翌朝は、びっくりするほどの晴天だった。それよりも何よりも、無事に生きて朝を迎えられたことを神に感謝した。


 朝、迎えに来てくれると言っていたキャプテンの「メジャー」は、時間通りにバイスキャプテンと一緒にやって来た。二人は、部屋のドアを開けるやいなや「臭い臭い!」と大騒ぎし、全ての窓を開けて、空気の入れ換えをした。安ホテルのニオイかと思ったけれど、違ったのね。


 チェックアウトして、80キロの荷物全てを持って、キャプテンの運転で練習フィールドへ向かった。運転中も二人は賑やかに何やらしゃべり続けていた。


 フィールドに到着。オーナーはまだ到着していなかったので、ヘッドコーチにあいさつした。
 「日本から来ました。英語はできないけど、アメフト経験あり。ライン希望」と告げた。私のあいさつを受けて、ヘッドコーチは何やら言っていたが、英語かどうかさえも分からなかった。


 そして次々やってくる選手たちも私に、「What’s up?」と声を掛けてくる。初めて会った人には、「Nice to Meet you」と言いなさいという学校教育を受けた私は、この「W」で始まる疑問文になんて答えて良いのか、全く分からなかった。


 「What’s up?」とは、「What are you up to?」という質問の略。現在は疑問文「What is happening?」の意味の他にも、単純にあいさつとして使われているので、「What’s up?」と言われたら、「What’s up?」と返すことが多い。
 そんなことすら知らなかった私に、一癖ありそうなチームメートが寄ってきて、早速、悪い言葉を教えてくれた。


 私は一日一人ずつチームメートの名前を覚えようと決めていたので、早速このやんちゃそうな黒人の写真をチャキで撮って、余白に「Syatoya」と彼女の名前を書いた。
 ラインバッカーのシャトーヤは、当時19歳。バリバリの現役で、2012年に彼女がオールスターに選出された際は、オールスター戦の翌日に行なわれた私が出場したチャンピオンシップを見に来てくれ、12年ぶりの再会を果たした。彼女に昔の「悪」のイメージはなく、すっかり良いお母さんになっていた。


 練習初日は、まずはレジストレーション(選手登録)が行なわれた。当たり前だが、全て英語の用紙の質問にため息が出る。「What’s up?」に続き、こちらもお手上げ。
 辞書は持っていたが、そんなことをしていては間に合わないので、周りの人の用紙をカンニングしながら、適当に書いた。


 身長、体重を書く欄もあったが、計算する時間もなかったので、私と同じ体格の人を探して、彼女と同じ数字を書いた。見立て違いで、この年のプログラムの私の紹介は、体重が190ポンド、つまり86キロになっている。本当の体重の約1・5倍!
 ついでに言うと、メジャーに「年齢って書かなきゃダメ?」って聞いたら、彼女が、「シークレット」って書いていたので、私も同じように記載。プログラムの私の年齢欄には、「Secret」と掲載され、私より年上のメジャーの欄は訂正されて、「Top Secret」と掲載された。


 そして、いよいよアメリカ上陸初練習が始まった。(続く)

【写真】チームメートらと談笑するベティさん