今秋、私は3度母校関学の試合を見ることができた。最初は9月15日、近大との試合で場所は王子。この試合、関学はランプレーがすごかった。


 最初の当たりで相手を大きく押し込み、さらにその勢いを駆って、中央の5人が呼吸を合わせて押し立てる。あっという間に5、6ヤード前進する。まるでパサーがポケットに守られるように、ボールキャリアはその囲みの中で、走路がいつ、どこに開くのかを、待つだけ。
 開いた瞬間、その穴を鮮やかに通り抜け、気が付けば、ダウンフィールドの深い地点で相手のDBと追い駆けっこをしている。こんな場面を何度も目にした。表現は的確ではないが、このように見えるランプレーを存分に堪能させてもらった。OB冥利に尽きた。


 相手を大きく押し込む攻撃ライン。相対的なものだが、これまでの関学にはあまり見られない強みを大いに感じたものだった。でもシーズン半ばを過ぎてから、私を有頂天にさせた強力ラインの話と、その声が次第に小さくなり、か細くなった。
 「あほやな。相手がおるんやで。いつまでも強かったら苦労せんで」。OB仲間にこうたしなめられた。


 11月9日、神戸のユニバーのスタジアムで、雨の中関大の試合を見た。2カ月前とは違っていた。穴を開けるどころではなかった。わずかの隙間へRBたちが突進した。抜けることもあれば、山の中に埋没することもあった。ひたすら耐えて、努力して、といったプレーが山積みとなった。
 勝つには勝ったが、シーズン初めの快勝とはほど遠かった。


 「力強さがな、ないやろ。今度の相手は立命や。うちはよう練習しとるけど、相手もしてるしな」。同期の友、私たちが最上級生だったときの主将の木谷直行さんが「関関戦」の後、こう語っていた。OBは不安だったのである。自信が持てなかった。


 入れ替え戦に回った京大を含めて、立命、関大といった諸校は、互いの戦力分析と、その対策に力を注ぎ、高いレベルに達している。そのため「攻撃でも守備でも一つ間違えると、そこから一気に崩れかねない。だから慎重さが求められる」のだそうだ。


 現役の指導者の方々のこんな話を聞くと、60年昔の選手には遠く及ばぬ世界が広がっているのを感じる。でも有難いことに、試合を見れば彼らがどのような意図を持ち、どのように戦おうとしていたのかは、分からないことはない。十分に感じ取ることはできる。
 スポーツ記者のありようの一つに、試合から何を感じ取れるか、といった感性を大事にする心構えがある。理論や技術を解説できるほどの能力がなければ、何を感じたのかを字にすればいい。駆け出しのころに帰ればいい。そんな心境だった。


 この日、切符売り場には開始直前まで長い列ができていた。スタンドは通路の階段まで埋まっていた。そんなファンの大声援を受けて「大一番」の火ぶたが切られようとしていた。


 トスが行われた。関学が当てたようだ。主審が「関学」といって言葉を切った。私は次「後半セレクト」という言葉を思い浮かべた。いつものことだから、そう思っただけで、特に深く考えたわけでもなんでもない。だから私はその次の主審の言葉にびっくりした。「レシーブ」。チーム全体の強い意志を感じた。「先取点」。「このドライブで決める」。こうもあろうか、ああもあろうかと、ウロウロ、マゴマゴしていたOBとしては、肩をどんとたたかれた感があった。


 この強い意志がリターナー田中雄大の好リターンとなった。ゴール前6ヤード線からスタートし、真っ直ぐ上がってからコースを右へ。全力疾走する味方のブロッカーたちと一緒になって、立命大側のサイドライン際を、チームエリアのほとんど端から端までを駆け抜けた。


 立命31ヤード地点から、関学の攻撃が始まった。立命の守りも頑強だった。関学はこの30ヤード余りを10プレーかけて攻め抜いた。1プレー平均3ヤード余り。決して流れるように前進したわけではない。
 QBに伊豆充浩を起用した4ダウン1ヤードのギャンブルも一つ挟み込んでいる。ここではRB橋本誠司が3ヤードを突進して攻撃をつなぎ、ゴール前7ヤードでダウンを更新した。


 TDを奪う。ただその1点に集中したドライブは、3分余りが経過した。そして第3ダウンゴール前6ヤードの場面で、関学に幸運が訪れた。ちょうど10プレー目である。
 突進したのは橋本。その手からボールがこぼれた。球はエンドゾーンへ。そのボールにOLの松井和史が覆いかぶさった。TDである。松井は「目の前に転がってきたのを押さえただけですから」と照れながら語った。キッカーの三輪隼史が続くキックを決めた。


 関学は私の知る限りでは、小刻みに攻めて攻め切るという戦法は、昔からあまり得意ではない。切れ味鋭い大技、小技で、ズバッとTDを挙げる力をひたすら磨いてきた。
 しかし、先取点こそ試合のポイント、と割り切ったこの決戦では、しぶといプレーを積み重ねた挙げ句、最後には思いもかけぬ幸運に恵まれて、目的を果たすことができた。私は一人のOBとして、このへんに常にない執念を見た。


 次にくるのは、守備である。関学はどんな守りを見せるのかだった。だが、取られたら取り返せと意気込む立命大の攻撃は鋭かった。スタートは立命大28ヤード地点。QB前田寛二がTB玉井元へパスを通して9ヤードを稼ぎ、続いて1年生のRB西村七斗が3ヤード進んでダウンを更新する。
 次いで前田はWR猪熊星也へのパスを決め、関学陣48ヤードでダウンを更新した。リズム感に富んだいい攻撃である。


