海の向こうでフットボールが始まった。全米大学体育協会(NCAA)のFBS、つまり1部Aでは第1週に記者、監督両投票のランキング校がすべて登場。8月27日から31日まで、全米各地で開かれたレギュラーシーズンを盛り上げた。
 中でも3試合行われたランキング校同士の激突は注目の的。また中立地帯でのゲームも4試合ほど組まれ、話題を集めた。このほかアイルランドのダブリンにペンシルベニア州立大が中央フロリダ大と遠征し、26―24で辛勝している。


 さて、この日登場したランキング校は内容はともかく、勝ち星だけは順当に手にした。同時に、ハイズマン賞レースも始まった、という印象があった。有力候補やそれに準じる多くのスターたちが、それぞれにチームの勝利に貢献する活躍を示した。無論、レースはまだ始まったばかりである。


 話を少し変える。開幕日の訂正である。実は前回、28日(木)を開幕日のように扱って、27日(水)に開かれる分は無視してしまうつもりだった。ランキング校同士の激突で始まった、などと言えば納まりがいい。その点水曜日の試合は軽すぎる。
 でもこうした悪巧みは、おおむね即座にボロが出る。ごめんなさい。正しい開幕は27日なのです。


 その27日、サンベルト・リーグ(SBC)のジョージア州立大は地元ジョージア州アトランタのジョージアドームに、FCS、旧1部AAのアビリーン・クリスチャン大を迎え、38―37で逆転勝ちした。


 実はジョージア州立大のチームは2010年に生まれ、昨2013年に1部Aへ昇格。SBCに加入したばかりだった。だが、その初年度は12戦全敗。2012年の1部AA時代の終盤に積み重ねた4連敗を含めて、16連敗を記録していた。
 その連敗がこの開幕初戦で止まったのである。つまり1部Aでの記念すべき初勝利となったのだ。記録にまつわる話として面白い。
 で、書こうと思った。1部Aチームが登場するのだから開幕日をごまかすわけにはいかない。その結果、ごめんなさいとなった。


 ジョージア州立大は31―37の残り2分45秒から最後の攻撃。QBニック・アーバックルがパスと自らの30ヤードのランで、二つの第4ダウンギャンブルに成功。72ヤードのロングドライブの末に、ウィル・ルッツが26ヤードのFGを決めた。
 残り4秒だった。2012年10月13日に41―7でロードアイランド大に勝って以来の白星である。1万人余りの観衆は「勝った、勝った」と大喜びだった。


 満面の笑みをたたえたトレント・マイルズ監督は「これでワンゲーム ウイニング ストリークだ」と語ったそうである。ユーモアたっぷりと言えるかどうかは別として、日本にこういう冗談を言える人は少ない。
 「これで1連勝ですからね」というセリフを発することができるかどうか。米国文化の紹介というほどの意味で、あえて翻訳せずカタカナにした。
 敗れたアビリーン大もチームの格付けの面で、ジョージア州立大と似たような経過をたどり、2部から1部AAへ進んだのは2013年、今季はその2年目であった。


 余談だが、私はこのテキサス州にある「Abilene Christian大」は東京の桜美林大の姉妹校だとばかり思っていた。
 しかし今回、念のために検索してみると、カタカナ発音は似通っているものの、桜美林大のルーツはオハイオ州の「Oberlin College」だということが分かった。たいへん失礼した。この年になって「念のための字引」を実行する大切さをあらためて認識した。昔、マスコミで受けた教育もなかなかのものである。


 寄り道が長くなった。監督投票で20位、記者投票で21位のテキサス農工大が双方9位の南カロライナ大を52―28で退けた試合は話題を集めた。
 テキサス農工大は昨季も序盤戦で取り上げた。QBにジョニー・マンゼルという2012年のハイズマン賞受賞者がいて、このときのランク1位のアラバマ大に食い下がったからである。


