フロリダ、アリゾナと回って、メジャーリーグのスプリングトレーニングを取材中だ。

 アリゾナで話題になっていたのは、NFLのスーパーボウル王者に輝いたシアトル・シーホークスのクオーターバック(QB)、ラッセル・ウィルソンが、ダルビッシュ有が所属するテキサス・レンジャーズのキャンプに招待されたことだ。

 もともとウィルソンは、アメリカンフットボールと野球(こちらのポジションは内野手)をプレー、2010年にはコロラド・ロッキーズからドラフトで指名されていた。本人はアメリカンフットボールの道を選び、NFLの世界で見事に頂点に立ったわけである。

 優勝から時計の針を少し戻すと、昨年の12月、レンジャーズは「ルール5ドラフト」と呼ばれる制度を使って、ウィルソンを指名した。

 メジャーリーグの規定では一定の期間、マイナーリーグでくすぶってメジャーに昇格できない選手を、他球団が新たにドラフトで指名できる制度があり、レンジャーズはそれを利用したのだ。

 そして3月3日、レンジャーズのキャンプ地であるアリゾナ州サプライズにウィルソンは到着、朝の守備練習に参加した。しかし、打撃練習に参加することはなかった。

 レンジャーズのワシントン監督は慎重な姿勢を崩さず、「もし、もしもだ。NFLの宝をけがで燃えさせてしまったら、大変なことになるからね!」と無理をさせなかった。

 シーホークスの地元であるシアトルに本拠地を置くのは、マリナーズだ。マリナーズはウィルソンの指名を考えなかったのだろうか? ジェネラルマネジャーのジャック・ズレンシック氏に質問してみた。

 「検討はした。しかし、彼は向こう10年間、われわれシアトルの町のクオーターバックだ。決して野球選手ではない。今回の一連の動きは、『ギミック』であり、PR活動の一環と考えた方がいいのではないか」とズレンシック氏は答えた。

 話題性を考えると指名したかったのかもしれないが、このところ低迷が続くマリナーズだけに、余分な動きをすることは避けたのだろう。賢明な選択である。

 ウィルソンのスプリングトレーニング参加は、アメリカでは大きく取り上げられ、注目が集まったのは事実だ。

 なにより驚いたのは、レンジャーズがシーホークスでつけている背番号「3」のTシャツをいち早く発売していたことだ。

 珍しさも手伝って、思わず買ってしまった…。

生島 淳(いくしま じゅん)のプロフィル

 1967年、宮城県気仙沼市出身、スポーツジャーナリスト。五輪や、米国のプロ、大学スポーツなどを中心に執筆。著書に『箱根駅伝』(幻冬舎新書)など多数。また、黒田博樹らメジャーリーガーの本の構成も担当。NHKBS1の番組『BSベストスポーツ』ではキャスターを務めている。

【写真】レンジャーズのキャンプに参加し、守備練習をするNFLシーホークスのスターQBウィルソン=サプライズ(共同)