さて、早速続きです。
 残り3分で3点差に迫り、キックオフを龍谷大陣に大きく蹴り込んだ京大に対し、逃げ切りを図る龍谷大のオフェンスは龍谷大陣16ヤード地点で残り2分52秒からです。


 龍谷大としては、攻撃権を持ったまま試合を終わらせることが出来ればベストですが、タイムアウトを3回残している京大を相手に2分52秒を使い切るには、ざっと計算して2回以上の1stダウンの獲得が必要です。しかも自陣でのパスプレーは、インターセプトをされるとフィールドゴール圏内で京大に攻撃権を渡してしまうリスクがありますし、また上編でも書いた通り、パスを失敗すると計時が止まってしまいます。
 つまりこの状況でのパスプレーはそれなりにリスクのある選択です。ですので、できればランプレーだけで1stダウンを取りたいところです。しかし、逆に京大ディフェンスはランプレーに的を絞った守り方をしてくるため、ランプレーだけで1stダウンを獲得する難易度は通常よりも高くなります。龍谷大にとっては、リードを奪いながらも攻め方が非常に難しい状況だった訳です。
 引き続き、一般社団法人リコネクトテレビジョン「RTV」制作の試合映像をご覧になりながらお読み下さい。

http://rtv-live.org/archives/478/


 第4Q 残り2分52秒、龍谷大14―11京大、 龍谷大陣16ヤード地点、 龍谷大1stダウン(映像2:06:30より)
 龍谷大は1stダウンと2ndダウンでランプレーを選択します。そして2ndダウンのプレー終了と同時に京大が1回目のタイムアウトを取ります。
 第4Q 残り2分2秒、 龍谷大14―11京大、 龍谷大陣22ヤード地点、 龍谷大3rdダウン<1stダウン獲得まで残り4ヤード>
 ここでの龍谷大のプレー選択とその結果起こり得る状況をシュミレーションしてみます。


<ランプレーを選択した場合>
 1stダウンを獲得できれば、さらに続けて3回連続でランプレーを選択すれば、京大は残った2回のタイムアウトを使い切らざるを得ません。そしてその3回のランプレーで新たな1stダウンを獲得できなくても、4thダウンでパントを蹴れば、京大陣深くまで陣地を挽回できます。さらに、京大のオフェンスに残される時間はおそらく20秒前後で、京大を窮地に追い込むことができます。
 1stダウンを獲得出来ない場合、おそらく京大は3rdダウンのプレー終了後、すぐに2回目のタイムアウトを取るでしょう。ですから残り時間を減らすことはできませんが、少なくとも京大のタイムアウトを残り1回に減らしてからパントを蹴って攻撃権を渡すことができます。


<パスプレーを選択した場合>
 1stダウンを獲得出来た場合の状況は、ランプレーを選択した場合と同様です。京大を追い詰めることができます。しかしパスが失敗して1stダウンを獲得できなければ、計時が止まりますので、京大にタイムアウトを使わせることもできずに、パントを蹴って攻撃権を渡すことになってしまいます。
 おそらく京大は同点もしくは逆転を狙うのに充分な時間とフィールドポジションを得る可能性が高くなります。一番リスクのある選択肢ですが、逆にリスクが大きいだけに、京大ディフェンスの裏をかくことはできるかもしれません。
 まさにこの試合の行方を大きく左右する大事なプレーです。この状況で龍谷大は選択したのはパスプレーでした。しかしパスは失敗に終わります。「リスクを背負って」のパスプレーの選択は龍谷大にとって最悪の結果となりました。
 さらに龍谷大は4thダウンで陣地を挽回するためのパントを蹴りますが飛距離が伸びず、龍谷大陣46ヤードでボールデッド(プレー終了)。京大に「残り1分47秒」と「タイムアウト2回」を残してしまった上、絶好のフィールドポジションで攻撃権を渡す形になってしまいました。


