戦力分析などという大それたものではない。春のオープン戦の前半、特にゴールデンウイークごろに見た試合から、興味深かったものを一つ二つ取り上げてみようと思う。もちろん私の主観が中心である。


 まず驚いたものから取り上げる。これが単なる認識不足からきたものだったとしたら、これはもうお詫びするしかない。ただ、念を押しておくが、これは昨シーズンと比較としてという面が非常に大きい。昨シーズン以前を一切知らないので、偏りがあるかも、というご理解の上で読んでいただいてもいい。


 真っ先に紹介せねばならないのは、明大のQB広瀬湧基君であろう。驚いた、と言い切ってしまって申し訳ないが、これが昨シーズンのあのQBか、と思ってしまった。とにかく進化していた。昨年九月の大井の第二球技場で、あれは専大戦だったように記憶するが、私の頭の上からご婦人の悲鳴が「降って」きた。「ダメッ、投げちゃダメッ!」思わず振り返った。


 大井球技場は、それほど大きくないが、南側にメーンスタンドを備えたスタジアムである。50ヤード線の延長線上に、つまり中央に記録員や役員の席があり、その左右のスタンドがそれぞれの応援席となっている。私が位置していたのは、なじみの方と会えるかもしれないので、右手の明大の応援席で、その前の方だった。


 場面は明大の攻撃。ボールの位置もダウン数も何一つ記憶していないが、だれに向けられた声なのかは明らかだった。そのご婦人らが陣取る一角には明大の後援会の方々がおられた。
 「味方にこう言われちゃあ、どうしようもないですね」。仲間とこのような話をしながら観戦した。無論試合そのものは明大が優位でどんどん進んでいた。ただ広瀬君のパスだけが危なっかしかった。ボールを手のひらに乗せて投げているように見え、球速はないし、コントロールも悪かった。むしろインタセプトの危険性が高かった。そこでご婦人の金切り声が生まれるわけである。


 その広瀬君が別人と見まごうばかりの変貌を遂げていた。「士別三日、即当刮目相待」という三国志の呉志に出てくる言葉がある。「士別れて三日なれば、刮目(かつもく)して相待つべし」と読む。つまり、男らしい人間に三日経ってから会うときは、よく目をこすって対面しなさい。三日前とは違うよ。見違えるようになっているものだよ、といったような意味である。


 5月4日、アミノバイタルフィールドで行われた明大―専大戦のフィールドに立った広瀬君は、まさしくこの言葉通りだった。ボールをがっちりと握りしめ、小さいモーションでコントロールよく、右に左に中央へと投げ分けた。
 失礼この上ないが、こんな言葉が私の口を突いて出た。「なんだ。できるじゃないの」。恐らく、もうこれは推測でしかないが、このオフシーズンに、コーチかレシーバーの誰かを相手に、投げ続けてきたのだろうと思う。現時点ではこの呉志の言葉をそのまま進呈する。


 妙に長いパスを、それもアンダースローで狙うようなシーンはなく中、短距離のレシーバーへきちんと決める。無理のないこの距離がよかったのだろうと思う。いわば自らの「背丈」に合ったパスを投げることに目覚めたのであろう。ぜひ秋までに磨きをかけていただきたいものだ。ただ相手のチャージを気にしすぎないように。


 明大は西下して11日に関学と対戦した。同期で主将を務めた木谷直行さんは私とのメールで、背番号99の赤津裕之君を手放しで褒めていた。明大はいつも、優れたRBを作り上げて秋のリーグ戦に臨む。しかし、もう一つ納得がいかないのが、その使い方で、往々にしてそのエースに、一から十まで任せ切りにする傾向がある。
 昨季の名RB小形亮介君は、最終戦で堅実な日大の守備の波を一身にかぶって沈没してしまった。
 秋に向けて、偉そうなことを言わせてもらえば、エースを生かす策、エースをおとりに使うプレーを今から練り上げるのも、必要なのではないか。ランに呼応するパスも、今季はその一策となりそうに思うが、どうだろうか。


 また日大になるが、昨季の東の王者だから仕方あるまい。まず5月3日には京大を迎え撃った。京大は昨年、「週刊TURNOVER」仲間の水野彌一さんがお書きになっているように、QBのパスを捨てて、ラン一辺倒の攻撃で立命大を破った。
 もともと様々な策を練るので有名なチームである。春なので期待しても空振りに終わることが多いが、何か工夫の片りんを見せてくれはしまいかと期待した。しかし、仮にそんな試みがあったとしても、この日の日大には一切通用しなかっただろう。それほどの上出来だった。


 「この日大でなくてよかった」と1週前に戦った関学OBとしては、胸をなでおろしたのである。QBは西澤凌介君が務め、第1Q早々と21点を挙げて勝負を決めた。
 QBのワンマンショーばかりではなく、RBの竹内豪汰君の走りに見るべきものがあった。1年生のQB柳龍之介君も見ることができ、収穫は多かった。
 OB諸氏も口々に「今日はよかった」と声を上げ、満面の笑みだった。守りがよかったせいもある。4年生のLB佐藤礼一君が前と後ろをつなぐ役割を見事に果たし、全体が安定していた。


 この攻守のバランスが、1週のちの5月11日には信じられないほどボロボロになった。名城大との定期戦である。京大戦のあの快感が体に残っているからでもあろう。足が地についていないというのは、こうした状態をいうのだろうか。次から次へとミスが出て、攻撃も守備も機能しなかった。
 最初のドライブがつまずきのもと、と言ってしまえばそれまでかもしれない。快調に名城大陣内へボールを持ち込んだ末のファンブルである。このペースなら楽に先取点を取れたのに、といったような不必要な焦りが、攻撃陣に広がったように思う。次も、またその次も、日大のドライブは名城大陣で停止し、第1Qはなんと0点に終わった。


 一種の空回り状態が、日大全体を覆ったのは事実である。しかし名城大が日大を焦りの状態へ追い込むだけの力を持っていたことを、私は認めたいと思う。もしそれだけの力がなければ、こうした競り合いが生まれるはずがない。
 だいたい守備のラインが少しも押されていないではないか。互角に渡り合っているではないか。東海地区のチームがここまで来たことを、もう少し素直に認めねばなるまい。初めて名城大に接したが、攻守にいいまとまりがあった。地力が身に付いている。


 最後には日大が死に物狂いになって勝ち星をもぎ取った。もちろん日大としては、出来のよかった京大戦からくる気の緩み、それに起因するミスの数々が反省材料として残るだろうと思う。
 それはそれでいい。しかし同時に、この日の相手の力をどう評価するのかが、気になるところだ。過大に見る必要はないと思う。ただ過小評価することだけは、将来を考えると、避けねばなるまい。


 ここでほぼ予定のスペースが埋まった。本来ならば、これで打ち止めにするはずだった。しかしそうはいかなかった。私が行かなかったフィールドで、とんでもない結果が生まれていた。法大が中大に敗れたのである。それも得点経過を見ると、中大快勝ではないか。
 「法政スポーツ」のブログによれば、多少のコマ落としはあったようだが、2年生のQB鈴木貴史君や4年生QB近藤濯君の名があり、かなり本気で反撃した節がある。ところが10-24と意外な敗戦。これも日大―名城大の試合のように、法大の力量不足というよりも、中大の戦力上昇と判断する方がいいのだろうか。ま、今後のニュースには十分注意していきたい。

【写真】明大パス攻撃の鍵を握るQB広瀬=写真提供:P-TALK、11日、王子スタジアム