「番狂わせ」という言葉がある。どなたもご存知の言葉である。そう思って使うが、時々これでいいのか、と迷うことがある。昔、60年ほど前にこの職業、つまり新聞記者になったときに先輩諸兄から、迷ったら、分からなかったら字引を開けろと教えられた。
 急いでいるときは調べをすっぽかして、そのままデスクへ原稿を渡すこともしょっちゅうだった。あとで叱られた。そこで辞書を引く。初めてああそうだったのか。覚えたぞ、今後気をつけようとなるが、実際はここまで真面目で、いい格好をした話は多くはない。通常はデスクの怒鳴り声を聞き流しておしまいとなる。懐かしいな、昔話…。


 とにかく今回は「番狂わせ」を引いた。「広辞苑」には二つ出ていた。①予想外の出来事で順番の狂うこと②勝負事で予想外の結果が出ること。
 米国のカレッジフットボールは第2週に入って、この番狂わせ、つまり②がいくつか起きた。
 開幕週はランク校同士の試合を除いて、ほぼ予想通りに推移したが、さすが本場である。目が離せない。では何をもって番狂わせとするか。とりあえず私は、ランキングを基準にする。米国だってこのへんは、同じようなものだとは思うが、日本のファンにとっては、その順位への依存度がより高いので、波乱感はより大きい。


 9月4~6日の第2週、全米大学体育協会(NCAA)フットボール部門FBS(旧1部A)では、ジョージア大を除く全ランキング校が登場した。
 試合数は23。ランク校同士の対戦はオレゴン大―ミシガン州立大と、スタンフォード大―南加大の2試合。記者60人が投票するAP通信のランクだと22試合になるが、監督投票のランクで25位に入るテキサス大のゲームを加えると23となる。ちなみに監督投票のランクにないチームは、25位のルイビル大である。


 さて番狂わせである。7日の日曜日、私は米国の6日の成績をのぞいてから、アミノバイタルのフィールドへ出かけた。この時点で波乱はなかった。ランク校同士の激突も、試合進行中だった。
 日大と日体大の試合が終わり、帰途についたとき、フットボール仲間が突然「オハイオ州立が負けたのはご存知ですよね」と話しかけてきた。スマホ開けたら出ていたのだという。驚いた。東部時間夜8時開始の試合である。出かける前には無論終わってはいない。


 ともかくえらいことだと帰宅後、早速パソコンを開いてその顛末を楽しんだ。オハイオ州立大は言うまでもなくビッグ10東地区の優勝候補で、ランクは7位と6位。
(注=今回からは先に書いた順位はAPのもの。あとのは監督投票のものと決めたいと思う。一つしか書いていないときは両ランクとも同順位とご理解いただきたい)
 今季、注目される選手権大会への有力校だった。相手はバージニア工科大。ランク外である。もっとも得票数が発表されているので、順番を数えると38位、37位ともいえよう。


 そのバージニア工科大が35―21でオハイオ州立大を破った。ただ誤解のないように付け加えることがある。今季はランク外だが、新興チームではない。大西洋岸リーグ(ACC)の創立メンバーで、間違いなく古豪なのである。
 ボウルゲームには毎年のように出場するし、ランキングも常連で1999年にはAPの最終分で2位になっている。言葉を変えると名門校同士の顔合わせと言ってもいい。


 ことし、座席数を増やしたばかりのオハイオ・スタジアムはこの日、入場者数10万7517人の新記録をマークした。オハイオ州立大がその地元ファンの目の前で喫した黒星は少しきつい。
 原因の一つは第1週の海軍士官学校との試合で、攻撃の大黒柱、QBブラクストン・ミラーが右腕を痛めていたことである。代わりの新人J・Tバーレットは健闘したものの、3本もパスを奪われた。「想定内」とアーバン・メイヤー監督は言うものの、その相手は決して弱いチームではなかったために、想定を超える結果となった。


 バージニア工科大は立ち上がりからフル回転で、前半を21―7とリード。第4Q初めに追いつかれたが、すぐさま反撃した。65ヤードを約3分かけて攻め上がり、6プレー目にゴール前10ヤード。残り8分44秒にQBマイケル・ブリューアーが新人のTEバッキー・ホッジスへ勝ち越しのTDパスを決めた。
 バージニア工科大はこのリードをよく守ったばかりか、残り46秒にはCBドノバン・リリーがインターセプト。63ヤードをリターンして、とどめを刺した。


