今夏、アメリカンフットボールの第2回U―19(19歳以下)ワールドカップ(W杯)が米テキサス州で開催された。日本代表チームは準決勝でカナダに敗れ、最終的に3位という結果だった。当初の目標だった米国との決勝は実現しなかったが、日本の決勝進出を阻んだカナダが第1回大会王者の米国を倒すという波乱が起きた。今大会の印象、今後日本が世界と戦っていくために必要なことなどを、北米、欧州のプロリーグに挑戦してきたIBMヘッドコーチの山田晋三氏に聞いた。(聞き手=松元竜太郎)


 Q・今回のW杯で、日本が世界に通用したこと、通用しなかったことは。
 A・ディフェンスは互角以上に渡り合えたと思う。全体的なスピード、ヒットやリアクションなどプレーの質はかなり向上している。オフェンスは、完成度の高いプレーを作り上げるのが難しいと感じた。準備期間が少ない中、本来はシンプルな攻撃がいいのだが、日本の場合はフィジカルで勝てないため、プレーのバリエーションや精度で勝負をしなければならない。そのような状況下で、特に近年のフットボールはQBにかかる負担が大きい。相手のパスカバーを読む、サックされないなどの瞬時の判断や動きには、経験が大きくものをいう。小学校からQBをしているIBMのクラフト選手を日々見ていると、このポジションにおける日本人との差を強く感じる。


 Q・日本チームの中で、将来有望だと感じた選手は。
 A・LBの林選手(関大)、DLの小林選手(法大)が素晴らしいと感じた。特に林選手は今後の成長がとても楽しみ。RBの高田選手(早大学院高)も高校生とは思えないパフォーマンスだった。


 Q・米国がカナダに敗れたが、米国のレベルが下がったのか、それとも、カナダが強くなったのか。
 A・両方だと思う。米国の主力選手は日本でいう高校2年生。強豪大学への進学が決まっている3年生の選手は、大学側が出場を許可しないケースが多いためだ。一方、カナダは日本と同じように大学生が出てくる。この世代における1、2学年の差は大きい。加えて、今大会はカナダの方が米国よりまとまりのあるいいチームだったと思う。


 Q・U―19の大会に参加してくる米国選手のレベルは、フル代表のW杯における米国チームと同じようなとらえ方でいいのか。
 A・それは少し違う。フル代表の米国チームの中にNFLに行く選手はいない。良い選手もいるが、一度ふるいにはかけられている。U―19W杯に出場する選手は粗削りだが、将来プロに行くダイヤの原石も含まれている。実際、2009年の米国チームのエースRBデービッド・ウィルソンは、今年のドラフトでニューヨーク・ジャイアンツに1位指名された。


 Q・日本が世界と戦うために大事なことは。
 A・技、体、戦術の全て重要だが、強いて順位付けするなら、体、技、戦術の順。まず、戦術論は当たり外れがあるし、永続できる要素ではない。日本では研究に研究を重ねて、ライバルチームとの一戦に全てをかけるというような傾向がある。それはそれでおもしろいが、あくまで瞬間的な強さ。大きく、強く、速く、この原点を追究しなければ、真のチャンピオンにはなれない。


 Q・山田さん自身、海外挑戦時に急激にサイズアップしたが、パワーとスピードのバランスについて、どう考えているのか。
 A・私は海外に挑戦するために、105キロまで10キロ以上体重を増やした。しかし、基本的な考え方としてはスピードを落としてまで体重を増やす必要はないと思っている。もちろん最低限のウエートは必要だが、体の使い方の方がもっと重要。ただ単に重くなるのではなく、自分がコントロールできる範囲で体を大きくしていくことが必要だと思う。


 Q・海外と日本の選手を比較すると、遺伝子レベルの埋められない身体能力の差があるといわれるが、米国などで実感したか。
 A・NFLのトップレベルになればあると思うが、日本の選手はまだ限界まで追い込んでいない。米国人はコア(体幹)や下半身などを徹底的にきたえるトレーニングをしている。日本選手もまだまだ伸びる余地があり、ベースができれば次のレベルでプレーすることができると思う。


 Q・近年は日米のコーチ同士の交流や、来日してプレーする米国人選手も増えてきた。フットボール大国である米国と、どのように関わっていけばよいか。
 A・以前に全米のコーチの会議に出席したが、2000人が参加した。これだけの人たちがプロの職業としてやっている。数の原理になるが、そのノウハウが常に蓄積されていくだけでもすごいこと。また、それらは常に進化している。最新だと思っていた情報がすぐに古くなってしまう。コンピューターの世界に近い。選手、コーチを問わず、そういう環境の中で長くいた人が日本に来るというのは、ものすごく大きな財産。実際、クラフト選手と一緒にいて、日々学ぶことが多い。交流はできる限り増やしていくべきだと思う。


【山田晋三(やまだ・しんぞう)氏のプロフィル】
 1973年栃木県生まれ。米国在住の小学生時にアメリカンフットボールを始める。関西学院大学時代、93年の甲子園ボウル優勝、アサヒ飲料時代の00年のライスボウル制覇にLBとして貢献。01年、米新興リーグ、プロフットXFLに参戦。日本人として初となる北米プロフットボール選手となった。02年はアリーナフットボール、03年はNFLヨーロッパアムステルダムに所属。03年、NFLタンパベイ・バッカニアーズのトレーニングキャンプに参加。U―19日本代表ヘッドコーチ、日本代表スペシャルチームコーディネータなどを歴任し、10年からIBMのヘッドコーチを務める。

【写真】Xリーグの記者発表に出席した、山田晋三IBMヘッドコーチ=8月24日、東京ドームホテル