後編、大変遅くなりました。さて、前編の最後に書かせていただいた「今後、学生が社会人に勝つことは『これまで以上に』難しくなってくる」と私が考える理由。その大きな理由のひとつがアメリカ人選手の存在です。


 オービックが2005年にケビン・ジャクソン選手を入団させ、その大活躍でライスボウルを制する前後から、Xリーグで活躍するアメリカ人選手はいましたが、2013シーズンはこれまで以上にアメリカ人選手の活躍が際立ったシーズンでした。
 中でもオービック、富士通、IBMなどで活躍するアメリカ人選手の出身校を見れば分かる通り、アメリカの中でも強豪大学で活躍してきた「本物」たちです。彼らのパフォーマンスレベルの高さはもちろんですが、彼らの存在が同じフィールドでプレーする日本人選手のレベルを引き上げきているようにも感じます。


 また、強豪大学出身のアメリカ人選手同士が対戦する試合では、アメリカ人選手同士の競争心にも火がついて、彼らの試合での「気合レベル」も大きく上がっているようにも見えました。
 中でもQBケビン・クラフト選手(UCLA出身)率いるIBMのハイパーオフェンスは衝撃的でしたが、それに触発されるように、IBM以外のチーム同士の試合においても、日本のフットボール界では滅多に見ることができなかった「強豪チーム同士のハイスコアリングの接戦」が増えました。このことに象徴されるように、2013シーズンはXリーグ(上位チーム同士の試合)のフットボールが新しいステージに突入したシーズンだったと思います。


 当然ながら上位各チームのディフェンスはオフェンスの得点力向上に対してどう手を打つかを研究していくでしょうから、今後はディフェンスもさらにレベルアップしていくことでしょう。


 昔話になりますが、私が現役時代の晩年にチャレンジしたアリーナフットボール(8人制のインドアでのフットボール)のリーグは、試合給200ドル程度の超薄給で10数時間のバス移動を伴う遠征試合などを行う、なかなか過酷な条件のプロリーグでしたが、そこにもディビジョン1出身の選手がゴロゴロいました。
 アメリカにおいてフットボールで「メシを食っていく」ことはそれだけ厳しいのです。ですので「日本でフットボールをしてメシが食える」環境は多くのアメリカ人選手にとっておそらくとても魅力的なことなのです。


 つまり、社会人上位チームを取り巻く経済環境や、Xリーグのレギュレーションが変な方向に変わらなければ、これからも強豪大学出身のアメリカ人選手が日本でプレーをすることになるでしょう。
 また、レベルの高いアメリカ人選手と日常的に一緒に練習をする機会、試合で対戦する機会が増えていくことで、日本人の社会人選手のパフォーマンスレベルも学生時代のピークを大きく上回っていくと予想します。


 そんなXリーグの激戦を勝ち抜いてくる社会人王者に学生王者が勝つチャンスはあるのでしょうか? もちろん社会人と対抗できるレベルの選手が複数そろったシーズンに、一発勝負の試合で相手の予想範囲を越えるようなスペシャルプレーを緻密に丁寧に仕込んでいけば、勝機はあるかもしれません。ですがその確率はかなり低いでしょう。学生チームが「社会人に勝つためにアメリカ人選手を入れる」ことは、個人的には「学生フットボールの目的」からは離れていくと思います。


 このようにXリーグと学生リーグ、それぞれの「在り方」は今後どんどん乖離していくのではないかと私は予想しますし、個人的にはますます「乖離していくべき」だと考えています。つまり現時点でも学生ファンからは「不公平だ」と言われることの多いライスボウルは今後「ますます不公平」になっていく可能性が高いのです。


 少し脱線してしまいますが、「不公平」という言葉は基本的に学生を擁護する役割で使われています。社会人チームでのコーチ経験が長かった私からすると、ファンの感情面で何かと学生側が擁護されることの多いライスボウルは社会人チームにとっても「不公平」な感じがします。
 例えば、昨年(2013年1月3日)のライスボウルで関学が見せたフィールドゴール隊形からのスペシャルプレー。あのプレーはルールブックに記載されている『相手チームを困惑させるために、交代や交代者を装ってはならない。相手チームを困惑させるために,交代選手や交代方法と関連した戦法を用いてはならない』というルールの隙間ギリギリの、反則を取られてもおかしくないプレーだったと思います。


 関学がやると「周到に準備されたプレー」として称賛されますが、同じプレーをオービックがやっていたら、おそらく「卑怯なプレーだ」と非難されたでしょう。
 また、例年、試合中に小競り合いが起きて、社会人選手が「アンスポーツマンライクコンダクト(スポーツマンらしくない振る舞い)」の反則を取られることがあります。
 もちろんチャンピオンシップゲームでの見苦しい行為は厳に慎むべきではありますが、私自身が選手、コーチとしてのライスボウル出場において経験した限り、学生選手による試合中の社会人選手を挑発するような暴言もなかなかのものです。むしろそちらが社会人選手の反則行為を誘発しようとする「アンスポーツマンライクコンダクト」ではないかとさえ感じたりもします。


 SNSなどでのフットボールファンのやりとりを拝見していると、「実力で劣っているのに一生懸命頑張っていて、伝統と品格もある関西学院」が『正義』で、「ガイジンと日本代表クラスの選手をズラリと並べ、さらにはファンのクラウドノイズまで使って学生を倒しにくる品のないオービック」が『悪』という構図が出来上がっているように感じますが、個人的には違和感があります。でも『正義』と『悪』はハッキリしている方が「物語」は面白くて分かりやすい、という意味ではありなのかもしれませんね。


 少し脱線が過ぎてしまいましたが、学生を批判したいわけでも、社会人を擁護したい訳でもありません。そもそもライスボウルは「異種格闘技戦」のようなものだと思います。そもそもいろんなことが不公平であることが前提のライスボウルで、不公平さを議論、批判したりすることにはあまり意味がないと思うのです。
 そして、せっかくの「日本で一番注目されるアメリカンフットボールの試合」が終わった後のファンの一番の話題が、その「不公平さ」であることも少し残念に思います。


 その「不公平な試合における両者の工夫、駆け引き」を楽しむという意味では、「シーズン最大のビッグゲーム」という位置付けでなければ、社会人王者VS学生王者の対決はあっても良いとは思うのですが、社会人・学生ともに、このライスボウルに至るプロセスで、もっと公平で魅力的な試合が存在しますし、そういう試合をもっと増やしていくこと、そしてもっと注目されるようにするための方策を考えていく時期に来ているのではないかと思います。


 「言うは易く、行うは難し」であることはよく分かっていますが、 アメリカでカレッジフットボールとNFLがそれぞれの魅力でファンを獲得しているように、異種格闘技戦で注目を集めるのではなく、学生リーグとXリーグがそれぞれの魅力で注目を集められるようになっていくこと、そして学生選手達が「社会人を倒したい」という意識を越えて「あの舞台でプレーをしてみたい」という憧れを感じるようなXリーグになっていくことを願っています。

【写真】IBMのQBクラフトをサックして雄叫びをあげるオービックのDLジャクソン(11)とビーティージュニア=撮影:Yosei Kozano、12年、川崎球場