連絡が来たのは「3、4日前」だったという。それでも、自分の力を出せたと明るいトーンで話した。
 今シーズンからXリーグのIBMビッグブルーに所属するWR栗原崇(法大出)=180センチ、84キロ=は、5月3日から3日間行われたNFLの昨季王者ボルティモア・レーベンズのルーキーミニキャンプに参加した。本来直前のドラフトで指名された選手やドラフト外で入った選手のためのキャンプだが、栗原の個人スポンサーがボルティモアに本拠を置くスポーツメーカーにDVDなどを送り、その会社がレーベンズに彼を推薦してくれたおかげで、キャンプに参加することができた。
 25歳の栗原は訪れた好機を「記念受験」にするつもりはなかった。日本人初のNFL選手になるべく、真剣勝負にいった。身体能力ではかなわないが、日本で磨いたテクニックを駆使し、睡眠時間を削ってアサインメントを覚え、正確にプレーすることでコーチ陣にアピールした。
 栗原は言う。「英語ができないというディスアドバンテージ(不利な点)はあるが、他の選手は覚えない細かいところまでアサインメントを覚えるというところで活路を見いだせた」。レーベンズのジョン・ハーボー監督からも「お前はフットボールを知っている」と声を掛けられたという。最終日には同監督から呼び止められ、スピードの目安となる40ヤード走を計測した。まったくお話にならないのなら、そんなことはしないはずだ。
 栗原はレーベンズから声がかかるとしても、7月下旬から始まるシーズン前のトレーニングキャンプからだと思っていたのだが、それが早まった形となった。しかし、結果的にはよかった。トレーニングキャンプとなると、レギュラークラスも含め53人の開幕ロースター入りを目指して、90人近くの選手が集まる。電話帳のように分厚いプレーブックを手渡されてからスタートするより、ミニキャンプでNFLのキャンプがどういうものかを経験できたことは大きい。また、50人程度のまだ技術の粗い若手選手中心のミニキャンプの方が、彼にとっては有利だったはずだ。
 栗原も「今回参加できたのは相当に大きい」と言う。もし彼が今夏、再びレーベンズのキャンプに招待されるようなことがあれば、すでにキャンプの流れやオフェンスのベースを理解して臨むことができる。それだけでもかなり気持ちに余裕を生むのではないか。
 4人の米国出身選手がいて、練習や試合では英語を使うIBMでプレーする利点もある。とりわけ米国の強豪UCLA出身のQBケビン・クラフトとコンビを組むことで、日本にいながらにして本場の選手の鋭いパスを受けることができる。
 もちろん、これで栗原がNFLに近づいたと言うのは早計だ。彼にとってNFLの扉は大きく開いているわけではない。本人もそれほど甘い世界でないことは十分に分かっている。そのためにはキックのリターナーやスペシャルチームの一員でも何でもやる覚悟だ。
 7月のトレーニングキャンプへの招待状を「待つだけです」と栗原。米国の事情に詳しいクラフトは「彼は呼ばれるさ」と言う。それは希望的観測ではない。「チームにとって、栗原を呼ぶこと自体はたいしたことではない。故障の可能性があるので、とにかく多くの選手を置いておきたいわけだから」とクラフトは説明した。
 大学時代からNFLを目指し始めたものの、NFLヨーロッパが消滅し、目標を失っていた。しかし、あきらめずに努力してきたことで道が開けた。キャンプに招待されれば、2007、08年にアトランタ・ファルコンズのトレーニングキャンプに参加したWR木下典明(立命大出)以来となる。(ジャパンタイムズ 永塚和志)


【永塚和志(ながつか・かずし)のプロフィル】
1975年生まれ。北海道出身。英字紙・ジャパンタイムズ運動部記者。担当は主に米スポーツ。フリーのスポーツライターとしても活動し、専門誌「アメリカンフットボールマガジン」(ベースボールマガジン社)等にも寄稿。

【写真】日本人初のNFL選手となるべく挑戦を続けるIBMのWR栗原崇=撮影:Yosei Kozano、4月28日、川崎球場