米大学フットボールの今シーズンの見どころは、アラバマ大の3連覇、などと開幕前に紹介した手前、時々はこの強豪を取り上げねばなるまい、と少し責任感に駆られていた。
 問題はいつ何を取り上げるかだったが、9月14日に早々と格好の話題が向こうから転がってきた。ランキング1位のアラバマ大がランキング6位のテキサス農工大と対決し、しかも話題豊かな大接戦を演じてくれたのだから、これをいただかない手はない。


 舞台はテキサス州カレッジステーションのカイルフィールド。つまり農工大のホームグラウンドである。勝負事ならなんでもそうだが、大学フットボールでも地元の利はちゃんと存在する。ランク上の差がこの程度なら、地元の農工大にしてみれば条件はこれで互角と言える。ア大の3連覇の野望を阻む絶好のチャンスに恵まれたばかりか、自らの評価を全米トップの地位まで一気に高める機会が、到来したといっても過言ではなかった。
 いわば天下分け目の戦いと言えようか。そこまでは言えないにしても、少なくとも米国の最有力リーグの一つである「南東リーグ」(SEC)西地区の首位争いを大きく左右する決戦だったことは確かである。


 なぜこのような好カードがシーズンの序盤、9月の半ばに組まれているのか。疑問に思われる向きもあろうかと思う。日本では東西とも、学生リーグ戦が前年の順位を基準に進行。上位と下位の対戦に始まって、日程の深まりとともに順次上位チーム同士の対戦に移行。最後は前年の1位と2位が戦う仕組みになっているのはご承知の通りである。
 しかし、米国ではこうした日本流のリーグ戦を作るケースは一切ない。その理由の一端は前回述べた。あらかじめ4年先の日程を組み、それと同時に各校それぞれが、長い伝統や歴史に彩られた一試合一試合を大事にし、さらにそれらを生み出してきた季節感そのものを慈しみつつ、スケジュールを組んできたからなのだ。


 例えばア大はシーズンの最終戦に、アラバマ州の伝統のライバル、オーバーン大との試合を必ず持ってくる。いくら農工大のランクが高い年があっても、これが変わることはない。どこの大学もこの点では似たり寄ったりで、農工大もSECに加入する前は、最終戦でテキサス大とSWC(解散して現在はない)の雌雄を決していたものである。ビッグ10のミシガン大とオハイオ州立大をはじめ、最終試合に伝統の一戦を持ってくる例を挙げればきりがない。最終戦だけではない。
 南加大と伝統の試合を持つノートルダム大は、地元のインディアナ州に南加大を迎えるときは、ほぼ折り返し点に当たる10月半ば。逆に敵地カリフォルニア州へ乗り込むときは最終戦としている。


 こうした慣習が一面、米大学シーズン全体の序盤、中盤、終盤それぞれに盛り上がりをつくる。くどくなったが、こうしてア大―農工大の激突はNCAA序盤での山場として注目され、その期待に違わぬ好ゲームを展開した。
 先手を取ったのは地元農工大だった。2年生ながら早くもプロ注目の的、QBジョニー・マンゼルが本領を発揮した。速攻でTDパスを決めて先制し、さらにランプレーでTDを追加した。全米有数の守備力を持ち、だからこそランク1位なのだと評価されるア大から奪った14点に、スタンドを埋める8万7596人の大観衆は「あるいは」となにがしかの期待を持ったかもしれない。


 強力守備陣を持つア大だが、ニック・セイバン監督はこの日、攻撃に重心を置いたゲームプランを構築していた。0―14とされた直後、怒濤の巻き返しが始まった。QBのAJ・マキャロンがさえ渡った。2分23秒後、WRケビン・ノーウッドへ22ヤードのTDパスが通ったのを皮切りに、第2Q初めにはWRのデアンドルー・ホワイトへ44ヤードのTDパス。続いてインターセプトから80ヤードのドライブを開始し、4プレー後にWRケニー・ベルへの51ヤードのパスで逆転した。前半終了間際は、93ヤードの長距離ドライブの末、TBのT・J・エールドンが4ヤードを突進してTDを挙げた。
 速攻あり、粘り強い前進ありの見事な攻めから奪った連続4TD。もちろんその裏には全米有数の守りがあったことは間違いない。後半早々にはその守備陣が存在感を示し、連続5本目となるTDを生んだ。2分過ぎ、FSビリー・サンセリが、マンゼルの右へ投げたボールをインターセプト、そのまま73ヤードを駆け上がり、35―14とした。


 大勢はこれで決まったかに見えた。だが、農工大はあきらめることなくマンゼルのパスで猛反撃を開始した。この後、互いに1TDずつを挙げて迎えた第4Q。TD3本の21点に守られていたはずのア大の優位が、すっかりおかしくなった。
 第4Q1分40秒、農工大はWRマルコム・ケネディーが12ヤードのTDパスを受けて28―42と迫り、6分56秒にはWRマイク・エバンズとの95ヤードのパスプレーに成功して、その差7点とした。ここからが死闘だった。ア大は時間をたっぷり使いながら、じわじわと農工大陣に攻め込む。そして残り時間2分18秒、ゴール前5ヤードからマキャロンがRBのジャルストン・ファウラーとの5ヤードのTDパスに成功してようやく勝利を招きよせた。


 この週のランキング投票が興味深い。もたつきはしたが、ア大は2戦全勝。しかもランク6位の強豪を退けたわけだ。こうしたときの投票者の評価は、実は高い。記者投票(60人)ではそれまで4校に散っていた1位票がア大に59票集まった。監督投票(62人)も同様である。これまた前回まではア大の1位票は58で、残り4票が他の3校に回っていたのが、一気にア大が61票となった。どちらの投票でもあと一人はともにオレゴン大に投ぜられている。
 一方の敗者だが、大きく順位を落とすどころか、ほとんど変わらないのがまたいい。少しは後退したが、記者投票では10位、監督投票では9位。堂々とベスト10に頑張っているのは、これまた善戦に対する温かい評価だろう。

【写真】第4クオーター、エンドゾーンに走り込むアラバマ大のRBファウラー=14日、テキサス(AP=共同)