春のシーズンが始まった。秋のリーグ戦へ向けて、どんなチームづくりをするのだろうか。と、それぞれのチームのOB、OGたちが期待を込めて、出身校の戦いぶりを興味深く見つめる時期である。
 OB、OGだけではない。後援会も、父兄会(古いな、保護者会とでもいうのかな)も、世間一般のファンの方々も、期待を込めて、ひいきチームの強弱を、選手個人の成長を、チームのありようを探ろうとする。すべては秋の本格的シーズンに向けて「前向き」である。


 だから春のシーズン、とりわけ希望に満ちた、その前半を観戦するのは楽しい。前半、とわざわざ断ったのは、後半は少し違ってくるからである。
 新戦力が期待以上で、さらに輝かしく感じられることもあれば、進歩がなくて失望感が少しずつ広がることもあって、なかなか前半戦のようにはいかない。とりわけOB、OGともなると、新チームに課題が次から次へと山積みされると、これが果たして夏合宿で解決できるのか、といったような心配があふれ出て、あまり楽しくない。


 4月27日、東京・調布市のアミノバイタルフィールドで日大と関学の定期戦が行われた。大変ありがたいことに、関東在住の関学の同窓生の間では、この私どものフットボールチームの人気が高い。
 関学は日大のほかに明大とも定期戦を組んでおり、毎年交互に東西を行き来している。フットボールに興味を持つ同窓の方々は、こうした年に一度の上京を心待ちにしていてくださるので、この日も日大側のスタンドに負けないくらいの大入りとなった。


 しかし、ここはご承知の通り、フィールドの作りからビジターが陣取るバックスタンドの側は、午後の日差しが真正面から照りつけてくる。キャップを目深にかぶって顔の方は何とか防いだが、袖をまくっていた腕の方は、腕時計の跡がくっきりとついてしまった。これはもう、秋までこのままだろう。


 さて今回は、少し恥ずかしいが、関学の一OBの立場で「観戦記」書いてみようか、という気になった。こういう試合をOBってどんな感じで見ているのか。一般の方々にその辺りを知っていただくのも、フットボールの普及、発展のためになるのではないか、と勝手に思っている。


 先ほども述べた通り、私たちは後輩たちがどんな試合をするのか、特に昨年のメンバーが抜けた後がどうなるのか、にポイントを絞る。
 無論相手も同じこと。その辺を割り引いたり付け足したりしながら見物する。私は斎藤圭をバックアップするQBとして、この前の慶大戦の後半に出て来た伊豆充浩を見たかった。


 実は60年近く昔の選手としては、攻撃ラインの動き、守備の連係作業といった細かいところは、とてもきちんとは見られなくなっている。年寄りの目に分かりやすいのは、やはりすぐ答えが出るQBである。
 特に元センターにしてみれば、最大の憧れのポジションQBをそのチームのエースが、どうこなすのかを見ておきたいのである。次いでRB、レシーバーということになろうか。


 で、その伊豆だが、関学のQBらしい所作をあちこちでちゃんと見せてくれた。サック除けにボールを放り出すさまも「絵に描いた通り」だった。2度ほどダウン更新のために走り、それからのスライディングも無難であった。基本動作は誠にソツがなかった。
 しかし、この相手から挙げた2TD、1FGは上々の得点なのか、それとももっと取れたのに、これが精いっぱいなのか。はっきりした答えが出せないのは情けない。


 試合後の懇親会でのコーチたちのスピーチによると、この日はレシーバーの強化を課題にした試合でもあったそうである。単純なキャッチミスに始まって、一つ一つの「成功」「不成功」が洗い出されて、やがては「パスの関学」の肥やしになっていくのだが、日大との試合をその試金石にするあたり、さすがである。
 特に幾つか食らったインターセプトをどう評価するのか、責任の所在は投げた方か、受ける方か、はたまた奪った方がうまかったのか。無理を承知で投げたケースが、幾つかあったように見えたので、年寄りがこの答えを解くのはまた一段と難しい。


 一方の日大である。昨年の甲子園ボウルの随筆で、当時1年生だったQB高橋遼平くじけるな、といった意味のことを述べたので、その後が少し気になっている。とはいうものの、4カ月やそこらでそんなに変わるわけはないし、どうしたものかと考えていたら、日大の方から興味深い話題を提供してくれた。
 「つい最近、10番が復活したんですよ」と、息弾ませて語ってくれた日大ファンがいた。だが、このファンはアミノバイタルに来ることができなかった。法事と重なったのだという。その注目の「10番」が、第2Qに登場した。このファン、かわいそう。


 「10番」は日大では一種特別な背番号といっていい。ご承知の通り、原則4年生、いないときは最上級生が着用する。ともあれチームのナンバーワンQBの背番号で、まさしくエースナンバーそのものなのだ。


 昨シーズンは高橋が抜擢にこたえて、1年生ながら先発QBを見事に勤め上げていた。しかし下級生なので10番は回ってこない。結局、安藤和馬が卒業したあとは、10番は欠番のままだった。
 高橋が4年になるまで欠番かとも思われていたが、その1年上、3年生の西澤凌介が今季から着用することになった。


 西澤の登場は第2Qの半ばだった。高橋が足を引きずるようにしていたので、ベンチとしては投入を決断しやすかったようである。
 昨年を棒に振った西澤は見るからに張り切っていた。QBというものは自らは冷静さを装いながら、チーム全体を燃え上がらせる。そんな役目を要求されるポジションなのに、直接燃え上がってどうする、と思った。しかし、攻撃チームはこの西澤に共感した。やはり学生スポーツである。


 関学はこの後、FGで17―0とリードを広げたが、その直後、WR井ノ口清剛にDB陣の裏へ抜け出され、西澤にロングパスを決められた。
 このあと見慣れた「景色」が展開した。前半、粘りに粘ってパスを通しにかかる高橋を、鋭い突進で抑え込んでいた関学の守備陣が、とたんに受け身になった。これは長年見てきたいつもの日大、そのショットガンだった。
 もっともパスの球筋は高橋よりまだ粗い。しかし、久しぶりの試合である。仕方ないともいえる。その代わりに西澤は脚力で関学を手こずらせた。


 終了42秒前、関学は西澤にゴール前6ヤードからエンドゾーンへ突入され、3点差に迫られた。この後、時間を互いに消費しあい、止めあうやりとりを演じ、関学はやっと時計をゼロにした。一般のファンにとっては楽しめる大詰めだったのではないか。


 西澤は昨年の本来のスターターである。しかし、その後高橋がその座を奪い、大きく力を伸ばした。さ、どっちを正QBとするのか。日大従来型のQBがこの日結果を残した。新しい形のパス攻撃の可能性を秘めたQBは、この日関学の餌食となった。
 結論を今出さねばならないわけではない。秋まででいい。とにかく、これからの内田正人監督の決断が楽しみになってきた。

【写真】パスを狙う日大のQB高橋=撮影:Yosei Kozano、27日、アミノバイタルフィールド