試合前のハドル。DB佐藤康介主将(28)=帝京大出=が短い言葉でチームメートの士気を鼓舞した後、全員で警視庁第9機動隊の「隊歌」を歌い、戦闘モードは最高潮に達する。
 「昭和の日」の4月29日。好天に恵まれた川崎球場で行われた、社会人東日本選手権「パールボウルトーナメント」1回戦で、Xリーグ1部に初昇格した「警視庁イーグルス」が東京ガスと対戦した。試合は3-21で敗れたが、警察関係者のブラスバンドや家族が大勢駆け付けた応援風景は、他の社会人チームとは一味違い、新鮮だった。


 チームのトップリーグデビューを誰よりも楽しみしていたのは、RB迫田崇選手(34)の父・知仁さん(65)だ。警視庁OBの知仁さんは、明治大3年だった1968年の第23回甲子園ボウルに出場。関西学院大に36-38で惜敗した試合で、切れ味鋭い走りが魅力のエースRBとして2TDを挙げた。父にあこがれた迫田選手は日大三高で高校日本一になり、父と同じ明治大を卒業した後は、迷わず警察官の道を選んだ。


 メンバーのほぼ全員が大学でアメリカンフットボールを経験しているが、首都の警備を担う仕事が最優先。練習環境は決して恵まれていない。迫田選手は言う。「年に2回の定期異動があり、チーム作りという意味では難しい。でも、一つの部隊として家族より多くの時間を共有しているので、チームワークという意味ではどこにも負けない」
 チーム創設時からプレーイングマネジャーとしてチームを支えた知仁さんは「地味だが、ごつごつと当たるフットボールがイーグルスの魅力。チームの強化は、オール警視庁でやらないと1部で戦うのは苦しい。去年の入れ替え戦では勝ったが、その時のメンバーがだいぶ抜けている」と話す。


 「隊員の心身の鍛錬と士気の高揚を図るとともに、都民に親しまれる機動隊づくりの一環」として誕生したイーグルスは、71年創部と歴史がある。Xリーグ1部は初めてだが、96年にXリーグが発足するまでは、社会人リーグで安定した力を維持してきた。企業が支援を打ち切り、Xリーグの実業団チームが次々とクラブチームに運営形態を変えていく中、採用試験に合格し入部してくる強豪大学出身者も少なくない。
 守備の中心的な存在、DLの曽我部雅也選手(35)=専修大出=は、所属していたXリーグのオンワードスカイラークスの廃部を機に、27歳で警察官になった。東日本大震災では被災地に派遣され、九州の暴力団対策でも応援部隊の一員に選ばれた。「元々警察官志望だった」という曽我部巡査長は「将来はデカ(刑事)になりたい」。そのための異動が予定されていて、本番の秋のシーズンにフィールドでプレーする可能性は低いという。


 現在46人いる登録選手の入れ替えが激しく、試合中にスタンドから戦況を観察し、フィールドの選手に指示を出す「スポッター」と呼ばれる人材がいないのが悩み。下部リーグを含め「スポッター」を置かないチームは、警視庁以外に見当たらない。
 昨シーズン、日本選手権(ライスボウル)で3連覇を果たしたオービックを筆頭に、群雄割拠の1部リーグで勝ち抜く“体力”は、イーグルスにはまだない。しかし、佐藤主将は「きょうの試合で、ある程度手ごたえをつかんだ。最後まであきらめずにやりきる、自分たちのフットボールをしたい」と前向きだ。
 ヘルメットに貼られたチームのロゴマーク「若鷲(わし)」が口にくわえた月桂樹は「勝利を念ずる心」を表している。警察官らしく規律と犠牲の精神を重んじる「ファイティングポリスマン」は、持ち味の団結力でトップリーグでの活躍を誓う。

【写真】試合前に士気を高めるXリーグ1部に初昇格した警視庁=撮影:Yosei Kozano、29日、川崎球場