縁あって「週刊TURNOVER」の一員となってはや3カ月。全米大学体育協会(NCAA)のフットボールは早くも終盤を迎えた。アラバマ大で始めたこの連載、やはり同校が今、どうなっているかぐらいはフォローせねばなるまい。
 幸い、この今季の最有力校は、期待に沿って、あるいは波乱を期待する向きの期待を裏切って、順当に勝ち進んだ。そして11月9日、今シーズン屈指の大一番と目されたルイジアナ州立大(LSU)との決戦を、38―17と難なくものにした。これで成績はトータル9戦全勝、所属する南東リーグ(SEC)では6戦全勝、栄冠へ向けて突っ走り、3年連続の選手権試合出場は目前となった。


 このカードは2年前の2011年、SECの一リーグ戦でありながら、世紀の決戦と銘打たれて、全米の耳目を一点に集めた。ランキング1位のLSUと同2位のア大という顔合わせだったからである。結果は延長戦の末、9―6でLSUが勝った。しかし大詰めでのこの接戦は、ア大のランクには影響しなかった。両校の力が図抜けていたせいもある。
 選手権試合は首位LSUにア大が再度挑戦する 組み合わせとなった。12年1月9日、ルイジアナ州ニューオーリンズのスーパードームで開かれた「再戦」は、ア大が21―0とLSUを完封して王座に就いた。試合後の最終ランキングではLSUは2位にとどまった。


 このカード、昨季はア大が21―17で勝ったが、この3年ほどのレギュラーシーズンでの結果は、いずれが勝つにしても3、4点差の競り合いばかりだった。今回はその息詰まる「接戦」返上の試合だった。アラバマ州タスカルーサにはこの日、10万1821人が詰めかけていた。その大観衆の前での快勝でもあった。ア大が挙げた38点は1947年の41点に次ぐ得点だった。それに前回(11年)までは本拠地でありながらア大に分がなく、09年に24―15で勝ったぐらいで、5連敗を記録していた。苦手克服の試合と言っていい。
 ちなみに残りの3試合は、16日のミシシッピ州立大、23日のチャタヌーガ大、そして最後は30日の伝統の一戦オーバーン大。最後の決戦の日まで、ランク1位を守れるかどうか目が離せない。


 前回書いたが、もう一つの出場校と目される大西洋岸リーグ(ACC)のフロリダ州立大は楽勝した。同じリーグのウェークフォレスト大を相手に、59―3と一方的なスコアだった。通算成績は9戦全勝、ACCでは7連勝となった。
 この2日前の7日に、太平洋12大学(Pac12)で、APランク6位のスタンフォード大が同2位のオレゴン大を迎え撃ち、ス大が26―20とオ大に初黒星をつけていた。前週コンピューターのBCSランキングで2位に進んでいたフ州大にとっては、ランキング的に有利な状況で、記者投票、監督投票ともすんなり、2位浮上が決まった。


 余談だがウェークフォレスト大の名は懐かしい。1974年1月に来日し、西と東の「全日本」チームと対戦し、28―3、35―0と完勝した。率いていたのはご存じチャック・ミルズ監督だった。これに先立ち同監督は、1971年にユタ州立大を率いて戦後初の来日を果たしている。このときも東、西の順に「全日本」が戦った。ユ州大は50―6、45―6という成績を残した。
 本場チームの来日は戦前に3度ある。ユ州立大の来訪は、それ以来の画期的な出来事だった。こののち、米国との交流は次第に日本のフットボール界に根を下ろすことになる。チャックさんはその先駆けを務められたわけで、のちに日本の大学選手を対象に年間最優秀選手賞を設立した。甲子園ボウルでその授賞式を行っているのはご承知の通りだ。


 71年のクリスマスイブだったと思う。ひょっとすると数日前だったかもしれないが、2試合目の全日本戦の前に、チャックさんをはじめユ州大のコーチの面々を神戸市の広瀬邸に招いて、パーティーが開かれた。招いたのは西のほうの全日本、つまり武田建監督を中心とする関西学院のフットボール部有志だった。ミッションスクールだけに、こうした催しの手際はいい。特に全日本のQBを務めた広瀬慶次郎さんとそのご家族のご好意がなければ、実現出来なかっただろう。
 なだらかな丘の中腹を占める広い庭園で、宗教的なセレモニーを加味した、心温まる静かなひとときが流れていった。本場米国のフットボール指導者たちとともに過ごしたこの集まりを、私は忘れることができない。「まさか日本で、こんな素晴らしいクリスマスパーティーができるとは思ってもいなかった」と、感動を込めて語っていたチャックさんの表情を今でも思い出す。


 選手権試合のことを書きながら、話を日米対抗やボウルゲームの方へ持って行ってはいけないかもしれない。しかし選手権試合は、ボウルゲームの山のような歴史と実績の中から生まれてきた催しにほかならない。その証拠に米国ではアルマナックでもガイドブックでも、ボウルゲームを並べ立てたその一番目立つところに「BCS ナショナル・チャンピオンシップ 2014年1月6日、カリフォルニア州パサディナ、ローズボウル」と記してある。間違いようがない。また日米対抗も、組み合わせの種類、カードの数などが限られていた当時では、一種のボウルゲームであった。


 話が方々へ飛んだ。お許し願いたい。さてフ州立大だが、これも残りの試合はア大同様3試合。16日には同じアトランティック地区のシラキュース大と対戦する。シ大は解体されたビッグイーストから今季、ACCに加入したばかりの新しい相手だが、ハイパワーオフェンスをうたうフ州立大にとっては問題あるまい。23日は独立校のアイダホ大、最終戦は少し難敵でフロリダ大となっている。すべてを白星で乗り切り、選手権試合ではア大との全勝対決を期待したい。


 どうもこの商売を長く続けると、1シーズンのうちにいろいろと心境の変化が出てくる。シーズン当初は波乱を期待し、番狂わせでも起きようものなら、鬼の首を取ったように盛り上がる。しかし、ペナントレースに波乱はつきもので、毎週のように起きる番狂わせには、だんだん心が動かなくなってくる。
 どちらかというと、大記録とか珍しい記録とかを探すのが常だ。そして終盤に近付くと、苦難を乗り越えて全勝を続けてきたチームを応援したくなる。そのまま無傷で栄光の座を争ってくれと。今季もどうやらその症状が出始めたのではあるまいか。


 最後にもう一つ余談。昔、つまり4、50年ほど前は「ボウルゲームのボウルってなんだよ」とよく尋ねられた。「競技場のことですよ」「形がすり鉢に似ているところからこう呼ぶようになったんです」
 「ほら、西洋料理で指先をすすぐフィンガーボウルのボウル」。ここまできて、説明が空回りするのが痛いほど感じられる。当り前である。フィンガーボウルに私たちがどれだけ親しんでいるか。すり鉢だって今や、どの家庭の台所にもある調理の道具、とは言えなくなった。


 最近はこうした質問を受けることが、とんとなくなった。ボウルが競技場のことだということが、かなり浸透してきたからだ。しかし、私は最近新しい例えを発見して、ひそかに「ボウルって何のこと」という質問を心待ちにしている。
 めったにお目にかからない、使いもしないフィンガーボウルはお蔵入りだ。その答え、「TURNOVER」の読者にだけそっと教える。「ほらファミレスあたりでみなさんが注文するでしょう。サラダボウルを、って」―。

【写真】フロリダ州立―ウェークフォレスト、前半、エンドゾーンに飛び込むフ州大のRBウィルダー=11月9日(AP=共同)