監督が自らの指導方針と哲学を明確に示す一方で、学生の意見も取り入れる。5年ぶりに関東学生リーグを制した早大は、風通しのいい「大人のチーム」に見える。


 11月8日、横浜スタジアムで行われた法大との全勝対決を制した早大の濱部昇監督は、目を真っ赤にして記者会見場に現れた。冒頭、チームを支えてくれた関係者に感謝の言葉を述べ、記者の質問にはいつものように真摯に答えていた。
 「まだシーズンを前向きに続けられることに感謝したい。チームとして強くなるチャンスがある。試合前は、オフェンスが機能するか不安もあったが、自分たちのフットボールをすることができた」


 昨シーズン、ともに第4クオーターに逆転された日大と法大の「2強」を破っての堂々の優勝。危うさもあるが、随所でビッグプレーが飛び出し試合の流れを引き寄せる。今季の早大には何より勢いがあり、まだまだ強くなる可能性を感じさせる。


 それまで弟分の早大学院高を指導していた濱部監督が、大学の監督に就任したのは2013年。前年の夏合宿で部員が起こした不祥事の責任を取って辞任した前任者を引き継いだ。


 「過去2年は、自分の考えを押しつけがちで、新しいチーム作りに時間がかかった。それが今年になって、ようやく学生と自分の関係性が確立されて、うまくコミュニケーションが取れるようになった。あらためて、チーム作りの難しさを痛感している。技術的には、トップチームに後れを取っていたブロック、タックルといった基本的な部分を補ってきた」   
 地道な努力を重ねた結果、「ビッグベアーズ」は負けない集団に生まれ変わった。


 日大戦で負傷し、法大との試合はサイドラインで戦況を見守ったDL村橋洋祐主将は言う。「ミスをしても、仲間を信じてやってきた。目標は甲子園ボウル出場ではなく日本一」。監督同様言葉を選びながら、関東での優勝はあくまで通過点であることを強調した。


 高校日本一を経験した早大学院のメンバーが攻守の中心だが、大阪・豊中高出身の村橋主将をはじめ、外部から入学した選手の活躍も見逃せない。
 濱部監督は言う。「(早大)学院出身の選手かどうかは関係なく、全員がビッグベアーズの一員であることを意識してコミュニケーションを取ってきた」。教育者の家庭に育った指揮官は「自分が受け入れられない時期もあった」と、この3年間が決して順風満帆ではなかったことを打ち明けた。


 法大戦の5日前。濱部監督は東京・駒沢第二球技場で行われた高校の全国選手権関東大会でも、早大学院のサイドラインで指揮を執っていた。
 試合中に負傷した選手に駆け寄って声をかけ、試合後はあいさつに来た相手チームの主将と副将一人一人を激励していた。


 早大学院には、デンマークからやって来た交換留学生がいる。短期留学で正式な学籍がないため、試合に出ることはできない。
 しかし、母国でもアメリカンフットボールをプレーしていた彼は、熱心に練習に参加。試合では誰よりも大きな声で、チームメートを勇気づけている。
 その姿を見た濱部監督は、彼に背番号の入ったジャージーをプレゼントし、公式ではない内部のメンバー表にも登録したという。駒沢で大会関係者から聞いたいい話である。


 「最近は涙もろくて」と話す濱部監督が、試行錯誤を繰り返しながら就任3年目でつかんだ栄冠。学生がリーダーの覚悟のようなものを感じ取り、「この人のために頑張ろう」と心に決めたとき、チームは思わぬ力を発揮するものだ。

【写真】白熱した好ゲームを展開した早大と法大=11月8日、横浜スタジアム