今春のパールボウルトーナメントでのこと。オービックのQB菅原俊は、新人の畑卓志郎、ベテランの龍村学に次ぐ3番手のQBとして起用された。
 ルーキーとは思えない素晴らしいパスとスクランブルランで活躍した畑が多くの記者に囲まれる中、菅原にQBとして他の二人に勝っていることは何かと聞くと、菅原はこう答えた。「龍村さんのようなパスは投げられない。ランに畑ほどのきれはない。だが、自分は試合を作って、最終的にチームを勝利に導くことができる」


 QBに長所を聞くと、たいていの選手は強肩やパスの正確性、走力などの具体的な項目を挙げる。それに比べて、菅原の答えはとても抽象的だ。だが、菅原のQBとしての資質は、まさにこの言葉に凝縮されている。大学日本一を決める甲子園ボウルで1度、日本選手権では3度最優秀選手に輝き、常にチームを勝利に導いてきた菅原の強さについて考えてみた。


 2001年、菅原は横浜高校でフットボールを始める。当時の日本ではまだ珍しい戦術だったショットガンフォーメーションの採用と同時に、2年生からQBに転向した。パスが投げやすい「ショットガン」を操り、菅原はQBとしてめきめきと頭角を現していく。
 04年に法大に進むと、1年時から試合に出場して活躍した。法大は前年の甲子園ボウルで6―61と立命大に大敗。伝統のオプション攻撃に加えて、新たな攻撃スタイルを模索し始めたシーズンだった。まるで菅原の加入を待っていたかのようにショットガンを導入し、パス攻撃が大幅にレベルアップした。


 菅原がキャリアのベストゲームと振り返る試合がある。同学年のQB、関学大の三原雄太と投げ合った06年の甲子園ボウルだ。試合はRB丸田泰裕の活躍などで、前半は35―21と法政のペースで進む。
 後半に入ると三原が次々にパスを決めて、試合時間残り2分半を残して関学大が45―43と追い上げる。関学オフェンスにもう一度ボールが渡れば、逆転する可能性が高い展開だった。


 だが、菅原は最後まで冷静にオフェンスを指揮した。QBキープなどでダウンを更新し、残り時間を使い切って激戦を制した。「関学に追いかけられるプレッシャーの中、一度もリードを許さず試合をコントロールできた」というこの試合が、大きな自信になっているという。


 2010年から獲得した3年連続の日本選手権MVPを含む、社会人での活躍は記憶に新しいところだが、いったい菅原の強さはどこにあるのか。それを考える上で、一人の選手から大きなヒントをもらった。


 関東学生リーグには菅原にそっくりな選手がいる。早大の1年生QB坂梨陽木だ。彼は菅原と同様にサイズには恵まれていない。肩も弱く、飛び抜けた走力もない。
 だが、早大学院高時代に日本一を達成した坂梨の存在感は、東西のフィールドを見渡しても際立っており、QBとしての総合力は既に学生フットボール界で5本の指に入っている。


 坂梨の持っている能力とは何か。リーダーとして攻撃をコントロールし、試合を作る能力だ。特にハドルワークが素晴らしく、常にポジティブにハドルをまとめ上げ、オフェンスにリズムを生み出す。プレー面でも流れが悪いときには無理をせず、勝負どころでは果敢に攻めることができる。


 坂梨のプレースタイルは菅原に酷似していると思った。菅原はミスで試合を壊すようなことはほとんどないし、勝負どころではきっちり決める。調子が悪いときでも、それなりにちゃんと試合を作ってくれるという安心感がある。


 もう一つがフィールド外での彼の振る舞い。他のQBが試合に出場している時、菅原はサイドラインで的確なアドバイスをオフェンスメンバーに送り、チームを鼓舞し続けている。
 自分が試合に出られないからと腐ることなく、与えられた状況でできることを最大限する姿は、リーダーとしての彼の信頼を大きなものにしている。


 さらに特筆すべき菅原の能力が、土壇場での勝負強さと判断力。2010年の鹿島戦、2012年の関学大戦をはじめとして、何度も「ツーミニッツオフェンス」を成功させて、逆転勝利を演出してきた。彼の能力を最もよく表している映像がある。
▽パールボウル2014・オービック―富士通(6分50秒から)
http://www.youtube.com/watch?v=pOzWbKZGLg0
映像提供=オービック・シーガルズ


 今春のパールボウル決勝。6点差を追うオービックは残り27秒、ゴール前10ヤードで第3ダウンを迎える。ここで菅原はサックを受けて大きく後退。タイムアウトもないので、時計は止まらない。
 だが菅原は真っ先に立ち上がると、すぐにラストプレーを声とハンドシグナルで他のメンバーに伝える。タイムアップと同時にRB古谷拓也へ同点のTDパスを決めた。


 富士通ファンのカウントダウンを聞くと、プレーを始めたのは残り時間5、6秒。菅原があと数秒プレーの開始に手間取っていれば、試合に敗れていた。彼が土壇場で見せた、飛び抜けた判断力と決断力によるTDパスだった。


 日本のフットボール界では、圧倒的な能力を誇る米国人QBの存在感が年々大きくなっている。「うちのチームにも外国人QBが来るかもしれない」。菅原は危機感を持っていることを隠さない。
 だが、結果を出し続ければリーダーの信頼は決して揺るがないことを知っている。「QBは常に先頭に立って戦い続けるポジション。その覚悟を持って、プレッシャーを楽しみに変えてプレーする」。日本選手権5連覇の鍵は、やはりこの男が握っているといえそうだ。(共同通信社・松元竜太郎)

【写真】オービックのエースQB菅原俊=撮影:Yosei Kozano