つい先日、首都圏在住者の同窓会が開かれた。関学中学部1期生の集まりで、名簿上は約20人。10人から返事があったが、当日二人が来られなくなって、8人の会合となった。
 「小学校は知らんぜ」「六年間国民学校やからな」。私たち同士では非常によく通じる、暗号のようなセリフを並べて、なみなみと注がれたグラスを挙げた。


 戦火が大陸から大海原へ広がろうとする寸前、全体主義のタガをますます締めようと、文部省がそれまでの「小学校」(厳密に言うと尋常小学校)という呼び方を、「国民学校」と変えたちょうどその年、1934年4月から1935年3月までの間に生まれた私たちが1年生として入学した。


 この国民学校は1941年(昭和16年)4月に始まり、終戦の翌々年、つまり1947年(昭和22年)3月を限りに元の小学校へ戻った。
 つまり、私たちは小学校には通うことなく、また小学生と呼ばれることもなく、6年間を終えたのである。冒頭の「暗号」はその間の共通の事情を語り合っただけで、別段あの戦時体制に賛同したわけではない。念のため申し添える。


 しんどい時代だった。娯楽と言えば映画で、それしかなかった。その上、国民学校の児童生徒が見るのは、というより見に行くのを薦められたのは、「加藤隼戦闘隊長」とか「轟沈」とか「マレー沖海戦」とか、戦意高揚ものばかりであった。
 かなり戦局も押し迫ったころ、皇軍兵士慰問のために製作したという娯楽映画が封切られた。「勝利の日まで」という題がついていた。サトウハチロー作詞の同じ題の主題歌があって、歌の方が先に世の中に流れていた。


 千葉県市川市の名勝「三本松」の向かいにあった三松館という映画館には長蛇の列ができた。見ることができるのは中学生以上だったが、5年生の私たちも何時間もかけて並び、見つかったら中学生だと言い張るまで、と覚悟を決めて切符を買った。


 徳川夢声が司会し、歌謡曲をコントでつなぐ趣向で、当時の有名な喜劇俳優らが総出演する豪華版だった。調べてみると昭和20年1月封切りだったそうで、だったらこちらはまだ4年生だったことになる。
 戦後そのタガが外された。だが、映画が娯楽の王座を占めていることに変わりはなかった。邦画、洋画を問わず人々は映画館に殺到し、むさぼるように映画を見た。


 悲劇。喜劇。恋愛もの。冒険もの。新制中学生はささやかなお小遣いを一生懸命ためては、この娯楽にうつつを抜かしていた。多種多様な出し物に魅了されっぱなしだったが、中でもこれまでなかったジャンルの米国映画が、若者の心をわしづかみにしていた。西部劇である。


 東から西へ、未開地の開拓のために、幌馬車を連ねてはるばると旅をする。その道中は決して生易しいものではなかった。先住民が襲ってくる。お尋ね者が出没する。行けども行けども土と石くれの大地が続く。大河を渡り、山を越え・・・。
 アメリカ合衆国は、地図帳を広げた2ページの中へ、ちょうど収まる形をしている。そんなアメリカを思い浮かべて、その本の折れ目の少し右側から、左へ向かって展開する開拓の物語。これがウエスタンだった。


 長じてその娯楽と肩を並べて、その米国で始められたスポーツ、アメリカンフットボールにどっぷりと浸かることとなった。大学卒業後は新聞記者、それも積極的にスポーツの世界を選んだ。
 アメリカンフットボ-ルの普及に役立てれば、などと大それたことを考えたからである。しかしフットボールの需要はさっぱりだった。仕方がないのでプロ野球記者として月日と、転勤とを重ね、そろそろ中へ入れ(デスクワークをやれ)と言われ出したころに、本社へ戻った。


 それまでは外(取材先)へ出ずっぱりだったので、まったく気づかなかったが、なんと、この内勤の世界には、驚くほど大量のフットボールのニュースが、なだれ込み、かつ使われぬままに消えているのを見た。
 同時にこのころ、前回紹介した洋書を扱う店が、シーズンを迎えると、大量にフットボールの雑誌を店頭に積み上げているのを目にした。他の大都会ではまず見ることのない光景だった。


 このころ「タッチダウン誌」が創刊された。「人手が足りないので」と言われ、第2号から担当者不在の米国の大学フットボールを手伝うようになった。
 たっぷりと資料を取りそろえ、幸せだった。NCAAの成り立ちや、ありようを学び、有力リーグとその地区割りなどを、手当たり次第にノートした。アイビーが最古の組織と信じてえいたのが、そうではなく、周辺からの切り崩しや割り込みを避けるために、つい先ごろ自衛のためのリーグを立ち上げたことが分かった。


 大学の試合はすべてが公式戦であることや、リーグ戦は必ずしも総当たりではないことや、他の組織のチームと必ずカードを組むことや、どこにも所属しない独立校という仕組みがあることなど、日本のスポーツ界の常識では計れないさまざまな仕組みに接し、目からウロコの連続だった。


