オールスター戦の「プロボウル」も終わり、NFLはいよいよスーパーボウルに向けて最高の盛り上がりを見せる。スーパーボウルはフットボール選手なら誰もが夢見る大舞台だ。しかし、その舞台には魔物が棲むという。対戦相手とは異なる、その手ごわい敵の正体とは?
(1)優勝決定戦の重圧
 すべての選手はスーパーボウルで勝つためにプレーしている。その夢がいよいよ実現しようとするときには百戦錬磨のNFL選手であろうと大きなプレッシャーを感じる。
前日はもちろん、数日前から緊張で睡眠不足になる選手は珍しくない。試合でも失敗を恐れるあまりに消極的になってしまい、普段通りのダイナミックなプレーができなくなる。
結局、取り戻せないうちに試合が終わり、気がつけばチームメートとロッカールームでうなだれて敗戦の屈辱を味わっている。
 経験の浅い選手ほどこの重圧に負けやすい。その点では今年のブロンコスは有利だ。QBペイトン・マニングとWRウェス・ウェルカーはともに過去2度のスーパーボウル出場経験があり、若い選手たちにアドバイスを送ることができる。ジョン・フォックスもヘッドコーチとして2度目の出場だから戸惑いは少ないだろう。
シーホークスには過去にスーパーボウルを経験した選手がいない。この重圧をどのように克服するかは大きな課題だ。


(2)「非日常」という環境
 スーパーボウルに出場するチームのコーチたちは口をそろえて「ルーティーンが重要だ」と言う。それはスーパーボウルという特別な試合であっても、そのための準備や練習のスケジュールはレギュラーシーズン中と変えずに行うという意味だ。ただし、それを実行するのは難しい。
 選手やコーチたちはゲームの1週間前からホテル住まいを余儀なくされる。ミーティングルームもフィルムスタディールームも、ホテル内に設けられることになる。当然、地元のチーム施設ほどの設備はそろうはずもなく、多少の不便は覚悟の上だ。もっとも、フィルムスタディーについては、昨今それぞれの持つポータブルデバイスで見ることも可能なので、以前よりは不便さが解消されている。
 練習施設もいつもと違う。今年はブロンコスがジェッツの、シーホークスがジャイアンツの練習施設をそれぞれ「間借り」する。これも少なからず影響がある。


(3)メディア攻勢
 スーパーボウルウィーク(ゲーム前の1週間)で最も選手を疲弊させるのがメディアの取材攻勢かもしれない。選手やコーチは試合開催地に到着した当日、火曜日のメディアデー、水曜日と木曜日に宿泊先のホテルで行われるインタビューセッションへの出席が義務付けられている。
 選手たちはポディアム(お立ち台)やテーブルで取材陣のインタビューに応じなければいけない。この間に何度も同じ質問を投げかけられたり、過去の不祥事など答えなくない問題について聞かれたりするので選手にもストレスがたまる。
 現地入りした直後に引退宣言をしたブロンコスのCBドミニク・ロジャース-クロマティはこの件について嫌というほど質問を浴びることになるだろう。
 また、ちょっとした失言が大きく取り上げられることある。昨年はレイブンズのQBジョー・フラッコが「寒い気候でのプレーは嫌いだ」と発言したところ、今年のニュージャージー州でのスーパーボウル開催を批判したと報じられ、釈明する羽目となった。普段以上にメディアの数も多いため、選手は精神的に疲労を感じるのだ。
 シーホークスCBリチャード・シャーマンは言動でも注目を集めそうだ。NFC決勝後のインタビューで相手選手をけなすような発言をするなど、普段から言いたい放題のシャーマン。メディアも彼の失言や挑発を虎視眈々と狙うに違いない。ひとたび口を滑らせたが最後、芸能リポーターに追いかけ回されるタレントよろしく、痛い目に遭うことになる。


(4)歓楽街の誘惑
 選手の外出を制限したり門限を厳格に設定したりするチームが多いが、それでも近くに歓楽街があれば行ってもみたくなるのが人情だ。ニューオーリンズのフレンチクオーターなどは誘惑の最も大きい場所として知られる。
 しかし、選手の外出がトラブルとなることもある。1999年のスーパーボウルでは試合前日にファルコンズのFSユージン・ロビンソンが女性のおとり捜査官に売春を持ちかけて逮捕されるという事件が起きた。ロビンソンは釈放されて試合出場を認められたが、プレーは最後までキレを取り戻すことはなかった。
 今年は合衆国最大の都市ニューヨークがほど近い。選手の行動についてチームは監視の目を強くしているに違いない。


(5)2週間という時間
 2003年シーズンからスーパーボウルはカンファレンス決勝の2週間後に行われるようになった。選手は故障を治し、疲労を癒す時間が与えられる。他方で、相手チームから研究され、戦術や傾向が丸裸にされることにもなる。それだけに、新たな戦術やスペシャルプレーを用意する必要も出てくる。
 これを環境がいつもと異なる開催地で行うことは難しい。たいていのチームは地元で過ごす前半の1週間でゲームプランを立て、現地入りしてからはプランに則った練習に集中してプレーの精度を上げていく。


(6)チケット手配と家族の世話
 選手には一人当たり5枚のゲームチケットが与えられる。これをどう分配するかが頭の痛いところなのだそうだ。スーパーボウル出場が決まると、親戚や友人はもちろん、学生時代にフラれたまま音信の途絶えていたガールフレンドからも連絡が来て、チケットを要求される。スーパーボウル開催地の出身の選手は地元の友人、知人、縁故関係からのリクエストが膨大に寄せられるという。これが意外に大きなストレスになるのだ。
 代理人に任せる選手がほとんどだが、鳴り止まない携帯電話には辟易するものだ。2008年にスーパーボウルを制したスティーラーズのQBベン・ロスリスバーガーなどは出場が決定した日から自宅と携帯電話の留守番電話をオフにして、リクエストを一切受け付けなかったという。
試合の3日前になると家族が合流する。愛する家族に会えてホッとする選手もいれば、逆に集中力を乱されて困るという選手もいる。これはこれで難しい問題だ。(ジャパンタイムズ記者・生沢浩)


生沢 浩(いけざわ・ひろし)

1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHK―BSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

【写真】ペイトリオッツ戦で活躍し、記者に質問攻めにあうブロンコスのDLナイトン=27日(AP=共同)