10歳は若く見える、とてもチャーミングな女性である。1964年生まれの鈴木弘子さん。愛称「ベティ」は、米女子プロフットボールリーグ(WFA)で攻撃ライン(OL)としてプレーしている。海を渡って14年目。レベルの高いリーグでの活躍が認められ、このほど第2回女子世界選手権(6月28日~7月6日・フィンランド)の米国代表45人のうちの一人に選ばれた。大会前までに米国籍を取得するという鈴木さんは「ぜひ金メダルを獲得したい」と意気込む。


 ポジションは、QBにボールをスナップするセンター。173センチ、65キロは180センチ、120キロが平均というWFAのOLとしては極めて小柄だ。「特に体を大きくするための努力はしていない」そうで、機動力を武器に主力選手として複数のチームを渡り歩いてきた。
 東京の高校、短大時代はシンクロナイズドスイミングをしていた。しかし「採点競技は、性に合わない」という理由で、あっさりやめてしまう。アメフットとの出会いは1995年。スポーツクラブのインストラクターとして働くかたわら、日本の女子チーム「レディコング」でプレーする機会を得る。「初めて見たアメフトの試合は、自分が出た試合だった」。ぶっつけ本番のデビュー以来、その魅力に取りつかれ、本格的な競技人生がスタートする。


 2000年に渡米して、プロリーグの入団テストに合格。以後、最も激しいコンタクトが求められるOLや守備ラインを任されてきた。昨年は、WFAのサンディエゴ・サージで全米王座を獲得。念願のチャンピオンリングを手にしている。
 長い髪をかき上げながら「趣味はお酒を飲むこと」と、ひと昔前の豪快なラグビー選手のようなことをさらっと言う。しかし、試合中にろっ骨を折る大けがをしてからは、それなりに体に気を使うようになった。「体調を維持する上で大切なのは食事。栄養を摂取するタイミングと質に気を付けている。以前は試合前日も飲んでいたお酒も、シーズン中は控えている」。短大で学んだ栄養学が、役に立っているという。オフシーズンはボディービルダーの栄養指導もしている。


 今季は、自宅のあるロサンゼルスのチームでプレーする。プロといってもNFLとは違い、待遇はよくない。1試合のギャラは100ドルから300ドル。日本製のハイブリッド車を自ら運転して、移動する日々だという。お色気を売り物にする「ランジェリーフットボール」から、何度か声がかかった。モデル並みの容姿と高い運動能力を備えた選手がプレーするエンターテインメント性を重視したスポーツは、米国での人気が高い。鈴木さんは「あまり熱心に誘われたのでその気になったが、結局言葉の問題で採用されなかった」と振り返る。「ランジェリー」は、選手全員にマイクをつけて中継するので、細かい英語の発音が問われるのだという。


 「自分のことが一番好きな人間なので、指導者には向いていない」。こう話す鈴木さんだが、今日本で問題になっているスポーツ指導者の暴力について「アメリカは褒めて才能を伸ばすコーチングが主流。コーチが自分の言葉を持たないと、教え子に手を上げることになるのでは」と分析。プロ選手ならではの、示唆に富んだ言葉である。
 選手としての可能性を信じて、できる限り本場で選手を続けると宣言する。9月で49歳になる「ベティ」の挑戦は、まだ道半ばなのかもしれない。


※写真協力:鈴木弘子

【写真】2000年から米国プロリーグで挑戦を続ける鈴木さん(カリフォルニア・クエイク時代)