2013年シーズンもはや前半戦が終了。いろいろな方のSNSへの書き込みなどを見ていると、国内前半戦のベストゲームは、私自身は見逃してしまった「オービック龍村対IBMクラフトの、2人のパサーによる壮絶な撃ち合い」でしょうか。
 当ページで中村多聞さんや小座野容斉さんがこの試合について書かれていましたが、それを読むだけでも当日の試合会場の興奮が伝わってきます。ちなみに龍村選手はオービックシーガルズでQBコーチをしていた時に指導していた選手。こんな「見応えのあるパッシングゲーム」を演出できるパサーを多く輩出することも、私の主宰する「QB道場」の使命のひとつであると思っています。


 ちなみに私自身が生観戦した前半戦のゲームの中で一番面白かった、というよりハラハラした試合は、オービック対IBMと同じ日に開催された関西学生リーグの京大対龍谷大の試合でした。正確に言うと、面白かったのはこの試合の第4Qの残り6分45秒から。そこまでは京大のオフェンスの内容がひどすぎて、見るに堪えない試合でした。


 アメリカンフットボールというスポーツを観戦する際の大きな楽しみのひとつは「時間との戦い」、いわゆる「クロックマネジメント」です。そして「クロックマネジメント」はサイドラインにいるコーチの判断力が問われる場面です。まさにこの試合は「クロックマネジメント」が両チームの明暗を分ける形になりました。というわけで、今回はこの試合を題材に、「クロックマネジメント」のケーススタディーをしてみたいと思います。


 やはりファンの方に注目されやすいのは、リードされているチームが「時間を節約」しながらオフェンスを進めて逆転を試みるシーンなのですが、意外と注目されにくく、かつ大事なのがリードしているチームの「時間のつぶし方」です。
 ここでゲームクロックの計時ルールを簡単に整理しておきましょう。


 基本的にアメリカのカレッジフットボールと同じルールで試合を行っている日本国内の公式戦で、ゲームクロックの計時が止まるのは以下のケース。
①タイムアウト(前後半3回ずつ)
②パス失敗
③ボールを持っている選手がサイドラインを出てプレー終了
④ファーストダウン獲得
⑤攻守交代
さらに、もう少し細かく説明すると①②⑤のケースは、次のプレー開始時に計時再開、③のケースは、前後半の残り2分まではレディ・フォー・プレー(注1)の合図で計時再開、前後半残り2分を切ると次のプレー開始時に計時再開となっています。
(注1)レディ・フォー・プレー:プレー終了後、審判が次の攻撃開始地点にボールを置き「もうプレーを始めても良い」という準備完了の合図。つまりプレー開始時よりも少し早いタイミングで計時が再開するのです。
 では、ここからは試合の映像を見ながらお読みください。この試合は、一般社団法人リコネクトテレビジョン「RTV」制作の映像でご覧頂けます。
http://rtv-live.org/archives/478/

 第4Q 残り6分51秒、龍谷大14―3京大、京大2ndダウン(映像1:51:00より)。ここで11点差を追いかける京大が痛恨のファンブル。攻撃権を龍谷大に渡してしまいます。第4Q残り5分14秒、龍谷大14―3京大。 龍谷大が敵陣20ヤード地点で1stダウンを獲得。龍谷大は京大のファンブルで得た敵陣34ヤード地点からの攻撃のチャンスでさらに1stダウンを獲得し、敵陣20ヤード地点までボールを進めてきました。


 標準的なレベルのキッカーを擁するチームであれば、この敵陣20ヤード地点というのはフィールドゴールを狙える距離に入ったと考えます。ここで、この試合を勝ち切るためにリードしているチームはどんな事を考えてプレーを選択するのでしょうか。
 もちろんここからフィールドゴールもしくはタッチダウンでさらに追加点を奪うことができれば、龍谷大は京大にまさにとどめを刺す事ができます。しかし、それと同時に、このようなケースでリードしているチームが「より確実に勝ち切る」ために考慮すべきポイントがあります。それは「敵に反撃する時間をできるだけ残さないこと」です。


 先述の②③の通り、パスを失敗するか、ボールを持った選手がサイドラインを出てしまうと計時が止まってしまいます。逆にランプレーを選択し、ボールを持っている選手がフィールド内でタックルをされてプレーを終了すれば、ディフェンス側がタイムアウトを取らない限りゲームクロックは回り続けます。
 つまり、龍谷大が「敵に反撃する時間をできるだけ残さないこと」のみを最優先するのであれば、ランプレーを選択し、ボールを持っている選手がフィールド内でタックルをされてプレーを終了すれば良いという事です。
 仮にそうした場合のシミュレーションをしてみましょう。どのようなランプレーをするかにもよりますが、ここでは1回のランプレーで「6秒」を消費するとします。またルール上、前のプレー終了後は40秒以内に次のプレーを開始しなければいけません。フィールドにはゲームクロックとは別に、この「40秒計」も設置されています。このルールを活用し、40秒計が残り2秒になるまで次のプレーを開始しないようにすることで「38秒」を消費するとします。


