9月が終わった。全米大学体育協会(NCAA)のフットボールは第5週が終了。多いチームは5試合、少ないところでは3試合を消化した。ご存知の通り、現在は基本が12試合なので、半分近くを戦ったチームもあれば、ようやく四分の一に達したというところもあるわけだ。同じリーグでも試合数の食い違いはざらである。


 わが国だとこんな場合、すぐさま「暫定順位」とかがしゃしゃり出て、「暫定1位」とか「暫定最下位」とか言い出すが、米国はその点がいたって大らかである。最後につじつまが合えばいいので、主催者も、読者や支持者も試合数の多寡は一切気にしていない。現に日本でもプロ野球がそうで、途中での試合数の多少の食い違いなど、まったく気にしないで、勝敗表を公表している。
 なぜこんな話をするかといえば、日本のJリーグなどの順位の報道が神経質すぎると常々思っているからにほかならない。一日も経てば試合数がそろって、ちゃんと順番が決まるのに、その一日が待てないらしい。


 翌日の結果を考えて、一喜一憂するのがファンというもので、その楽しみを奪っているのではないかと思う。「まだ喜んではいけませんよ。明日にならないとわかりませんよ」とわざわざ言ってどうしようというのか。大きなお世話ではあるまいか。
 本日は「A」が首位。翌日、Aは試合しないのに突然「2位」。そこで「なぜだ。なぜそうなったのか」を分かりやすく解説するのが報道の役目だろう。スポーツというのは、本質的にそのように緩いものなのだ。前の日にわざわざ「暫定」と逃げを打つのは、一種の責任回避のようにも思う。


 異見を述べるのはここまでにする。
 さてNCAAでは、試合数の違いと同様に、不思議な勝敗表が出てくるのもこのころからである。1勝3敗のチームがなぜか首位に座り、3勝1敗のチームが最下位にいる。「えっ」と思う。これもその所属する組織の順位の決め方を知れば、逆に楽しくなろう。
 ご承知だろう。米国のカレッジフットボールでは、同じ組織のチーム同士でリーグ戦を行うほかに、他の組織のチームと数試合を戦うことを。それも合わせてシーズン合計12試合なのだ。日本の例で言えばリーグ戦のほかに東西対抗を何試合かするようなもの、とご理解いただきたい。


 向こうではこのような場合、リーグ戦の順位で勝敗表をつくるケースが常識になっている。だから、他リーグとの試合で3敗したチームでもリーグ戦になって1勝すればトップ。他リーグの諸校に3連勝していても、リーグ戦の初戦で1敗すれば、即下位に置かれる。しかし、シーズンが深まり、ボウルゲーム出場の割り振りが話題に上り始めると、トータルでの勝敗が問題になる。このへんは首尾一貫しないが、仕方あるまい。
 大学フットボールをこうして「字」にしていると、米国のスポーツ文化がだんだん見えてくるのが面白い。この勝敗表に見られるあいまいさ、緩さがあって、その上で不公平感の徹底排除と、自分たちが決めたルールには、きちんと従う潔さが明らかになる。このへん、結構病みつきになる。


 リーグ戦も他流試合もごちゃ混ぜにして、「どれが強いんだ」と投票で決めるのが、毎週のランキングである。前にも書いたが、主なのは二つある。新聞、雑誌、放送の記者60人が投票するAP通信発表のと、有力校の監督62人が投票し、USAトゥデー紙などが掲載する「監督投票」とである。ベスト25までが発表されるが、かつてはベスト20だったし、投票者も少なかった。
 今のところは開幕前の予想通り、アラバマ大が両方のランクの首位を走る。2位にはどちらもオレゴン大がつけ、3位はAPがクレムソン大、監督の方はオハイオ州立大。4位はこの逆で、5位はともにスタンフォード大となっている。シーズンの最後にはこの1、2位校が選手権試合で相まみえ、大学ナンバーワンが決定する。だがその昔、この選手権戦がなかったときは、シーズン最後の投票で王者が決まっていた。これもご承知の通りだ。


 さて、方々でリーグ戦が始まると、きちんと進めておかないと、あとで困るのが全勝と全敗の確認である。9月戦線を土つかずで頑張ってきたチームは125校中、20校になった。これを多いと見るか、少ないと見るか。高々12試合、これぐらいは全勝で乗り切り、あとはボウルゲームをものにして13勝。いやいや、大相撲の例でも分かる通り、全勝優勝は白鵬でも難しい。ましてや実力接近の米大学フットボールではなおさらである。


 結論を言うと、全勝はそうたやすいものではない。今シーズンは追々報告していくつもりだが、昨年も一昨年も、全勝チームはゼロであった。2010年には王者のオーバーン大が14戦全勝、2位のテキサスクリスチャン大が13戦全勝。2009年は王者アラバマ大が14戦全勝、ボイジー州立大も14戦全勝を記録したが、順位は4位だった。2008年は12勝1敗のフロリダ大が王座に就き、12戦全勝のユタ大は2位だったが、ボイジー州立大は11位だった。07年は全勝校がなかった。


 3年ぶりに土つかずのチームを見ることができるかどうか。実は前週、29校が残っていたが、あっという間に9校が消えた。もともと残っていたのは、有力リーグのチームばかりだ。リーグ戦になって星のつぶし合いが起きた。現在大西洋岸リーグと太平洋12大学に各4校。ビッグ12とビッグ10に各3校。アメリカン体育リーグ(AAC)と名門南東リーグは各2校。ミッドアメリカンとマウンテンウェストが1校ずつ。なお全敗は11校。


 こんな数字を並べていると、1985年の監督投票のエピソードが思い出される。この年はビッグ8のオクラホマ大が、オレンジボウルで独立校のペンシルベニア州立大を退け、APのランクでも、監督投票でも文句なく1位に選ばれた。成績は11勝1敗。シーズン序盤のフロリダ州のマイアミ大戦で星を落としたものの、残りを圧倒的な強さで乗り切り、見事王座に就いた。無論、ランキングの投票はどちらも満票、と誰もが思った。APは全員が1位票をオクラホマ大に投じていた。
 しかし、監督投票では1位票が一つだけほかの大学に入っていた。オクラホマ大は満票ではなかった。1位41票。あとの1票はサンノゼ州立大へ投じられた。APではベスト20にも入っていなかったサンノゼ州立大だが、監督投票では16位になっていた。


 誰? この1票を投じたのはいったいどなた? 話題の人探しに報道陣は色めき立ったが、答えはすぐに出た。満票を逸した当のオクラホマ大、バリー・スウィッツァー監督その人だった。
 記者団に囲まれた同監督はさらりと言ってのけた。
 「うちは今シーズン1敗している。大学フットボールの世界で全勝ということが、どれほど値打ちのあることかは、みなさんご存知のはずだ。サンノゼ州立大は、今年のメジャー(1部A)の中でただ1校全勝を記録した。だから私はサンノゼ州立大を1位に推した」。
 キザと見るか。深いと見るか。

【写真】TDを喜ぶオレゴン大の選手たち=9月14日、(AP=共同)