 しかし、西村が4ヤード前進したあとの第2ダウン、前田のパスを関学は1年生DB小椋拓海が奪い取り、7ヤードリターンした。単なるターンオーバーではない。立命大がテンポよく展開していた攻撃を、見事に断ち切ったこのインターセプトの価値は、極めて大きかった。
 このあと何度かインターセプトの応酬がみられるが、試合の流れを左右する重みでいえば、これはその最右翼といえよう。


 この2プレー後、立命大はDB奥野敬介が、またその2プレー後には関学のDB国吉翔がそれぞれインターセプト合戦を演じている。やはりQBにかかる緊張感、重荷、焦りのなせる業であろう。やがて落ち着くのだが、この間は制球定まらず、といった状態だった。
 こういうと関学の斎藤圭、立命の前田両QBには酷だが、やむを得ない。


 ゲームはこのあとこう着状態が続いた。しかし第1Q終盤、関学が立命大のファンブルを押さえたのを糸口に、地域的に優位に立って第2Qを迎えた。
 守備陣の動きがより優れていたのは事実である。その差がこうしたアドバンテージとなって表れ、関学にゆとりを与えた。そして第2Q残り8分29秒、関学は立命大46ヤード地点からドライブのスタートを切った。またしても好位置からの攻めである。


 第3ダウン10ヤードのピンチもあったが、斎藤圭からWR木下豪大への15ヤードのパスプレーでしのぐ。このあとは斎藤がRB鷺野聡、RB飯田裕貴、TE松島紘樹と多彩なパスをつないで、一気に立命大ゴールに迫り、5ヤード地点から、主将鷺野がエンドゾーンへ飛び込んだ。


 14-0と差が開いた。費やした時間は2分足らず。9プレーで46ヤードをカバーした的確なドライブだった。一方立命大は攻撃が決まらなくなっていた。
 QBが追いかけ回され、RBがバックフィールドでタックルを浴びた。関学ディフェンスの中では、LBの小野耕平が先頭に立って駆け回り、次から次へとボールキャリアを仕留めていた。2年生のLB山岸明生が後れを取ってはとこれに続く。上級生と下級生が渾然一体となった見事なディフェンスだった。


 鳥内監督が試合終了直後のインタビューで「ディフェンスがようやりました」と満足げに語ったのも当然である。この日の関学の勝因はこれに尽きるのではないかと思う。試合の統計を見ると、パスは獲得距離や成功数など、同じようなものだが、ランの獲得距離で決定的な違いが表れた。
 関学は42回で111ヤード。立命大は29回でわずか35ヤード。攻撃力の差、という意見もあるかもしれないが、これは間違いなく守備力の違いによる、とするのが正解だろう。


 後半に入り、第3Qの4分50秒、立命大に貴重なTDが転がり込んだ。関学が自陣20ヤード線からの攻撃で放った左のフラットのパスを、立命大のDB八条彬久が奪い、そのままエンドゾーンへ駆け込んだのである。
 昔話が思い出された。かつてシングルウイング、ダブルウイングの時代、自軍ゴールを背にしての、短い外へのパスはタブーだった。第5回の甲子園ボウルで関学の右のエンド中村泰幸さんが、当時の言葉で言うショートアウトのパスをインターセプト、だめ押しのTDを奪ったプレーが64年たって、突然記憶によみがえってきたのだから、不思議である。なお当時は攻守とも同じ人間が続けてやるのがふつうであった。


 余談はともかく、この「禁断のパス」(今は必ずしも禁断ではない)で点を取られた関学は、この失点を鮮やかに取り返して見せた。OB丸出しで大変申し訳ないが、「失点の直後の逆襲」こそ最も大事な反撃である。そしてOBとして最も見たかったシーンでもある。後輩諸君はこれを見事にやり遂げた。


 自陣27ヤードからの初めの3プレーはもたつくだけもたついた。だが、第3ダウン、思いもかけぬ幸運に恵まれた。立命大にラフィング・ザ・パサーの反則が宣せられたのである。息を吹き返すとはこのことである。


 自陣42ヤード地点からの再出発はRB山崎肇のランに続き、WR大園真矢へのパスで立命大の45ヤードへ。次いでWR横山公則へのパスで10ヤードゲイン。32ヤード地点からは斎藤が自ら2度走ってゴール前2ヤード。最後は鷺野が飛び込んで7点を奪い返した。関学にとって、4分44秒と13プレーを費やして73ヤードを乗り切ったこのドライブは珍しいものに属するだろう。


 第4Qに入って、立命大が自陣20ヤード線から演じた大反撃は見ごたえがあった。速攻のできるタレントがいれば、関学も少しは慌てたかもしれない。しかし、残り7分30秒から始まったドライブは前田自身と1年生のRB西村のランが中心だった。
 ロングパス一本でもう一度チャンスを作るだけの戦力はなかった。ただ、第4ダウンのギャンブルを2度、TE永野力丸とWR近江克仁へ投げてダウンを更新した執念は買える。しかし実りはなかった。


 こうして決戦の幕は下りた。特に関学守備陣の堅守が印象に残る。次いで3つのTDマーチで見せた粘りもよかった。(丹生恭治=関学OB・元共同通信社記者)

【写真】第3クオーター、攻め込む関学大・QB斎藤=23日、キンチョウスタジアム