 今回取り上げる組織は、その中でも最も古く「由緒正しい」連盟である。ご存じ「ビッグ10」という。短く歴史を書く。
 1895年に発足。米国5大湖の周辺、というよりもそのうちの一つ、ミシガン湖の周辺各州の主立った大学7校が集まった。


 湖の南の端のイリノイ州からはイリノイ大、シカゴ大、ノースウエスタン大の3校が参加、その東隣のインディアナ州からはパーデュー大。湖の東岸のミシガン州からミシガン大。西岸のウィスコンシン州からウィスコンシン大。その西のミネソタ州からミネソタ大が名乗りを上げた。


 正式名称を直訳すると「実力代表校大学対抗連盟」といったような名になる。しかし、だれもこんな難しい呼び方はしなかった。日本なら、なおさらである。この点米国も同じだった。短い名前が必要だった。世間も、自らも、簡単に「西部連盟」(Tha Western Conference)と称した。


 ちょっと待って。どこが西部なの? なぜウエスタンなの? 日本から見るとあの湖のあたりはどう見ても東部である。結構長い間、私はこの疑問に取りつかれ、ビッグ10以外の表現は遠ざけ続けたのを思い出す。
 答えをいいただいたのは米国史の猿谷要(さるや・かなめ)先生の本からである。ヨーロッパの人たちが、海を渡って米国の東海岸へ上陸する。彼らはやがて新天地を求めて西へ動き始める。そこで真っ先に立ちはだかるのが、アパラチア山脈である。


 書名は忘れたが、猿谷先生は米国の地理も歴史も、ヨーロッパ人の目線で読み解けば何も難しくはない、と言う意味のことを書いておられた。
 私の眼から落ちた最大のウロコだった。西部劇が始まるよりもずっと前の時代、ヨーロッパの開拓民にとって、アパラチア山脈を越せば、そこはもう、直ちに西部だったのである。日本から太平洋を眺め、向こう岸の西海岸を思い、ロッキー山脈を越え、大平原を過ぎて、あの大河を渡ってから、ようやくたどり着く、といった目線ではアメリカを見間違える。心すべきことであった。


 西部連盟はその後、オハイオ州立大、インディアナ大、アイオワ大、ミシガン州立大らが加盟したり、シカゴ大が抜けたりと結構出入りが激しかった。
 それにつれて連盟の名前もビッグ10からビッグ9へ、ビッグ9からまたビッグ10へとよく変わったが、1984年から正式にビッグ10を固定した。その後ニュージャージー州、メリーランド州、ペンシルベニア州、ネブラスカ州から、さらに4校の増加を見たが、リーグ名はビッグ10のままである。


 ビッグ10加盟の14校は、東西7校ずつの地区に分かれる。2013年までは「リーダーズ」と「レジェンズ」といったメンドクサイ地区名をつけていたが、昨季から普通になった。
 まず東地区はオハイオ州立大とミシガン州立大、ペンシルベニア州立大らのランキング校が高く買われている。昨季の王者オハイオ州立大は優れたQBを3人も持っており、だれを正QBとするかアーバン・メイヤー監督のQB起用が注目されている。


 各学年に一人ずつスターがいる。最も評価が高いのは2年生のJ・Tバレット。3年生のカーデール・ジョーンズ、4年生のブラクストン・ミラーと、下の学年から上へ、順に買われているのが面白い。
 RBもエゼキエル・エリオットという全米屈指の走り手を持って、パス、ランとも万全。その上、守備が今季も安定しているのは最も安心できる材料だろう。全米の連覇を狙う力は十分と見られる。


 ライバルはランキング10位以内に顔を出しているミシガン州立大。大型ラインの力にものを言わせた攻守は安定している。特にQBコナー・クックがリードする攻撃は精度が高い。
 11月21日の地区王座をかけた両校の対戦が見ものである。ペンシルベニア州立大はQBクリスチャン・ハッケンバーグに注目したい。TEカイル・カーター、WRデショーン・ハミルトンといったレシーバーにも恵まれている。このあたりの攻撃力からランキングに顔を出しているとみられる。


 10月17日のオハイオ州立大との試合と、11月最後のミシガン州立大との決戦をどう乗り切るかである。このほかミシガン大が上位争いに食い込みそう。メリーランド大、インディアナ大、ニュージャージー州を代表する州立のラトガーズ大の3校は下位の順位争いか。


 西地区は全米ランキングに顔を出すウィスコンシン大の力が高く買われている。RBコーリー・クレメント、FBデレク・ワットといった強力な走り手を擁し、ランの破壊力はリーグ屈指と言える。
 こう見てくると、どうしてもQBに人材が欲しい。4年生のジョエル・ステーブの奮起に期待したい。地区制覇の鍵は10月10日のネブラスカ大との試合だろう。


 そのネブラスカ大は攻守のバランスが取れた好チームだが、それだけに特徴に乏しく、いい意味での「癖」が欲しい。ミネソタ大、アイオワ大がこの2校の間に割って入れるかどうか。イリノイ大、パーデュー大は下位争いに終わりそうだ。

【写真】米中西部ウィスコンシン州で、アメリカンフットボールの試合開始前にエールを送るファン(AP=共同)