翌朝、コンシェルジュの指示で、ホテルスタッフによってバス停まで荷物は運ばれ、無事デイトナビーチ行きのバスに乗り、その後はタクシーでホテルに向かった。


 当時、モーテル8レベルの安ホテルに泊まったことのなかった私は、古めかしいホテルに戸惑いつつも、キッチン付き、目の前がビーチの条件に気を奮い立たせようとしたが、特有のカビ臭さに気持ちがどんよりした。空も私と同様どんよりとしていた。


 小雨が降る中、カブスの試合に向かう。雨で中止になりませんように…。
 マイナーリーグの試合は予想とは全く違って、神宮球場を小さくした感じ、観客も200~300人程度、入場料もたったの10ドルだった。会場で、チームメートになるおそろいのチームTシャツを着たガタイのいい「お姉ちゃん」たちを探すのは容易だった。


 その中の一人に声をかけると、すぐにキャプテンを紹介された。キャプテンから「日本から選手が来ることはオーナーから聞いている」と言われ、ビザの件で私のことを面倒に思ったオーナーから、私は亡き者にされたのかなという最悪の予想は、幸運にも当たらずに済んだ。
 「きのうオーナーが迎えに来ることになっていたので、オーランド空港で8時間待っていた」と告げると、選手たちが口々に、「彼女はこう言っているんじゃない?」「いや、なんとかって言っているのよ」と私の英語を推理し始めた。


 何人かの推理を組み立てて、私の言っていることは、伝わった。「実はオーナーは、仕事をリタイアして、ミネソタから車でこっちに向かっているんだけど、まだ到着してないのよ」と言う。
 「だったら、代わりの人を迎えによこしてよ」と言いたかったけれど、私の一言にまたあの推理ゲームが始まると思うと言い出せなかった。ホテル代も請求したかったが、何も言うことができなかった。前途多難な日々の始まりだった。


 キャプテンはすごく面倒身が良さそうに見えたし、みんなから信頼を得ているように見えた。アメリカ人、みんな同じに見えて区別が付きづらいけど、彼女の名前と顔だけは覚えなきゃ。
 彼女は私に自分の名前を告げて「メジャーって呼んで」と言った。現役の軍人で、軍ではメジャーという階級なので、みんなからこう呼ばれているらしい。簡単な名前で良かった。


 ずっとキャプテンの隣で野球を見ていたので、彼女の顔だけはしかと覚えた。明日から練習が始まるので、今晩はしっかりと食べたかったけれど、この試合会場で、ホットドックか、チップスを食べるしか他にチョイスはなさそうだった。
 ホットドッグが夕飯だったのは、初めてだった。


 試合後、彼女たちにホテルに送ってもらって、無事ホテルに到着した。
 そしてこの夜、ハリケーンがやって来た。雨が強くなるとすぐに停電になり、波の音も大きくなった。ビーチの目の前の安ホテルを予約したことを後悔した。
 雨、風の音もどんどん大きくなる。周りを見ても停電だから真っ暗だ。避難するべきなのか。ホテルのスタッフは、私を呼びに来てくれるのだろうか。結局一睡もできず、次の日の朝を迎えた。

【写真】ハリケーンシーズンになると被害を受けることが多いフロリダ州・デイトナビーチ