 米国の7日、月曜日、第2週の結果に基づく新しいランキングが発表されたが、バージニア工科大は17位、19位と一気にランクイン。オハイオ州立大は22位、18位へと大きく後退した。
 優勝候補がこけたビッグ10は、この日のランク校対決でミシガン州立大がオレゴン大に27―46と敗れ、ミシガン大がノートルダム大に完封負けを喫するなど、有力校が相次いで倒れる波乱の週末となった。


 ミシガン州立大は第2Qに大量24点を獲得。第3QにもFGを加えて27―18と優勢に試合を進めた。オレゴン大はこれを見事にひっくり返した。絵に描いたように鮮やかな第3ダウン・コンバージョンがその分岐点となった。
 中心にいたのは当然QBのマーカス・マリオッタである。マリオッタは好調だったRBロイス・フリーマンに、すべてを託すフリップのパス。フリーマンが俊足を飛ばし、17ヤードを稼いでミシガン州立大陣42ヤード地点でダウンを更新した。


 「危機」を脱したオレゴン大はドライブを続け、ゴール前21ヤードでマリオッタがWRチャンス・アレンへパスを決めてTD。続く攻撃は7プレーのドライブ。試合の流れはすっかりオレゴン大へ傾いており、最後はWRキーノン・ローへの37ヤードのパスで32―27と逆転した。
 強い者同士の戦いでも、一度風向きが変わると結構一方的になるもので、第4Qはオレゴン大のワンサイドゲーム。特にフリーマンが手のつけられぬ威力を示して2TDを挙げた。マリオッタは28本中17本を決め318ヤード3TDをマークした。


 もう一つの太平洋12大学リーグの決戦は、南加大が13―10でスタンフォード大を破った。同点の第4Q、南加大は残り2分30秒で、アンドレイ・ハイダリーが53ヤードのFGを決めて勝ち越した。
 スタンフォード大はQBケビン・ホーガンを軸にゴール前25ヤード地点まで攻め込んだが、ここでホーガンがサックされてファンブル。球を押さえられて万事休した。


 さてミシガン大の無得点負けである。いくらランク外のチームでも、こうした名門が0点に終わるというケースは結構珍しい。ノートルダム大はQBエバレット・ゴルソンが、34回投げて23本を通し、326ヤード、3TDを挙げる一方、万全の守りを見せ、31―0と完勝した。
 ミシガン大は1984年10月20日のアイオワ大戦で0―26と封じられて以来の無得点。連続試合得点のNCAA記録がこの日「365」で途絶えた。


 名門の敗戦といえば、監督ランク25位のテキサス大が、ブリガムヤング大に7―41と大敗した。ブリガムヤング大のQBタイソン・ヒルにいいようにあしらわれ、ランプレーからこのQBに3TDを奪われるありさまだった。
 こう見てくると波乱感はあるが、大番狂わせというほどのものはなかったな、というのが感想である。ただランキング校がランク外のチームやFCS(旧1部AA)のチームに1TD、1FG差に詰め寄られたケースが幾つかあった。これらを取り上げて今週を終わる。


 開始時間順に並べる。まず、20位のカンザス州立大が第4Qに2TDを奪って32―28とランク外のアイオワ州立大に逆転勝ちした試合がある。後半、守備陣が奮起して無得点に相手を封じたのが効いた。残り1分30秒、QBジェイク・ウォーターズが自ら8ヤードを突進したのが決勝TDだった。
 この試合、アイオワで行われたが、西隣のネブラスカでも接戦が繰り広げられた。FCSの名門マクニーズ州立大に食い下がられた19位、18位のネブラスカ大が、残り20秒にQBトミー・アームストロングがRBアーマー・アブダラーへの58ヤードのパスで決勝点を奪い、31―24で辛勝している。


 オハイオ州立大が思わぬ敗戦を喫したころ21位、23位の北カロライナ大がホームへサンディエゴ州立大を迎えて大苦戦を強いられていた。21―27と6点差をつけられた第4Q、1年生のRBイライジャ・フッドの2ヤードのランでようやく逆転し、さらに残り4分、ニック・ウェイラーの23ヤードのFGで31―27。終了14秒前にはフリーセーフティーのティム・スコットのインターセプトで勝利を決めた。


 11位のUCLAもメンフィス大と互角の展開。とりわけ第4Qに連続TDを許して35―35の同点に追いつかれた。最後はQBブレット・ハンドリーがWRトーマス・ダウティへ33ヤードのパスを通して42―35と勝ち越すとともに、残りの約11分を必死に守り抜いた。

【写真】米カレッジを代表する好QB、オレゴン大のマリオッタ(AP=共同)