統計的な数字はない。にもかかわらず、この春、少し多くなったような気がしている。フォースダウンコンバージョン。第4ダウンで演じるギャンブルである。
 ロングドライブの末、相手ゴール前にボールを運び込んだものの、ついに第4ダウン。フィールドゴール(FG)を狙えばいいのだが、そこをあえてタッチダウン(TD)狙いに出ることをいう。もちろんこの中にはさらにチャンスを継続するためのダウン更新も含んでの話だ。


 もくろみ通りにTDを奪えれば、まさしくしてやったりで、めでたしめでたしとなる。しかし、失敗するとそれまで重ねてきたドライブは何だったのかとなる。努力は水の泡と消え去り、すべては0点に終わる。


 常識は言うまでもない。FGである。その大事な3点を捨てて、6点もしくは7点にこだわるのは、それなりのきちんとした理由がなくてはなるまい。しかし、今回はそのもろもろの条件を検討しようと思って取り上げたわけではない。
 いかなる展望、いかなる作戦に基づくものか、個別のケースを掘り下げたいと思ったわけでもない。それほどの「ギャンブル」はそうたくさんあるわけではない。単にちょっと多いようだ、という雑談だとご理解いただきたい。


 まずは5月4日、アミノバイタルフィールドで、明大が専大との試合で行ったケースが、私の気を引いた。繰り返すが、それほど深い意味はない。
 後半、廣澤湧基君に代わってQBは1年生の中村聡君が務めていた。シャープなQBだなとの印象があった。しかし得点にはならない。


 専大陣深く進入したあと、攻撃は第4ダウンとなった。ゴールラインまでと、ダウン更新までと、両方に嫌な距離が残っていた記憶がある。時間については無論、慌てる必要は全くない。
 結果はギャンブル失敗だった。もっとも明大は既に第2Qで24点を奪って、大勢を決めている。ギャンブルの選択は観客の立場からは、少しわざとらしかった。
 私は明大に対しては、もともと堅実な攻撃のチームとの印象を持っている。流れの中での決定だったとは思えなかった。攻撃コーチの桜井亮さんに尋ねると「監督さんがお決めになることですが…」と前置きして「この試合では(こうしたケースは)全部ギャンブルと決まっていました」と教えていただいた。
 この試合のチームの方針通り、というわけだった。まだシーズンは始まったばかり。各チームそれぞれに方針はお持ちだろう。否定はしない。


 5月18日のアミノバイタルフィールドに立教大が横浜国立大を迎えたゲームでは常識通りの決断を見ることができた。細かいデータがあるわけではない。細部は食い違っているかもしれないので、あらかじめお断りしておく。


 前半終了間近だった。スコアは14―0で立大のリード。堅実なドライブで横国大のゴール前に達していた。しかし第4ダウン。ダウン更新には4ヤードか5ヤードが残っていた。
 プレーの選択に少し時間がかかり、攻撃チームはためらいがちにスクリメージへ向かった。「またか」。私の中にうんざりした気持ちが起き始めた。だがそのチームが、急に足を止めた。
 タイムアウトとなり、数人がベンチへ戻った。話し合いがちょっぴりあって、キッカーが送り出された。鈴木雄也君のFGはきれいに決まった。スコアは17―0と開いて、後半となった。


 立大と聞くと、1934年生まれの元選手は、ドナルド・トーマス・オークス監督が心血を注いで築き上げた「ノートルダムT」と、併せて守りの堅いチームが目に浮かぶ。そのチームが低迷期を経て近年、創立3大学の名にふさわしい位置に戻ってきた。
 前監督の故阿部重一さんから親しくしていただいた私としては、さらに強くなって、昔の栄光を取り戻してほしいという気持ちがどうしても働く。今こそかつての、折り目正しい「楷書のフットボール」で上位を目指していただきたい、と願うのは無理な話ではない。


 「折り目」と書いた。バリエーションばかりに走る、軽々しいフットボールではない。常識、基本をしっかりと踏まえたフットボールを出発点にしてこそ、次の進歩が生まれてくる。
 その様を、私は半世紀以上見続けてきた。ここで「流行」のフォースダウンギャンブルはしてほしくなかった。選手自らが指示を仰ぐために戻ったのか、それともベンチが呼び戻したのか。観客席の高いところからは、選手を呼び戻したように見え、なぜか胸が熱くなった。


