「正念場」という言葉がある。広辞苑によると、元々は歌舞伎の用語で、それが次第に世間に浸透し、今では「ここぞという大事な場面、局面」という意味で広く使われている。
 全米大学体育協会(NCAA)のフットボール・ボウル・サブディビジョン(FBS=旧1部A)の第10週は、3日から7日まで各地で続いた。


 この時期になると、伝統の一戦や、各組織のタイトル争いなど、それぞれのチームにとっての正念場が続く。フットボールシーズンとしてまさに佳境である。


 この週の試合の中で最も興味を集めたのは、やはり南東リーグ(SEC)西地区の主導権争い、アラバマ大とルイジアナ州立大(LSU)の大一番だろう。
 第9週から始まった今回の選手権選考委員会のランキングでアラバマ大は4位。LSUは2位といずれも高位。それだけではなく、近年はこの対戦の結果が、全米の王座争いに、影響していることも、関心を呼ぶ大きな要因となっている。


 最近5年間の成績を見ると2010年、11年とLSUが連勝。12年から昨14年までアラバマ大が3連勝である。
 しかし7日、アラバマ州タスカルーサのブライアント・デニー・スタジアムに10万1821人の大観衆を集めたこの大一番は、攻守に上回ったアラバマ大が30―16でLSUに今季初黒星をつけた。


 試合は第2Qから動き始め、アラバマ大がペースをつかんだ。残り11分8秒、ゴール前4ヤードへ攻め込んだアラバマ大は、ここで手堅くFGを狙い、アダム・グリフィスが22ヤードのキックに成功した。続いて残り8分51秒、ランプレーの大黒柱、RBデリク・ヘンリーがゴール前2ヤードから突進してTDを奪った。


 一方、LSUも反撃に出て残り6分12秒にはQBブランドン・ハリスが40ヤードのパスをWRトラビン・デュラルへ決めてTDを返し、残り2分22秒にはトレント・ドミニクが39ヤードの同点FGを決めた。
 このまま後半へ突入するかに見えたが、アラバマ大はハーフタイム14秒前にLSU陣37ヤードまで攻め込み、ちゅうちょなく55ヤードのFG。グリフィスがこれを決めて13―10で折り返した。


 アラバマ大がなぜ常勝なのかを垣間見る試合運びである。結果論かもしれぬが、この優位が第3Qの2TDを生んだように思う。
 なお、慣れないお方もおられると思うが、今回の「週刊TURNOVER」から必要な時間の表記は原則、各Qの残り時間で表すことにするので、ぜひご了承いただきたい。
 経過時間の表記は日本のスポーツ報道では常識となっているが、米国ではゲームクロックそのものを書いてくる。試合終了に近づくとこちらの方が迫力が出るし、また外電の翻訳にも余計な心配をしないで済むので、ぜひご納得いただきたい。


 後半、特に第3Qはアラバマ大の独り舞台だった。13分にはヘンリーが1ヤードの突進。2分47秒には7ヤードを乗り越えて、この日3本目のTD。勢いに乗るアラバマ大は、第4Q12分45秒にもグリフィスの29ヤードのFGを加えて30―10とさらに差をつけ、大勢を決めた。 LSUは9分18秒、RBレオナード・フォーネットがTDを返したが、及ばなかった。


 ヘンリーはこの日、36回走って210ヤードを稼ぎ3TDの大活躍。アラバマ大は守備陣の出来栄えも上々で、LSUのフォーネットを19度のランで31ヤードに抑え込んだ。
 SEC西の混戦模様はこれで一段と激しくなった。19位のテキサス農工大をランク外のオーバーン大が26―10と破り、18位のミシシッピ大も延長戦でランク外のアーカンソー大に52―53で苦杯を喫した。


 ミシシッピ大―アーカンソー大は、クオーターごとの得点が全く同じという経過をたどり、延長戦は先攻のミシシッピ大がまずTDを挙げた。後攻のアーカンソー大も必至の反撃。第4ダウンでQBブランドン・アレンの放ったパスが見事に通った。
 一気にゴール前へ迫ったが、ここでファンブルが連続し、あわやの展開。攻撃権を手放さなかったアーカンソー大は、アレンがWRドルー・モーガンへ9ヤードのパスを通してTDを返した。


 しかもこのプレーで相手はフェースマスクの反則。ゴール前2ヤード足らずの位置に置かれたボールを目にして、ブレット・ビエレマ監督はこの日442ヤード、延長戦での6本目のTDを記録し、働くだけ働いたアレンにこう言葉をかけた「ご苦労だが、もう1プレーお願いできまいか」。アレンはうなずき、自らの突進で、2点のTFPを成功させた。


 SECの東では10位のフロリダ大が、ランク外のバンダービルト大と接戦を演じ9―7で辛勝した。コラム仲間の水野彌一さんのセリフではないが「2点差でも勝ちは勝ち」。フロリダ大はあっさりと地区優勝を決めた。


 ビッグ10では3位のオハイオ州立大がミネソタ大を26―14で下し、9戦全勝。東地区優勝をかけた7位ミシガン州立大との全勝対決が期待されていたが、そのミシガン州立大は、ネブラスカ大に38―39と1点差で敗れた。
 17位ミシガン大は49―16でラトガーズ大に快勝し、伝統の大一番、オハイオ大との決戦へ向けて調子を上げてきた。
 西の9位アイオワ大はインディアナ大を35―27で下して依然9戦全勝である。


 ビッグ12は8位のテキサスクリスチャン大(TCU)と14位オクラホマ州立大との全勝対決が話題だったが、オクラホマ州立大の守備陣がTCUのハイパワーな攻撃を上回り、49―29で勝利を収めた。
 もう一つの全勝校で6位のベイラー大はカンザス州立大の食い下がりを31―24と退けた。また21位ノースウエスタン大は23―21でペンシルベニア州立大を破った。


 大西洋岸リーグ(ACC)では1位クレムソン大が23―13と、16位のフロリダ州立大との決戦を制して、選手権大会出場へ有力な足場固め。
 太平洋12大学では11位スタンフォード大が42―10とコロラド大に快勝し、23位カリフォルニア大ロサンゼルス(UCLA)は41―0とオレゴン州立大に完封勝ち。12位ユタ大は34―23でワシントン大に勝った。
 独立校では5位ノートルダム大が42―30でピッツバーグ大を下した。


 このほか24位の中部アメリカン連盟(MAC)のトリド大は、3日の試合で、北イリノイ大に27―32で屈した。
 火曜日の対戦は珍しい。アメリカン体育連盟(AAC)に今季から加盟、話題となった海軍士官学校は、ランク13位まで上げていた同じAACのメンフィス大に45―20と快勝し、さらに注目度を高めた。


 最後になったが、10日発表の選考委ランキングは1位クレムソン大、2位アラバマ大、3位オハイオ州立大、4位にノートルダム大。注目は5位にアイオワ大が上がってきていることだろう。

【写真】LSUのRBフォーネットのゴール前での突進を阻止するアラバマ大守備陣(AP=共同)