一流の柔道家は組んだ瞬間、世界レベルのボクサーは最初にパンチを交換した時に相手の力量が分かるという。
 自分より強い相手と対峙した時にどうするか。考え方には二通りある。「相手の弱点を見つけて、そこを攻める」、そしてもう一つは「自分を信じて真っ向勝負を挑む」。


 1月3日、東京ドームで開催されたアメリカンフットボールの第70回日本選手権(ライスボウル)は、地力に勝る社会人の富士通が学生王者の関学大に快勝した。
 ここ10年では学生界最強といえる陣容の関学大は、勝つための準備を怠らなかった。しかし、戦術を超えた選手個々の力量の差は、残念ながら歴然としていた。それは、フィールドでプレーした関学大の選手が一番よく分かっているはずだ。


 関学大が勝つためには、オフェンスが富士通ディフェンスをコントロールして、守備陣が踏ん張る必要があった。
 だが、考え抜いた「スペシャルプレー」が思うように機能しない。その一つ。キックオフリターンで、二人のリターナーのうちボールをキャッチしなかった選手が故意に倒れ込み、トリックプレーを展開しようと試みるが、狙い通りにはいかなかった。
 チームの看板の一つであるOL陣に負傷者も出て、当初の目論見は徐々に崩れていく。


 関学大の「頭脳」である大村和輝アシスタントヘッドコーチは言う。
 「どっしり構えられると、一対一で力の差があるのでしんどい。決めるところで決めていれば展開は変わっていただろうが、プレーの精度が低かった。彼ら(富士通)はシンプルなことしかしていない。それに真っ向勝負ができたらいいが、そこまでたどり着いていない時にどうするか。それが課題」


 日本一を決する大一番の勝敗を分けたのは、富士通QBコービー・キャメロンからWR中村輝晃クラークへの2TDパスだ。
 30ヤードと51ヤード。速くて正確なピンポイントパスを、米国の大学で実績を残した司令塔がエースレシーバーにヒットした。


 関学大DBは、学生同士の試合では経験したことのない「異次元」のスピードとタイミングに翻弄された。


 WRとCBの対決は、NFLでも「キーマッチアップ」として、テレビ中継では試合中に何度となくクローズアップされる。
 時に、守備の他の10人から孤立するポジションCB。関学大の横澤良太、小椋拓海は学生レベルでは才能豊かなトップ級だが、経験を積んだXリーグのWRの技術は、彼らの想像をはるかに超えるものだったようだ。


 「ロングパスでのTDは痛い。ああいうのは、学生の試合では経験できない。想定はしていたが、防ぎきれなかった。作戦だけでなく個人のレベルを上げないと、社会人には太刀打ちできない」
 関学大・鳥内秀晃監督の試合後の談話である。


 前回19―22のスコアで敗れたが、パナソニックをあと一歩のところまで追い詰めた立命大の頑張りもあって、今回の関学大には大きな期待がかけられていた。
 観客数3万3521人がその証しだ。


 第1クオーター3分10秒。富士通のキッカー西村豪哲の49ヤード先制FGは、計り知れない圧力となって関学大守備陣の焦りを誘う。
 「自陣30ヤード以内に入られたら、確実に3点を失う」―。


 終盤は控え選手をフィールドに送り出す余裕を見せた富士通の藤田智ヘッドコーチは言う。「ライスボウルで学生と対戦するのは、プレッシャーでしかない」。勝って当たり前の試合を落とす怖さを正直に吐露する指揮官の言葉には、この大会に臨む社会人代表の微妙な立ち位置がにじむ。


 ライスボウルが終わって、決まって持ち上がるのは社会人と学生の代表による「日本一決定戦」の在り方だ。
 攻守のライン戦で優位に立つなど、関学大の健闘は称賛に値する。他の大学が出場していたら、もっと一方的な試合になっていただろう。


 実質プロの選手がいるXリーグと学生リーグでは、実力もそうだが進む方向がどんどん乖離している現実を再度見直す必要があるのではないか。
 「今の形でのライスボウルは、既に役目を終えたと思う」。さまざまな意見がある中、そう話す関係者は少なくない。(宍戸博昭)

【写真】第1クオーター、突進する富士通のRBジーノ・ゴードン=東京ドーム