すっかり間が空いてしまいました。2014年シーズンもはや中盤。NFLは既に全勝チームがなくなり混戦模様です。実力均衡で勝敗がまったく予想できない面白い試合が続いています。


 昨シーズンは、NFL開幕直後にイーグルス―レッドスキンズを取り上げて、チップ・ケリーが新ヘッドコーチに就任してモデルチェンジを果たしたイーグルスの攻撃プレーの仕組みについて解説をさせていただきましたので、今年もNFLから1試合を取り上げてみたいと思います。
 これまでこのコラムでは、攻撃プレーやクロックマネジメントについて解説してきましたが、もともと私はフットボールコーチとしては戦術よりもQBのスキル指導のスペシャリストです。そこで今回は、その専門分野であるQBのパッシングスキルについて解説します。


 私が主宰している「QB道場」ではQBのパッシングスキルを中心に指導しています。おそらく「パッシングスキル」というと腕の振り方が重要なポイントだと想像される方が多いのではないかと思います。しかし、実際には私は腕の振り方よりもむしろ、フットワークを磨くことに指導時間の多くを割いています。
 いろんなチームのコーチとお話をしていると、「ウチのQBはキャッチボールではすごく良い球を投げるんだけど、実戦になるとダメなんだよ。メンタルが弱いのかなあ」といったお嘆きの言葉をよく聞きます。


 キャッチボールでは良い球を投げる選手が実戦で力を発揮できない原因は、選手によってさまざまであり、確かに「メンタルの弱さ」がその要因である場合もあるのですが、実際には「メンタル」よりも「フットワーク」と「判断力」に問題があるケースの方が多いと私は感じています。


 今季、プレシーズンの予想に反し、6勝1敗(第7週終了時点)と好調をキープしているダラス・カウボーイズのトニー・ロモも、以前は「フットワーク」の悪さに起因する投げ損じや勝負どころでエラーの多いQBの一人でした。
 ちなみに私は自分が指導するQBに、NFLの試合映像から「良い見本」「悪い見本」となるプレーを見つけては紹介するのですが、以前のロモは「悪い見本」として登場することが多い選手でした。
(ちなみに良い見本として登場することが多いのはペイトン・マニングやトム・ブレイディ。最近ではラッセル・ウイルソン、アンドルー・ラック、ニック・フォールズなどです)


 過去に何度もシーズン終盤の大事な試合に勝てず、「持ってないQB」と評されるロモが、オーナーであるジェリー・ジョーンズからは擁護され続け、他のポジションの強化がどんどん行われること。
そしてロモ本人は他のQBに取って代わられるどころか、NFL屈指の高給取りとしてカウボーイズのエースQBでい続けていることは、私にとっては何とも不思議でした。


 逆にQB以外のポジションにはかなりのタレントがそろってきており、カウボーイズのオフェンスはQBさえ良くなればかなりの力を発揮するだろうと思っていましたので、なぜQBを入れ替えないのかなと思っていました。


 しかし、今シーズンのロモの試合を見て、フットワークが大きく改善していることに驚きました。私はQB道場での指導で、ドロップバックからのパスにおいてターゲットを探している間に行うべき「フットワークのファンダメンタル」として①後ろ足に体重を乗せた状態でステップを踏み続けること(以下、このステップを「ヒッチステップ」と呼びます)②投球動作に入る瞬間に、投げる方向に対して一番投げやすい位置に後ろ足を踏み変えることを大事なポイントとして伝えています。


 以前のロモは、最初に投げたいターゲットがフリーになっていない時やプレッシャーがかかった時にしばしばヒッチステップが止まって足が地面に張り付いてしまい、結果として無理な態勢からパスを投げてしまうことがあったのですが、今シーズンはこの「フットワークのファンダメンタル」を高いレベルで遂行しています。


 では、カウボーイズがロモの大活躍で38―17とセインツに快勝した第4週のハイライト動画(※1)をご覧いただきながら、ロモの改善したフットワークについて解説してみたいと思います。
(※1)http://www.nfljapan.com/streaming/detail/6036.html


 【00:07からのプレー】♯9ロモはスナップを受けて3歩下がった直後にいったん投球動作に入りかけますが、レシーバーがフリーになっていなかったため投げるのをやめます。しかし投球動作を止めた後も「ヒッチステップ」を踏み続けていることにご注目ください。
 そこにセインツ♯77DLバンクレーが腕を伸ばして襲いかかりますが、ロモは「ヒッチステップ」のリズムのまま、まるでボクサーのようにステップバックしてバンクレーの腕をかわしました。
多くのQBがいったん投球動作を止めてしまうと、足も止まってしまいます。そのせいでDLに捕まったり、無理な体勢からボールを投げようとしてコントロールを乱してしまったりする確率が飛躍的に高くなってしまうのです。
 さらに右方向へ走りながら投げるロモの投げる直前に右足の使い方も絶品なのですが、このスキルについてはまた別の機会にご紹介します。