 龍谷大が1stダウンを獲得したプレーはボールを持った選手がサイドラインを出てプレーを終了したので③のケース。残り2分を切っていないので、レディ・フォー・プレーの合図で5分14秒から計時が再開。龍谷大は4分51秒1stダウンの攻撃を開始しました。
 以下、シミュレーションです。
 残り4分51秒で1stダウンのプレー開始(ランプレーを選択し、ボールを持っている選手がフィールド内でタックルをされてプレーを終了)これで6秒消費。残り4分45秒(計時継続)。38秒消費。残り4分7秒、2ndダウンのプレー開始(ランプレーを選択し、ボールを持っている選手がフィールド内でタックルをされてプレーを終了)。6秒消費。残り4分1秒(計時継続)。38秒消費。残り3分23秒、3rdダウンのプレー開始(ランプレーを選択し、ボールを持っている選手がフィールド内でタックルをされてプレーを終了)。6秒消費。残り3分17秒(計時継続)。38秒消費。残り2分39秒4thダウンでフィールドゴール。6秒消費。残り2分33秒4thダウンのフィールドゴールの成否に関わらず、この時点で最大で残り2分33秒まで、残り時間を減らす事ができたわけです。


 しかし、この試合で龍谷大はここから3回連続でパスを試み、いずれも失敗に終わりました。これは②のケース。計時が止まり、次のプレー開始まで計時が再開しない。つまり最も残り試合時間が減らないプレーが結果的に3回続いてしまったという事です。
 さらに不運にもフィールドゴールにも失敗。11点差のまま、4分27秒を残して京大に攻撃権を渡してしまいました。「残り4分27秒」と「残り2分33秒」。1回の攻撃シリーズで取れる最高得点はタッチダウン(6点)と2ポイントコンバージョンの8点ですから11点差を埋めるには2回の攻撃シリーズが必要。京大にとってはタイムアウトを使うことなくもらった約2分は、神の救いに思えたに違いありません。


 そして京大はこの残り4分27秒からの攻撃で、ここまでの駄目っぷりが嘘のようにパスが決まります。わずか7プレー、所要時間1分27秒で自陣20ヤードからの80ヤードのドライブを完結させてタッチダウン。さらに2ポイントコンバージョンも成功させて14―11と3点差に迫りました。この時点で残り時間は3分。タイムアウトも3回まるまる残したままです。
 もちろん残り時間が変われば、両チームの攻め方、守り方も変っていたでしょうが、単純計算すると「恵みの2分」がなければ、この時点で残り時間は約1分。この後のキックオフでもし残り1分であれば、京大は一か八かのオンサイドキックで攻撃権を取りにいくしか選択肢がなかったと思われますが、「残り時間3分」と「タイムアウト3回」を残している京大は、ディフェンス陣が踏ん張れば確実にもう一度攻撃権を得る事が出来ると判断し、キックを龍谷大陣に大きく蹴り込む(注2)という選択をしたのでした。
(注2)オンサイドキックで攻撃権を取りにいくことは、成功の確率が低いだけでなく、失敗するとフィールド中央付近で相手に攻撃権を与える事になるため、ディフェンス陣が踏ん張って相手チームの攻撃を3回でパントに追い込んだとしても、パントによってフィールドポジション的に自陣の奥深くに追い込まれてしまう可能性が高くなります。


 ちなみにここで書いているようなシミュレーションはあくまでも一般的な考え方にすぎず、チームのさまざまな事情で、一見セオリーから外れるような戦い方を選択せざるを得なくなる事があるのも事実です。
 日本のファンの皆さんにはまだまだあまり伝わっていないと感じますが、アメリカンフットボールというスポーツを「コーチになった気分で観戦する面白さ」は、おそらく野球の比ではありません。今回取り上げている「クロックマネジメント」もその面白さのひとつ。ぜひ楽しみ方の幅を広げて頂ければと思います。
 次回は、残り時間3分からの攻防を考察してみたいと思います。どうぞお楽しみに。

【写真】チームを逆転勝利に導いた京大のQB小原=撮影:山岡丈士、9月29日、EXPO FLASH FIELD