「解説者」という肩書きで、アメリカンフットボールのテレビ中継のお手伝いをするようになって、今年でもう29年目になる。
 きっかけは1986年の秋。「甲子園ボウル」の中継が、NHKから大阪の毎日放送に移行して2年目のことだった。


 関学大出身の毎日放送・三好俊行アナウンサーが、甲子園ボウルの実況中継の練習をするために、合いの手を入れる役目を仰せつかった。場所は当時、阪急ブレーブスの本拠地だった西宮球場。オンエアされないという気楽な立場で、関西学生リーグの試合を“解説”した。
 その年の甲子園ボウルの解説者は、前年に続いて関学大OBの武田建さん。抜群の知識と軽妙な語り口は、フットボールファンならご存知だろう。


 翌年、その武田さんが退かれ、フットボール経験者ということで通信社の駆け出し記者に大役が回ってきた。関西学生リーグ、週末の特集番組で「慣らし運転」が始まった。
 初めて放送席で見た87年の甲子園ボウルは、京大が日大を41―17で圧倒し初の連覇を果たした。QB東海辰弥選手を擁する京大が、DL楢崎五郎主将率いる日大を蹂躙した試合である。


 母校が完敗する姿を見るのは、正直なところつらかった。いわゆる身びいきにならないように、できるだけ京大サイドに立って話をしたつもりだったが、後日「解説が日大寄りだった」というご意見をいただいた。
 ゲストとして隣に座った、国民栄誉賞の広島カープ・衣笠祥雄さんの素晴らしい人柄に触れたことを思い出に、次はなくても仕方ないと思った。


 ソウル五輪が開催された翌88年。なぜかまたお声が掛かった。関学大と日大がスリリングな攻防を展開した一戦は、日大が35―28で制した。放送終了後、ソウル五輪のシンクロナイズドスイミングで銅メダルを獲得したゲストの小谷実可子さんの横で、不覚にも涙を流したことを思い出す。


 東京勤務になった89年から、NHKがBSで始めたNFL中継の解説陣に加わった。実況アナウンサーには、その後フリーに転身しキャスターとして活躍している大塚範一さんがいた。


 当時からバラエティー番組でも才能を発揮していた大塚さんには、テレビは見る人に楽しさを伝えることが何より大切であると教えてもらった。
 それにはまず、実況アナウンサーと解説者が試合を楽しむこと。試合の流れを無視するようなおしゃべりはいけないが、画面に映るスタンドの観客やチアリーダーの動きにも目を配ることで、放送の幅が広がるということだった。


 「4回の攻撃で10ヤード進めば、攻撃権が更新される…」といった話は、さすがに最近ではあまりしなくなったが、シーズン開幕当初は基本的なルールの説明が必要な場合もある。
 毎年開幕を心待ちにしているコアなファンもいれば、初めてアメリカンフットボールを見る視聴者も少なくないからだ。


 NFLは、まさにスーパーアスリートの集まりである。動きが驚くほど速く、リプレー画面で確認しないと、何が起きたか分からないこともしばしばだ。
 俊足のWRと運動神経の塊のようなDBの競り合い。最前線で繰り広げられる攻守ラインの攻防など、一試合の中で見どころは満載だ。
 しかし、その魅力を余すところなく伝えるのは、なかなか難しい。録画でも一切情報を入れずに収録に臨むので、どこでメリハリを付けるかが大事になる。


 個人的には、主婦が興味を持って見てもらえるスポーツになれば、と思っている。大リーグは日本人選手の活躍もあり、細かいルールは分からなくても楽しめる一面がある。
 松井秀喜選手の豪快なホームラン、イチロー選手のシュアなバッティング、田中将大投手が強打者をきりきり舞いさせるシーンには、誰でも心が躍る。
 日本人選手がまだ一人も誕生していないNFLは、残念ながらこの部分で日本のスポーツファンにとって身近な存在になっていない。


 今年のNFLは、9月4日(日本時間5日)のパッカーズ対シーホークスで開幕する。レギュラーシーズンの試合数が大リーグの10分の一、NBAの5分の一の16試合しかないNFLは、あっという間にシーズンが終わってしまう。
 「きのうの試合はすごかったね」「あんなプレーは見たことがない」。ここ数年、社内のアメフットフリークから声を掛けられる回数が増えている。
 毎年多くのドラマがあるNFL。何年やってもうまくならない解説者にとっても、開幕まであと1カ月を切った2014年シーズンは楽しみでならない。

【写真】NFLでは開幕を控え、プレシーズンマッチが行われている(AP=共同)