関西学生リーグは関学の単独優勝で幕を閉じました。最終戦の関学―立命は、両チーム守備陣の堅い守りの前に関学、立命ともに得点を奪う事ができず、大一番には非常に珍しい0―0の引き分けでの試合終了(注1)。通算戦績を6勝1分けとした関学が、5勝1敗1分けの立命を上回り、単独優勝となりました。


 スコアレスドローという結果だけを見れば地味な試合ですが、両チームの様々な駆け引き、思惑が交錯する熱戦でした。今回はその熱戦の第4Q終盤の関学の攻撃にスポットを当ててみたいと思います。
 今回も一般社団法人リコネクトテレビジョン「RTV」制作の映像で試合の映像をご覧になりながらお読み下さい。
http://rtv-live.org/archives/887/


 第4Q残り5分06秒、関学0―0立命 関学1stダウン(映像1:52:00より)
 関学陣36ヤード地点から始まった関学の攻撃。関学のQB斎藤選手は、毎プレー、ディレイ・オブ・ザ・ゲーム(試合の遅延行為)の反則になる直前までゲームクロックを回してからプレーを開始しました。つまり、関学サイドはこの攻撃シリーズが始まる時点で既に引き分けで試合を終わらせることを視野に入れていたと思われます。


 第4Q残り55秒(プレー開始時) 関学0―0立命 関学3rdダウン(映像1:59:00より)
 1プレー毎にたっぷり時間を使いながら攻撃を進め、残り時間を4分以上減らした関学。立命陣34ヤード地点からの3rdダウンの攻撃でRB鷺野選手がランプレーで12ヤード前進。立命陣23ヤード地点で1stダウンを獲得します。
 関学はキッカーの三輪選手が今シーズン一度もフィールドゴールを成功させていない状況とはいえ、距離的にはフィールドゴールを狙える位置までボールを進めました。


 このプレーが終了した時点で試合残り時間は48秒。タイムアウトを残していた関学がもしもこの試合に「勝つ」事を一番に考えていたとしたら①更に攻撃を行って少しでも立命エンドゾーンに近づく②残り3秒くらいまでゲームクロックを回してからタイムアウトを取る③最後はフィールドゴールを蹴り、立命に反撃する時間を残さずに試合を終了させる―という攻め方が定石です。
 しかし、この場面で関学はタイムアウトを取らずに残り16秒までゲームクロックを回し、ディレイ・オブ・ザ・ゲームの反則を受け5ヤードの罰退。そして次の攻撃でQB斎藤選手はプレー開始と同時にニーダウン。0―0のまま試合を終了させました。


 ここまで関学は6戦全勝、立命は5勝1敗。つまり関学はこの試合に引き分けても単独優勝が決まります。しかし「関学はなんでフィールドゴールを蹴らないんだ?」と思った方は少なくなかったのではないでしょうか。
 もし、フィールドゴールを蹴っていたら①外して同点(0―0)で優勝②入れれば3―0で勝ち、優勝です。もし、この二つしか可能性がなければ、当然フィールドゴールを蹴るリスクはありません。


 しかし、「フィールドゴールを蹴る」という選択肢には、「6点を失う」リスクがある、ということを忘れてはいけません。もし関学がフィールドゴールを蹴った場合、キックされたボールを立命がブロックし、そのボールをそのまま関学エンドゾーンまでリターンすると、関学は6点を失い、試合に負ける、という可能性があったわけです。
 かなりまれなケースではありますが、少なくとも私自身は社会人チームのコーチ時代にビッグゲームで1度経験しています。(やられた側です)


 つまり関学コーチ陣は、「引き分け延長戦なし」という現行のルール下において、関西学生リーグでの「単独優勝」をもっとも確実に成し遂げる選択をしたというわけです。関学が「この試合に勝ちにいかなかった」事に驚いた方もおられたようですが、上記の観点からすればごく当然の選択であったと思います。
 ちなみに、関学のチーム関係者と思われる方が試合後、「現行ルール(引き分け延長戦なし)なら、今後同じ状況が100回来ても100回ニーダウンだ、と言っているのを聞きました。


 それよりも私が驚いたのは、試合残り時間が10秒を切ったあたりで、関学応援席から大きなカウントダウンが聞こえてきたことでした。つまり関学ファンの多くが「引き分け以上で単独優勝」という状況を理解した上で観戦しており、最後のニーダウンを「単独優勝」の最善の手段と理解していたという事です。


 ちなみに第3Qに関学が3rdダウンでパントを蹴って大きく陣地を挽回したプレー(注2)がありました。同じ日の第1試合の関大―京大で、京大が同じく3rdダウンでパントを蹴った時には、事情を理解できない方が大半だったようで、特に大きな歓声や拍手はなかったのですが、関学の3rdダウンでのパントには関学応援席からはすかさず歓声と拍手が起こっていました。これもまた関学ファンのフットボールに対する理解度の高さを感じた瞬間でした。


 後日、友人である元早稲田大学ラグビー部監督の中竹竜二氏(注3)に、この「引き分けニーダウンへのカウントダウン」の話をしたところ、「『勝ち文化』(勝つチームの文化)ですね」という言葉が返ってきました。同感でした。
 ファンのフットボールに対する理解度の高さと試合の結果は、直接は関係のないことではありますが、ファンを含めたチームに根付く『勝ち文化』に、あらためて関学の強さを感じさせられた試合でした。


(注1) 同点で試合終了:現在、関西学生リーグには延長戦を行う制度はありません
(注2)3rdダウンでのパント:通常は4thダウンでパントを蹴りますが、守備側がパントを予測していない3rdダウンでパントを蹴ることで陣地を大きく挽回することを狙って行う作戦。日本の現役選手の中でもこの作戦を理解していない人は少なからずいると思います
(注3)中竹竜二氏:早稲田大学ラグビー部を大学選手権2連覇に導き、現在は日本ラグビー協会のコーチングディレクターとしてコーチの育成に取り組んでおられます

【写真】突進する関学大のRB飯田=11月24日、長居陸上競技場