 ここからは京大のオフェンスを見ていきます。
 第4Q 残り1分47秒、 龍谷大14―11京大、龍谷大陣46ヤード地点 京大1stダウン(映像2:10:00より)
 京大はここからのオフェンスで一度は龍谷大陣35ヤード地点までボールを進めますが、残り1分17秒からのプレーで反則を犯し、15ヤードの罰退を科せられます。50ヤード地点まで下げられてしまい、一転して厳しい状況に追い込まれます。
 第4Q 残り1分10秒、 龍谷大14―11京大、50ヤード地点 京大2ndダウン<1stダウン獲得までは残り25ヤード>でパス成功、しかしフィールド内でプレーが終了したため計時は回り続けます。
 第4Q 残り43秒、 龍谷大14―11京大、龍谷大陣37ヤード地点、京大3rdダウン<1stダウン獲得までは残り12ヤード>でパス成功、12ヤード前進し1stダウンを獲得します。このプレーは京大の27番岡部選手が短いパスをキャッチした後、自らサイドラインを出てプレーを終了させたので計時が止まりました。岡部選手のクレバーな判断が光る、京大にとっては非常に大きなプレーでした。
 第4Q 残り35秒、 龍谷大14―11京大、 龍谷大陣25ヤード地点で京大が1Stダウンでパス成功、12ヤード前進し、1stダウンを獲得、ここで京大は2回目のタイムアウトを取ります。
 第4Q 残り27秒、 龍谷大14―11京大、 龍谷大陣13ヤード地点、京大1stダウンのパス成功で7ヤード前進、自らサイドラインを出てプレーを終了させたので計時が止まります。
 第4Q 残り22秒、 龍谷大14―11京大、 龍谷大陣6ヤード地点、京大2ndダウン、京大のランプレーは龍谷大ディフェンスに阻まれ前進することができませんが、自らサイドラインを出てプレーを終了させたので計時が止まります。しかし京大は反則を犯し
10ヤード罰退します。
 第4Q 残り18秒、 龍谷大14―11京大、龍谷大陣16ヤード地点、京大2ndダウン<1stダウン獲得までは残り12ヤード>でパス成功、タッチダウン、京大はトライフォアポイントのキック成功で、得点は龍谷大14―18京大となり、そのまま試合終了となりました。終始劣勢だった試合を一気にひっくり返した京大の劇的な大逆転劇でした。


 「残り時間」をめぐって両チームのコーチのいろいろな思惑が交錯したこの試合、最後に京大が逆転タッチダウンを奪ったプレーにおける両チームのコーチの駆け引きにも、「京大にタイムアウトが1回残っていたこと」が、少なからず影響を与えていたのではないかと思われます。
 もしも京大にタイムアウトが残っていなかったとしたら、1stダウンもしくはタッチダウンを獲得出来ずにフィールド内でプレーが終了した場合、計時を止める術がありません。残り18秒であれば、次のプレーを開始する間もなく試合終了となってしまう可能性もあります。つまりランプレーやショートパスという選択肢がほぼ消えてしまうのです。つまり龍谷大ディフェンスにとっては的が絞りやすくなるということです。
 しかし、タイムアウトを1回残せていた京大は、ランプレーやショートパスを選択してもタイムアウトを使って計時を止めることが出来る状況でした。また得点差がフィールドゴールで追いつける3点差でしたので、ランプレーやショートパスで少しでもエンドゾーンに近づいてフィールドゴールを蹴りやすくするという選択肢もあったはずです。つまり龍谷大にとっては的を絞りきるのが難しい状況となっていた訳です。


 最後に京大が選択したのは、ランプレーのフェイクを入れてからのパスプレーでした。ランプレーもある程度しっかり守る必要のあるLB(ラインバッカー)とエンドゾーンを守るSF(セフティー)の間にできたスペースに決まったパスでした。
 タイムアウトが残っていなければ、京大のプレー選択も龍谷大の守り方も変わっていたでしょうし、結果としてどうなっていたかは神のみぞ知るところですが、いずれにしても、先述の龍谷大の3rdダウンでのパス失敗の結果、京大がタイムアウトを使わずに済んだことが、京大にとって大きなアドバンテージになったのは間違いありません。


 シーズンも終盤に近づき、今後ますます試合終了間際の攻防が勝敗を分ける接戦が増えてくるはずです。アメリカンフットボールの基本的なルールが理解できてきたファンの皆さんは、ぜひゲームクロックの計時のルールも覚えて、試合終了間際の攻防における両チームのコーチ同士の「残り時間」をめぐる駆け引きも楽しんでみて下さい。

【写真】龍谷大戦で逆転のTDパスをキャッチした1年生WR河野(写真は大教大戦)=撮影:山岡丈士