NFLの選手ではLBレイ・ルイス(レーベンズ)がお気に入りだという。Xリーグ、オービック・シーガルズのDLバイロン・ビーティー・ジュニアの荒々しいプレーを見ていると、それもうなずける。「(ルイスは)フィールド上のリーダーだし、相手にとっては悪夢でしかない。彼のメンタリティーとタフネスをいつも手本にしてきた」
 12月17日の日本社会人選手権(ジャパンXボウル)の後、今季からオービックに加わったビーティーに学生時代から誰かアイドルはいたのかと聞くと、彼は将来のプロフットボール殿堂入りが確実視されるNFL屈指のLBの名前を挙げた。
 ルイスを「悪夢」と表現したビーティーだが、日本のXリーグでの初めてのシーズンとなった今季、その存在は他チームにとってまさしく「悪夢」であったに違いない。ビーティーは、驚異的なスピード、機敏さ、パワーを生かし、1対1では圧倒的な強さを誇る。相手ボールキャリアを最後まで追いかける、まるで獲物に食らいつく猛獣のような姿もまた印象的だ。
 今季のオールXリーグチームには惜しくも選出されなかったが、17日の試合までを含めた9試合で計26.5タックル、3サック、2インターセプトと見事な成績を残し、見る者に鮮烈な印象を与えた。ジャパンXボウルでは、逆転のきっかけになる貴重なインターセプトをマークし、シーガルズの同ボウル3連覇に貢献した。
 Xリーグではこれまで、既に何人もの米国人選手がプレーし、「さすが本場は違うな」とファンを感嘆させるパフォーマンスを見せてきたが、ビーティーはこれまでの米国人をもしのぐ激しいプレーで、インパクトをもたらした。
 ハワイ州出身で24歳のビーティーは、2010年に大学を卒業したばかり。その大学とは米カレッジフットボールでも強豪として知られる名門校・コロラド大学。1990年には全米王者に輝いており、母方の叔父で元NFLの攻撃ライン選手だったクリス・ナエオールも同大出身だ。アウトサイドLBとしてプレーしたビーティーは、4年間通算で計85タックル、8.5サックを記録し、チームの中心選手として活躍した。
 当時はNFL入りも視野に入れていたという。ところが、そんな彼の夢は無惨にも打ち砕かれた。プロのスカウトらが集う公開練習日「プロデー」を前に、左足を骨折してしまったのだ。「肉体的にも精神的にも苦しかった」と、彼はその時の心境を振り返った。
 プロ入りを断念したビーティーは卒業後ハワイに戻る。そこで運命的な人物との出会いがある。家が近く、以前から家族ぐるみの付き合いをしていたデービッド・スタント氏は、90年代にオービックの前身リクルートでヘッドコーチを務め、その後も米国人選手をXリーグに送り込んできた。そのスタント氏に、ビーティーは自分も日本でプレーできないだろうかと尋ねた。1年後、スタント氏から「シーガルズというチームでプレーしてみるか」との連絡を受けた。
 オービック守備の中心選手、古庄直樹主将は「ビーティーはファンダメンタル(基礎技術)が非常に高いレベルにあって、タックルも強い。いいお手本」と話す。しかし本人は「周りの人たちは、僕の強みはフィジカルにあると思っているようだけど、そうじゃない。僕自身はメンタルな部分で相手に勝とうと常に試みている。僕にとってはいかに準備して試合に臨むかの方が大事なんだ」と言う。
 日本での初年度でここまでは期待通りの働きをしてきた。残るは学生王者・関学大と日本一を懸けて対戦する日本選手権(ライスボウル)だけだ。学生対社会人という、米国ではまずあり得ない対戦に臨むにあたってやりにくさはないのか問うと、2年前まで学生だった彼は笑顔で答えた。「KG(関学大)はすばらしいチームだし、若い選手たちとの対戦に興奮している。ただ学生と戦うからといって特に何かを変えるということはない。言えるのは、オービック・シーガルズの一員としてこういった機会が与えられたことに感謝しているということ。できるだけ長くこのチームでプレーしたいと思っている」。ライスボウルでの勇姿が楽しみだ。(ジャパンタイムズ 永塚和志)


【永塚和志(ながつか・かずし)のプロフィル】
1975年生まれ。北海道出身。英字紙・ジャパンタイムズ運動部記者。担当は主に米スポーツ。フリーのスポーツライターとしても活動し、専門誌「アメリカンフットボールマガジン」(ベースボールマガジン社)等にも寄稿。

【写真】今季からXリーグに参戦し、本場米国レベルのプレーを見せたオービックのDLビーティー・ジュニア=撮影:Yosei Kozano