスで564ヤードを獲得する。
 社会人ナンバーワンのディフェンスを切り裂くエアアタックは、「史上最高のパスゲーム」と呼ばれた。10本のパスをキャッチした秋山は、紛れもなくこの試合の主役の一人だった。


 富士通に入っても最初は良かったが、2年目の09年ごろからパスが捕れなくなる。もともと不器用な秋山は、関学大時代はQBのパスを毎日納得するまで捕り続けることで、迷いを払拭していた。
しかし、社会人では練習時間が限られている。常に不安な精神状態でプレーを続けていたという。


 手の出し方を追求するなど試行錯誤を重ねたが、ついには練習でも落球が目立つようになり、出場機会はみるみる減っていった。キッキングでの起用がメーンになり、WRとしての輝きは失われていった。


 5年間苦しみ抜いた秋山は、今シーズンようやく復活の兆しを見せ始めている。「足をボールの近くに持っていく」という原点に立ち返ったのがきっかけだった。
 「今までは手のことばかり考えていたが、しっかり走ってボールを正面で捕れるように心がけたら良くなった」と、少しずつではあるが本来の姿を取り戻しつつある。


 強盛と秋山の二人が自らの壁を越えたことにより、富士通のWRはチーム史上最高の陣容になったと言えるかもしれない。大黒柱のQBコービー・キャメロンが彼らにパスを投げ分ける。
 キャメロンは12月15日に東京ドームで行われるジャパンエックスボウルの記者会見で、悲願の初優勝に向けてこう言った。「富士通のWRはそれぞれ個性があって、みんなレベルが高い。QBとしてきっちり仕事をして彼らにボールを供給するだけ。誰も僕らを止められないよ」―。(共同通信社・松元竜太郎)

【写真】今季、富士通のパス攻撃を支えているWR強盛(1)と秋山武史=撮影:Kinzo Takaba、2012年、QVCマリンフィールド