 今季はそのマンゼルが、NFLのブラウンズからドラフト1位指名を受けてチームを去った。後任が注目された。短大からの転入生でケニー・ヒルという。
 この後任QBが、マンゼルに勝るとも劣らぬ技量を発揮して、8万2847人の大観衆であふれ返った敵地で、南カロライナ大に攻め勝ったのである。
 ヒルはこの日60回パスを投げ、44回成功。マンゼルがかつてマークしたパス記録を破る511ヤードを投げ、3TDを挙げた。トータル前進距離では680ヤードに達した。テキサス農工大は第2QにヒルのTDパス2本とRBトラ・カーソンの突進で21点を挙げて大勢を決めた。南カロライナ大の本拠地連勝記録は18でストップした。


 今季から名門リーグ、ビッグ10入りするラトガーズ大が28日、太平洋12大学のワシントン州立大を接戦の末41―38で下したのには、少し心を動かされた。
 米国最初の大学フットボールをプリンストン大と戦った歴史的チームである。それなのにこれまでは、どちらかというと東部の普通のチームだった。そのラトガーズ大が幸先よく白星スタート。多くを期待したい、という希望的観測も生れてくる。


 30日はまずランク1位のフロリダ州立大だろう。試合場は今季から始まる選手権大会決勝の檜舞台となるテキサス州アーリントンのテキサススタジアム。NFLカウボーイズのホームである。
 この中立スタジアムにフロリダ州立大はオクラホマ州立大を迎えた。NCAAで王座戦が始まってから、前年王者が翌年の初戦を制するのは15年連続という。ことさら取り上げるほどの記録でもないが、フロリダ州立大は苦戦の末37-31で白星を手にした。


 前年のハイズマン賞受賞のQBジェーミス・ウィンストンがいまひとつだったのが、接戦の原因ともいえる。ウィンストンはこの日40回パスを投げ25回成功、370ヤードを稼ぎ出したものの、パスを2回も奪われる始末。
 オクラホマ州立大はこれに付け込み、後半調子を上げてリードを奪った。しかしフロリダ州立大は、終盤ウィンストンが50ヤードのTDパス。この日ただ1本の「一発」が勝ちを呼び込んだ。


 ランク12位のジョージア大と同16位のクレムソン大は、ジョージア大が後半一気に得点を重ねて、45―21でクレムソン大をねじ伏せた。
 勝利の原動力になったのは、言うまでもなくRBのトッド・ガーリーだった。15回走って合計198ヤードはすごい。TDは3本と文句なしである。とにかく一度走ると13ヤード余りを稼ぎ出す走力は並ではない。守備には定評のあるクレムソン大だが、手のつけようがなかった感じだ。


 ガーリーのハイズマンレースの好スタートに、オレゴン大のQBマーカス・マリオッタが待ったをかけた。もっとも相手は南ダコタ大。出たのは前半だけで、若手の育成に後を任せたものの、20回投げて14回成功。267ヤード、3TDは見事だった。無論走っても6回で43ヤード、1TDをマークした。62―13の圧勝だった。
 ノートルダム大がライス大に48―17で快勝。2年前アラバマ大と全米の王座を争った時のQBエバレット・ゴルソンが戦列復帰を果たして注目された。パス22回で14回成功、295ヤード、3TDをマークしただけではなく、自ら12回走って41ヤード、3TDも稼ぎ出した力はさすがだった。


 このほかランク13位のルイジアナ州立大(LSU)が14位のウィスコンシン大に28―24で逆転勝ちした試合もあった。ウィスコンシン大が先手を取って優位に展開していたが、大黒柱のRBメルビン・ゴードンの出来がいまひとつ。後半態勢を立て直したLSUが、第4Qに一気に15点を奪って勝負を決めた。
 昨年、あわや全敗寸前だったハワイ大が、ランク25位のワシントン大に食い下がり、後半を0点に封じるとともに、2FGで1点差まで詰め寄る健闘を見せたが、16―17の惜敗に終わった。
 あと一歩で番狂わせを逃れたワシントン大だったが、第1週のランキングからはただ一校消える憂き目を見た。

【写真】オクラホマ州立大に37-31で辛勝したフロリダ州立大のQBウィンストン(AP=共同)