 ここから書くことは、結果論といわれるかもしれない。承知である。ギャンブルと成否に触れると、必ず結果論めいたやりとりになる。
 さて後半、始まるとすぐ、横国大は短いパスと、鋭いオフタックル、エンドランを組み合わせて、テンポのいい攻めを見せ、最後には、WR常田俊也君の俊足を生かしてTDをもぎ取った。


 ギャンブルだったが、このときのドライブのリズムから見て、妥当だったと見る。しかしTFPには失敗した。もし入っていれば、10点差である。立大が前半終わりのFGを試みず、TDに失敗していれば1TD差、つまり7点差である。
 立大にしてみればまだ1TD、1FGの優位がある。横国大の方は逆転には2TDを必要とする。気持ちのゆとりがどちらにあるかは、言うまでもないことだ。


 TFPまでも落としている横国大としてはやはり先は長い。これが7点差だったら、まさしく反撃開始。TD後は2点コンバージョンの手もある。4月27日の神戸大戦で後半猛攻を加えて大量点を挙げた攻撃力を考えると、1TD差は物の数ではあるまい。
 しかし10点となると話は別だ。この日の立大応援席は、前半終わりの3点がどんな値打ちを持っていたかを、十分にかみしめたことと思う。どんなにわずかなゆとりでも、フットボールの場合は、間違いなくゆとりを持っている方が強い。言いすぎを承知で付け加えておく。


 最後は6月8日、川崎富士見球技場での東大と上智大の試合から一つ拾ってみた。
 0―7とリードされた東大の前半終了間際である。ようやくドライブらしきものが動き始め、東大が上智大ゴールラインに迫った。
 残り28秒の第3ダウン、崩れたプレーの中から、QB古屋亨君がスルッと左へ逃れ、サイドラインへ走り出た。しかしダウン更新には1ヤード足りなかった。チェーンの位置を確認したのかどうかだが、このプレーでQBをそこまで問い詰めるのは酷だろう。


 ともかくボールの地点は上智大11ヤード。残り21秒。ここでダウンを更新したとしても、果たして何プレーできることか。
 むしろ後半にすべてを託して、ここはFGだと私は考えた。力が勝り、スピードで勝って、ここまで順調に前進してきたドライブなら、ギャンブルもあったかもしれない。しかし両校の勢いは依然互角である。やり直しを、もう一度態勢を建て直すことを考えるのが筋だろう。
 だが東大は右のランプレーでダウンの更新を狙った。しかし、手ぐすねを引いて待ち構える上智大の網にかかって、そのもくろみは果たせなかった。


 後半、東大は北岡幹雄君のキックオフリターンで7―7と試合を振り出しに戻した。しかし上智大は第3Q半ば、江口翔悟君のFGで10―7と再びリードを奪い返す。
 東大もQB大槻新君からWR川嶋浩太君へのロングパスで14―10と逆転した。このシーソーゲーム、互いに決定力を欠きながら終盤へもつれ込み、残り2分17秒、上智大がQB伊藤大悟君のパスで逆転決勝のTDを奪い、17―14で東大に競り勝った。


 立大―横国大の試合とは対照的なケースといえる。もし東大が前半終わりにFGを採択して3点を返しておけば、後半は少しずつ優位に立ったゲームを展開できたことになる。(もちろん後半の得点経過が、現実の試合通りだったと仮定しての話だが)点数をなぞってみるまでもないが、その3点の重さ、大きさに気がつかれることと思う。


 サッカーでは「攻め上がったらシュートで終われ」という格言がある。態勢立て直しの時間を稼げ、というような意味だが、これとは違って、フットボールでは「ドライブは得点で終われ」という格言を提案したい。
 3点で十分。6点にしようとして0点ですごすご引き下がるよりはるかにいい。


 どうもフォースダウンギャンブルには、成功したときの格好よさを夢見る部分がある。
 しかし責任を取るのは自分たちである。果たしてその覚悟おありかな。
 同時に「ここまでやって花と散ったのだ」というお詫びを発信しているようにも見える。またスタンドで見守るOB諸氏に対する、選手諸君からの、というよりも指導者諸氏からの言い訳に使われているように見えて仕方がない。FGが届かぬのなら、あっさりとパントを採択する勇気もまた必要なのだ。

【写真】立教大はエースRBの茂住を温存したが、安定した試合運びで横国大に勝った=5月18日、アミノバイタルフィールド