皆さん、こんにちは。「QB道場」を主宰しております新生(しんじょう)と申します。このコラムでは、「Coach’s EYE」のタイトル通り、このスポーツが日本ではまだマイナーであるが故、なかなか一般の方には伝わる機会のない「コーチ目線」の、ちょっとマニアックなアメリカンフットボールの見方をご紹介していこうと思います。どうぞよろしくお願いします。


 さて、日本もアメリカも各リーグが続々と開幕を迎えました。各チームが今年はどんな戦い方をするのか、という興味が尽きない開幕戦。特にコーチの入れ代わりが激しいNFLでは、コーチが代わることで前年まで低迷していたチームがまったく別のチームのようになって勝ちまくるケースもしばしばあります。
 最近ではジム・ハーボーがスタンフォード大学からサンフランシスコ・フォーティナイナーズ(49ers)のヘッドコーチになり、低迷していた49ersを大躍進させ話題になりました。


 ハーボーと同じくカレッジで成功したコーチのNFLへの転向という意味で、今年注目を集めているチームが、フィラデルフィア・イーグルスです。今年、イーグルスのヘッドコーチに就任したチップ・ケリーは、昨シーズンまでオレゴン大学のコーチとして大活躍。彼の「革新的なオフェンスシステム」は爆発的な得点力を発揮し、カレッジフットボール界を席巻しました。そのケリーがNFLでもオレゴン大学と同様の戦術を用いて戦うのか、私も注目していました。


 ケリーがオレゴン大学で使っていたオフェンスシステムの大きな特徴は、一つのプレーの中で、同時に「複数の攻撃地点」を創り出し、その「複数の攻撃地点」の中から「ディフェンスがもっとも薄いところ」にボールを供給するというところにあります。これだけでは意味不明だと思いますので、後ほど具体例をご紹介します。
 カレッジフットボール界では、近年このような戦術を用いるチームが増え、多くのチームが高い成果を上げているのですが、このオフェンスシステムにおいては、結果的QBがボールを持って走る機会が増えてしまうため、QBのけがにナーバスなNFLでは現時点ではまだポピュラーではありません。
 果たして、ケリーはイーグルスにどのようなオフェンスシステムをインストールしたのか。では、イーグルスのワシントン・レッドスキンズとの開幕戦のハイライト動画※1とプレーチャート※2を見ながら解説してみたいと思います。

※1http://www.nfljapan.com/score/streaming/55851.html
※2スライドの3、4枚目、「◯=オフェンス」「▽=ディフェンス」のプレーヤーを表す


【プレー解説1】動画00:40<図1> QBビック(7)からWRジャクソン(10)へのパス

47NEWS

このプレーは同時に以下の3つの地点を攻撃しています
①RBマッコイ(25)の右サイドへのラン(赤線)
②QB ビックの左サイドへのラン(青線)
③WRジャクソンの左サイドへのパス(緑線)

それぞれの攻撃地点に対するディフェンスの状況をチェックしていくと
①マッコイの右サイドへのランプレーには守備側レッドスキンズのLBフレッチャー(59)をブロックすることができません(赤線)
②ビックの左サイドへのランにはレッドスキンズのDBウィルソン(26)をブロックすることができません
③WRジャクソンの左サイドへのパスの攻撃地点(点線で囲んだエリア)に対しては「ブロックできないディフェンダー」がいませんので、QBのビックは③ジャクソンにパスを投げることを選択。16ヤードのゲインを奪いました


【プレー解説2】動画04:00<図2> QBビックのタッチダウンラン

47NEWS

このプレーは同時に以下の二つの地点を攻撃しています
①RBマッコイの右サイドへのラン(赤線)
②QBビックの中央へのラン(緑線)

それぞれの攻撃地点に対するディフェンスの状況をチェックしていくと
①マッコイの右サイドへのランプレーにはレッドスキンズのDLボーエン(72)が追いついてしまいそうです(赤線)
②ビックの中央へのランの攻撃地点(点線で囲んだエリア)には、ボーエンがマッコイを追いかけていなくなってしまったため「ブロックできないディフェンダー」がいませんので、ビックはマッコイにボールを渡さずに自ら走ることを選択。3ヤードを走り切りタッチダウンを奪いました


 この試合、前半から順調に得点を重ねたイーグルスは、後半のレッドスキンズの追い上げをかわして33―27で勝利。解説させていただいたように、ケリーはカレッジレベルで圧倒的な得点力を誇ったオフェンスシステムを、基本的には「そのまんま」NFLに持ち込み、そしてNFLのヘッドコーチとしての初陣を勝利で飾りました。
 このオフェンスを有効に機能させるためには、QBの正確で素早い判断力とQB自身の走力が重要。そういう意味ではNFLのQBとして屈指の走力を持つビックにはうってつけのオフェンスシステムと言えると思います。というより、ビックがいるからこそイーグルスのフロント陣はケリーを招聘したのかもしれません。


 果たしてケリー率いるイーグルスは、オレゴン大学同様にシーズンを通じて爆発的な攻撃力を発揮することが出来るのか。この先の対戦チームがどのように対応してくるのか。また今後、QBビックのランプレーの回数が増えていった場合、NFLレベルの激しいタックルに対してビックがけがをせずにシーズンを乗り切る事が出来るのか。引き続き注目していきたいと思います。


 奇しくも、開幕戦でイーグルスと戦ったレッドスキンズのQBグリフィンは、昨年ルーキーながらその走力を武器に大活躍をしたものの、シーズン終盤に自らのランプレーで膝の靭帯を負傷。プレーオフに強行出場しましたが、再び痛め敗戦。オフ中のリハビリは長引き、プレシーズンゲームにも出場することができず、開幕戦にはぶっつけ本番での出場となり、やや精彩を欠くプレーぶりとなりました。ビックの活躍とグリフィンの苦戦を交互に見ながら、やはりQBが走る事にはそれなりのリスクが伴うと感じた開幕戦でありました。

※動画リンク:NFL日本公式サイト

【写真】今季、イーグルスのHCに就任したチップ・ケリー(AP=共同)