ヘッドコーチがハドルをかけ、みんなが輪になって集まる。「われわれはプロなんだ。お金をもらってプレーをする。観客はお金を払って試合を見に来る。プロのレベルの試合をしなくてはならない。これからその練習が始まる」という話をされた。
 なんで私が英語を聞きとれたか? 何度も何度も同じことを繰り返し言われたからだ。怒鳴り声の中練習が始まった。「なんてエキセントリックなコーチなんだろう」と思った。その後、いろんなチームでプレーすることになるが、ヘッドコーチは常にこんな感じだ。選手を引き締め、盛りあげることがヘッドコーチの大事な仕事なのだ。


 ストレッチ、ウォームアップから始まって、アジリティー、そしてポジション別練習になった。
 各自、希望のポジションに分かれろと言われた。他を見ると、QBのポジションに何十人も集まっていた。「絶対ラインだろう」というガタイの選手もQB希望にたくさんいる。


 しかも見ていると、ボールも満足に投げられない。さすがアメリカ…。午前中は自分のやりたいポジションで練習をさせ、それを見てコーチ陣がポジション分けをした。
 私は、もちろん最初からラインのポジションに入った。選手は全員で80人ほどいたけれど、ラインのポジションに来たのはほんの数人だった。神経質そうな白人のオフェンスラインコーチの悲しそうな顔が印象的だった。


 午前中はとにかく走り込み、そしてアジリティーやステップ、フットボールスタンスの練習。チームが用意した軽食を食べ、休憩を挟んで、午後の練習が始まった。
 ウォームアップの後、ヘッドコーチの言う通りのグループに分かれろと言われた。私はラインバッカーグループに入れられた。
 「どっひゃー!」。ラインが少なかったし、白人コーチに気に入られたとばかり思っていた私は意外な展開に戸惑った。


 周りを見渡しても文句を言う選手は誰もいない。とりあえず、ラインバッカーの練習に入るしかない。最初は意外と良い感じでこなし、「新しい能力発見か?」と思ったが、バックステップが入るとすぐに遅れをとり、パスカバーになったら、完全にお手上げだった。
 更に英語の説明もいまいち分からないので、どの動きが正解なのかも分からず、なんのための練習なのかもさっぱり分からず、途方に暮れて初日のポジション別練習は終わった。


 長い長い練習の後、最後の走り込み。10ヤードを往復、20ヤード往復、30ヤード往復…。これが100ヤードまで続いた。
 40ヤードあたりから目の前がチカチカしてきて、80ヤードで寒さに耐えられなくなり、90ヤードで倒れた。でもぼんやりと意識はあって、とにかく寒い。
 気温35度をゆうに超えた日の練習。前日全く眠れず、食事も満足にとっておらず、時差ぼけもあって緊張していた私は、完全に日射病にやられたのだった。


 トレーナーとおぼしき人に首を冷やされ、水を与えられたけれど、吐いた。最後のハドルが長々と行われている間、私はずっと日陰に寝かされていた。
 初日のスケジュールが全て終わり、ハドルが解け、みんながバラバラと帰っていく中、キャプテンの「メジャー」は、まだ日陰で寝かされている私に「大丈夫? もう動ける? 私たちと一緒に住みましょう。さあ、行くわよ」と言った。(続く)

【写真】壁にはられた当時のベティさんのチームメートの写真