隊列を組んだ京大の選手たちが、号令に合わせて整然とグラウンドを一周する。まさに、一糸乱れぬという表現がぴったりだ。


 10月27日、京都の西京極陸上競技場で行われた関西学生リーグ伝統の一戦、久しぶりの全勝対決となった京大‐関学大の試合前の風景だ。フィールドに寝そべり、ゆったりとストレッチングをするチームが多い中で、京大の試合への入り方は、一昔前の映像を見ているようだった。


 京大は今シーズン、長くチームを率いたカリスマ監督・水野弥一氏の勇退に伴い、35歳の西村大介監督にバトンタッチした。
 西村監督は、京大時代は守備ラインとして活躍し、1998年には主将を務めた。卒業後も保険会社に勤務するかたわらクラブチームでプレーを続け、2003年にドイツで開催されたワールドカップでは日本代表に選ばれ、優勝に貢献している。


 専任コーチとして母校に帰ってきたのは06年。「低迷するチームを何とかしたい」という強い思いからだった。京大は95、96年に甲子園ボウルで2連覇を果たして以降、不振が続いている。


 東大と並ぶ最難関校が抱える悩みは、いつの時代も同じ。人材不足である。学生フットボール界のトップに君臨しているころは「京大でフットボールをしたい」という全国の進学校の高校生が、厳しい受験戦争を勝ち抜き入部してきた。しかし、長い低迷で「GANGSTERS」のブランドは、徐々にその輝きを失っていく。


 「コーチに就任した当時は、京大は昔アメリカンフットボールが強かったことを親から聞いたという学生がほとんどだった」そうだが、「最近はまた、京大でフットボールを、という受験生が少しずつ増えてきた」。目ぼしい高校生に、チームとして徹底した受験対策を施す努力も報われつつあるという。


 「ポストカリスマ」を任された若き指揮官は言う。「自分は水野さんにはなれない。だから180度方向転換して、学生と一緒に考えながらチーム作りをしている」。ただ、こうも付け加える。「水野さんが掲げていた『リーダーの輩出』という目的と『日本一になる』という目標は、私が監督をする間は変わることはない。より高い目標を設定することで、社会で通用する人材を育てたい」。きりりとしたマスクに、キラキラと輝く目。「ヘッドコーチ」と呼ばれることを好む指導者が少なくない中で、名門復活の期待を一身に背負う好漢は、オーガナイザーとしての資質も兼ね備え、日本風の「監督」という肩書がよく似合う雰囲気を漂わせている。


 ライバル関学大との全勝対決は7‐27で完敗。立ち上がり、攻撃陣が関学大の守備陣を翻弄する場面もあったが、総合力で及ばなかった。
 すっかり日が落ちたフィールドで、西村監督が言った。「これから大学に戻って練習します」。試合が終わったばかりなのに、である。当たり前のように、全く気負いのない言い方だった。


 この言葉を聞いて、水野氏がこの男にチームの再建を託した理由がわかったような気がした。恩師は彼が「カリスマ性」を備えた生粋のリーダーであることを、学生時代からとっくに見抜いていたのではないだろうか。

【写真】今季から京大を指揮する西村大介監督=写真提供:京都大学ギャングスターズ