探し続けていたジグソーパズルの最後の1ピースが見つかった、と言っていいかもしれない。「KEIO UNICORNS」が、名門再建をその手腕に託したデービッド・スタント新ヘッドコーチ(HC)が、本格的に指導を開始した。


 横浜市日吉にある慶応義塾大学グラウンド。初夏を思わせる強い日差しを浴びながら、スタントHCは精力的に動き回っていた。


細かいステップや体の使い方を、流ちょうな日本語に英語を交えて学生に丁寧に教える。慶応の選手のポテンシャルの高さは、すでに承知している。だからあえて、ファンダメンタル(基礎)を叩き込むのが新チームにとっては大事なのだという。


 「アメリカの選手はパワーはあるが、スタディーしない。日本の選手はよく勉強するし、コーチのし甲斐がある」。早くも手ごたえを感じている陽気なハワイアンがリードする練習は、活気にあふれている。「システムより、筋力トレーニングとベーシックな技術の習得が大切」と、単調な反復練習の重要性を説く。


 「日本のフットボール文化が大好き」と話す、大の親日家が日本でコーチとしてのキャリアをスタートさせたのは1993年。リクルート・シーガルズ(現オービック・シーガルズ)のHCに就任し、社会人のトップチームに育て上げる。
 96年シーズンはXリーグの初代王者に導き、日本選手権(ライスボウル)では当時学生フットボール界で無敵を誇った京都大学を激戦の末19-16で破り、初の日本一に輝いている。


 日本での成功体験で「自分のやり方が正しいことを確認できた」という。「人間性の素晴らしい人は、素晴らしいコーチになる」。97年のライスボウルで対戦した京都大学の水野弥一前監督はまさにそんな人物で「水野さんのことは、今でもリスペクトしている」という。


 コーチとしての哲学の一つに「DISCIPLINE(規律)」の重要性を挙げる。「選手をチアアップすることはもちろん大切だが、時には叱ることも必要。特に学生は安心してしまうとミスが出る」。4月からは、朝7時からと、授業が終ってからの2部練習になるという。
 自らも午前4時には起きてチームに合った練習方法を模索する毎日だが「大好きなフットボールに携われる喜びを感じている」という。


 慶応は昨シーズン、関東を制した法政大学とリーグ戦で20-20の同点の後のタイブレークで涙をのんだ。安藤彬主将は言う。「法政に負けたのは、体力と勝負どころでの経験の差。学生主体のチームでもそこそこ勝てるので『危機感』が足りなかった。フットボールへの情熱にも欠けていた」


 OB諸兄にはお叱りを受けそうだが、慶応がポテンシャルを生かし切れない要因は、安藤主将の言葉に集約されている。余談だが、前述の水野前京都大学監督が、「一番教えてみたいチームは」という質問に、迷わず慶応を挙げたことを今でも覚えている。


 ハワイ・オアフ島に家族を残しての単身赴任。友人がいるジョージア大学からのオファーを蹴ってやって来た「UNICORNS」との契約は5年。「1年目は、チームとしての基礎を築くことが目標。自分の考えを学生にインストールしたい」と話すスタントHCは4月10日で50歳。コーチとしての円熟期を迎える。
 新チームの春の初戦は、4月20日の関西学院大学との交流戦。「関学との試合は、自分にとってもビッグチャレンジ」と、対戦を楽しみにしている。


 1947年(昭和22年)に開催された第1回甲子園ボウルで、慶応は同志社大学を45-0で下し、栄えある初代チャンピオンに輝いている。2年後の第3回大会も制したが第4、5回大会で関西学院大学に連敗して以降、甲子園への道は閉ざされている。
 「一角獣(UNICORN)」の鋭い角の部分に、頼もしい人材を得た「陸の王者 KEIO」。64年ぶりの復活を目指す挑戦が始まった。

【写真】昨U19日本代表チームの副将を務めた慶応のDB三津谷を熱心に指導するスタントHC=19日、日吉グラウンド