 【00:21からのプレー】このプレー、♯9ロモはランプレーのフェイクを入れた「直後」に、右サイドからLBの裏に走り込んでくる♯83WRウイリアムズに投げようとしています。投げようとしたのはフェイク後に左肩が一瞬右方向に入った瞬間です。しかしセインツの♯50LBロフトンがパスであることを素早く察知して下がってしまったため、このタイミングでパスを投げることをあきらめます。
 しかしロモは慌てることなく、♯83WRウイリアムズが♯50LBロフトンとその左にいた♯53LBハンバーの後ろを通り過ぎるのを待ちます。この時もまたロモはボクサーのようにステップを踏み続けています。
 そして♯83WRウイリアムズがフィールドを横切るのに合わせて、後ろ足のつま先の向きが左方向に回っていくのがお分かりいただけますでしょうか。この結果、ロモはウイリアムズが♯50LBロフトンとその左に居た♯53LBハンバーを通り過ぎた直後にできたわずかな隙間に、タイミングを逃す事なくパスを投げることができたのです。


 【00:54からのプレー】フィールド左サイドの♯83WRウイリアムズが真っすぐフィールドを駆け上がりますが、セインツの♯20DBディクソンが♯83WRウイリアムズの内側をぴったりマークしています。これに対して♯9ロモは♯20DBディクソンから一番遠い♯83WRウイリアムズの外肩にピンポイントでパスをヒットし、見事なコントロールでタッチダウンを奪いました。
 少し分かりくいかもしれませんが、このプレーでもロモはスナップを受けて3歩下がった直後に小さく踏んだヒッチステップで、後ろ足のつま先の向きを左方向に回しています。この小さなステップで体の向きを変えたことで、腰が回転しやすくなり♯83WRウイリアムズの外肩への正確なコントロールを可能になったのではないかと思います。


 その他、ここでは解説を付けていない他のパスプレーについても、総じてロモは投げたい方向に対して後ろ脚を自分が投げやすい位置に正確に着くことができていると思います。つまりフットワークによって、「真正面にいるターゲットに対してキャッチボールをしている状態」を作り出しているから投げ損じが少ないのです。


 逆に、先述の「キャッチボールですごい球を投げる」のに、実戦になると力を発揮出来ない選手は、この「フットワークのファンダメンタル」を遂行できていないために、得意な「真正面にいるターゲットに対してキャッチボールをしている状態」を作り出せず、コントロールが悪くなったり、ボールを置きにいったりしてしまうというエラーが起きるわけですね。


 こんな風に書くとすごき簡単なことで、「NFLのQBなのに、そんな簡単なことができないのか?」と思われるかもしれません。しかし、NFLが対戦するのはNFLのディフェンスであることを忘れてはいけません。


 QBが「真正面にいるターゲットに対してキャッチボールをしている状態」を作り出す「フットワーク」を遂行するには、正しいタイミングで正しいパスターゲットを選択する「判断力」が必要です。
 逆にNFLの各チームのディフェンスは、パスカバーのサインを分かりにくくするためにプレー開始直前まで複雑な「ディスガイズ(偽装)」を行ったり、激しいパスラッシュを加えてプレッシャーをかけたりと、さまざまな形でQBの「判断力」を狂わせに来るのです。


 その厳しい状況で安定して正確な「判断」と「フットワーク」を遂行し続けることができるかが「勝てるQB」であるための重要な条件なのではないかと思います。


 果たしてロモの好調はこのまま続くのでしょうか?
 今季のカウボーイズはここまでOLが素晴らしいパスプロテクションでロモを守り、彼が「判断」と「フットワーク」を正しく遂行することを極めて容易にしてくれています。その中でロモは「蝶のように舞い、蜂のように刺す」がごとくパスを決め続けているのですが、「さすがに投げるまでに時間をかけ過ぎだろう」と感じるプレーも散見されます。


 今後、対戦各チームのDLからのプレッシャーが激しくなってくると、比較的投げるタイミングの遅いプレーが多いカウボーイズのパスプレーは決まりにくくなるでしょうし、ロモがヒットされて負傷するリスクも高くなります。
 ですので、ロモが好調を維持できるかどうかはカウボーイズのOL陣の活躍次第だろうと私は見ています。レギュラーシーズン後半戦もカウボーイズオフェンスに注目していきたいと思います。

【写真】今季好調のカウボーイズのオフェンスをけん引するQBロモ(AP=共同)